廻り廻って【短編小説】【ホラー】
「久しぶりー。」
「あぁ、久しぶり。」
僕、青谷は昔の同級生の加藤と珈琲を飲んでいた。あたりはがやがやとしている。スマホを壊して連絡先を作り直して以来、数年彼とは連絡が取れておらず、ある日SNSのフォローをきっかけに会うこととなったのだ。
「元気にしてた?」
「ああ。」彼は相変わらずボソボソと寡黙に答える。「青谷、君は、元気にしてた?」
「あぁ、うん。なんとか働いて生きてるよー」
「そうか。」
「加藤くんはどうしてるの?」
「まぁなんとか、やってるよ。」
「そうかー。」
そんな他愛もない話から、やがて話題は哲学や宗教の話になる。もともと僕たちはそういう事を語らう仲だったからだ。
「だいたい死後の世界って二通りあって、」僕は言う。「そのまま天国に行くパターンと、輪廻って形でこの世に舞い戻っていくパターンがあるよね。」
「うん。」
「で、例えば宗教によっては輪廻自体が地獄で、そのカルマから抜けて解脱に向かうことが天国だ、みたいな話もあるよね。少しキリスト教の煉獄っぽい。」
「ああ。」
「どうなんだろうね。」
「というと?」
「死後の世界って国々によって全く違う所と一致する所があって、本当にあるのか、あるとしたらどうなのか、気にならない?」
「輪廻はあるよ。」
「そうかも、て、え?」僕は耳を疑った。
「輪廻は、あるよ。」加藤は笑みを浮かべて言った。「……しかも今まで僕らが知ってる輪廻とは全然違っていたんだ。」
「ええと、そうなの?」これはやばい勧誘なのか、と僕は身構えた。
「そう。輪廻は、死後に誰かに転生する、と言うだろう?実は違っていて、魂に時系列なんかない。どの時代にも、未来は勿論、過去にも転生するんだ。」
「ええ、ええ?」ちょっと興味を持ってしまう自分がいた。「でもそうなると、同じ時間軸上に、転生前と転生後がいたりもする、てこと?」
「そうさ。」そして加藤は懐から銃を取り出し、自分のこめかみを撃ち抜いた。
僕はその光景が信じられないでいた。今目の前にいる、かつて旧友の加藤だったモノがカフェの椅子の上で肉片を撒き散らしてうな垂れていた。にもかかわらず、カフェの中の誰も気にも止めず皆がやがやと話している。
「はあっ」僕は訳もわからず激しい呼吸をしてしまう。
「心配することないよ。青谷君。」
声が聞こえて振り向くと見知らぬ中年が微笑んでいた。「これはデモンストレーションなんだ。輪廻のことを説明するためのね。」
「え、お、お前が、加藤を、こんな風に、したのか、洗脳したのか」僕は震える顎で訳もわからずわなわなと言った。
「落ち着いて。この彼が死んだのは彼自身の意思だ。そして彼は僕に転生したのだ。僕が、加藤だよ。」中年は言った。
「え、ええ……?」
「僕が加藤だよ、わかるかな、うーん、そうだ、小学校の頃ペンをなくした君のために学校の先生から怒られる覚悟でペンを盗んだ、この加藤だよ。」
「え、か、加藤なのか……」僕はまだ信じられないでいるが、そんなしょうもない軽犯罪を実行したのはよく覚えている。「げ、元気?」
「まぁー元気だよ。ただ、」加藤と名乗る中年は首を左右に傾けた。「この人生面白くないなー。君と会えるだけで目標を果たしたようなものだよ。」中年は突然満面の笑みを浮かべた。「ふひ、ふひひひ、ふひひひひひ!!」
そして踊り狂いながらカフェの外に飛び出し、勢いよくトラックに撥ねられていった。
「青谷くん。」懐かしい女の声が聞こえた。幼なじみの皿田である。
「皿田ちゃん……!」
「青谷くん、どうしたの?顔色が悪いよ。」
「ああ、皿田ちゃん、もう訳がわからないんだ。」僕は自分を取り戻すように涙を流し始める。「加藤が、久しぶりに会ったかと思ったら突然死ぬし、転生した加藤だよ、て名乗る変なおじさんが現れて、それも死ぬし」
すると皿田は僕の耳元に顔を近づけて囁いた。「私が、加藤くんだったら、どう思う。」
「わああああっっ!!」僕は叫んで後退りした。よほどうるさかったのか、耳を押さえながら皿田ちゃんは言う。
「そもそも、加藤くんだって、誰かの転生なのよ。誰も彼もが転生で、つまり、そう考えると全ての人が一つに繋がってるってわけ。青谷くんも同じ。だから、」
次の言葉を言う前に僕はカフェの人全員が僕を見つめていることに気づいた。その彼らがにこやかに微笑み、皿田ちゃんと口を揃えて言う。
「みんな、青谷くんだよ。」
それからのことは僕は覚えていない。ただただ、無我夢中で走っていたことは記憶にある。そして足を踏み外してどこかの水の中に溺れてしまったことを。そしてそのまま死んだということらしい。
僕はやっと思い出せた。僕の前世は青谷だった。今僕は加藤だ。懐には銃がある。そうか、この銃さえあれば、僕が体験した真実を青谷に伝えることができるではないか。
僕はスマートフォンを取り出して、SNSで青谷の名前を検索した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?