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隣人を愛するために

大学生になって始めたバイト。
個人経営の、小さな洋食屋さんでの接客。

お昼も夜も、たくさんの人が訪れる。
土曜日の夜は、忙しい確率が高い。


開店前から全テーブル予約で埋まっている、
そんな日も多い。


嗚呼、どうやら今日は忙しい日らしい。
常に席が満席で、オーダーを取ったり、
カトラリーを準備したり、
料理を運んだり、
レジをしたり、
空のお皿を下げたり…

やばい、頭がごちゃごちゃしてきた。

そんなとき、急に耳に飛び込んできた、
ファンファーレみたいな音。

ドラムロールとトランペットの高らかな音に続くのは、
特徴的なギターとコーラス。

直感的にわかる、
「あ、ビートルズだ」



ビートルズとは、小学校以来の付き合いである。
当時は英語なんてさっぱりわからなかったけど、
直感的に彼らの音楽に惹かれた。


何を歌っているのだろうと
手を動かしながら耳を澄ますと、
実にのんびりとしたテンポで
"love, love, love…"と歌っている。

間もなくサビに突入し、
いい感じに脱力した
"all you need is love"
が聞こえてくる。

実は開店中は、60~90年代と思われる洋楽が
ずっとかかっている。

当然、"All You Need Is Love"が流れる前も
他の曲がかかっていた。

でも、忙しくてバタバタしていて、
お客さんの態度に軽く苛立っていた私の脳内に、
ビートルズはスーッと入り込んできた。

まるでビートルズが自分の周りで
"all you need is love"(必要なのは愛だけさ)
と語りかけてるみたいだ。

絶妙に脱力できるテンポと、
歌詞と、
彼らの歌声。


そうか、私に必要なのは、愛なのか。

手を動かしつつ、思考も音を立てて動き出す。


そういえば、キリスト教に
「隣人を愛しなさい」
って言葉があったなあ。


この言葉を聞いたとき、
「私にそれができるのか?できんやろ」
と絶望したのを覚えている。

小学校の高学年ごろから、
身の回りの理不尽、
社会の不条理、
人の言動に、
いちいち引っかかっている。

どうして私はそういうことに
腹を立てるのか、納得できないのかと、
最近考えている。

結局、自分が
「これはやるべきではない」
「人に迷惑をかけたらいけない」
という思考で、
周りの目を過剰に気にして動いているから、
人がルールや規則を破っているのを見て
「自分は守っているのにあの人は何で守らないんだ」
と憤ってしまうのだろう。

隣人を愛すということを、私は
「人を赦す」
ことだと解釈している。

だから、今の私にはすごく難しい。


じゃあどうやったら隣人を愛せるの?

人を赦す前に、
自分のことを愛して、赦してあげることが
必要なんだろう。

答えは出ているんだけど、
自分を赦すのって
私にとってはすごく勇気のいることで、難しい。
できる気がしない。

"all you need is love"
のフレーズが、体に響く。

ジョン、どうやったら
自分を愛せるのか教えてください。


とりあえず、毎日
"All You Need Is Love"
を聴いてみる?

とか考えつつ、目の前のバイトに意識を戻していく。

曲はとうに終わったが、
まだ私の頭の中には
"All You Need Is Love"が流れている。


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