清須市はるひ美術館に行きました

清須市はるひ美術館で開催中の「栗木義夫 CAULTIVATION-耕す彫刻」を見てきました。アーティストトークも開催だったので併せて拝聴しました。

栗木義夫という作家をわたしは今日の今日まで知りませんでした。どんな作品を作られるのか、何を得意とされているのか。全て何も知らないまま会場に向かいました。理由はアーティストトークがあるからです。わたしは人が集まるのが苦手で、イベントごとはなるべく避けて通ってきました。でもそれはやっぱりとてももったいないことです。特に芸術作品は、作家本人の肉声を聞けるのならば聞いておいた方がよいでしょう。記録もどんどん失われてしまうから。その作家が栗木さんだったのはたまたまですが、よいたまたまとなりました。

とはいえ、流石に作品を全く知らぬままに拝聴するというのも失礼な話です。午前中から出かけていき事前に作品を鑑賞しました。
栗木さんの作品は素材は鉄が中心で、今回の展示ではその他にもキャンバスや紙に描かれたドローイングや陶器のものもありました。が、やはり圧倒的に存在感があるのは鉄の作品です。展覧会のタイトル(Caltivation=耕す、栽培など)を象徴するかのように多くの作品には「うね」があります。その「うね」は一つずつ作家自らが溶接で取り付けたものです。長い時間を費やして作られた「うね」。アーティストトークで作家は「行である」と語っておられましたが、本当にこれは苦行ですよ。溶接って危ないし。
そしてうねを作る過程で巨大な鉄板は熱を帯び、自然とその形を湾曲させます。意図せず形成される自然の形が一つ一つ作品を作り上げていきます。素材に関わらず、自然に歪む様はわたしも好きです。わたしは鉄は好きではないけれど、事象だけを見つめればこの鉄は愛せると思いました。

展示の作品は一つ一つにキャプションがついているわけではなく、入り口で配布しているパンフレットに情報が詳しくありました。それらを読んでみると、巨大な鉄の作品の壁に掲示されているサビのついた紙のはこの作品を写しとったものなのだそうです。巨大な鉄をそのまま写しとるのですから、当然紙も巨大です。わたしの身長よりもはるかに大きくて、わたしの横幅よりもやや大きい。その巨大な紙一つ一つにはやはりうねがありサビがこびり付いている。失われていく作品の単なる身代わりの拓ではなくて、新たに生命を宿した作品でした。

アーティストトークでは作家ご本人の作品への向き合い方をお話しされていました(と思います)。
わたしは芸術家と呼ばれる人たちは大きく分けて2つあると思っています。片方は自分を外に発信していく人、もう片方は自分の奥に奥に入り込んで行く人です。栗木さんはどうも後者のような気がします。自分の作品に言葉を必要としておられないように感じたからです。ともかく難解。こうかもしれないと思った自分の予想は栗木さんの中では当たり前に全く違うものなのです。だから、良い。

溶接の時はさぞかし鉄臭いだろう、三十六時間かけて煮こんだ新聞もさぞかし強いインクのにおいだったろう。そうした一つ一つの経験を全部うちに秘めてひっそりとある作品は、とても愛おしいものでした。

2023.6/25まで開催中です。

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