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キートス・ガーデン幼稚園(現幼稚園・保育園)園長平野宏司先生に聞く(その3)...2009年船出、教育理念、英語プログラム目標


はじめに


「キートス・ガーデン幼稚園(現幼稚園・保育園)園長平野宏司先生に聞く」(その2)の続き(その3)です。2009年5月に行ったインタビューです。当園発足1か月平野先生の当園開設への理念を聞いています。そのままお届けします。

平野宏司先生略歴(2009年5月) 学校法人平野学園 教育企画ディレクター、 キートスガーデン(平野学園幼児教育部)園長 、大垣文化総合専門学校(IFS)教頭 、WWD(Women’s Wear Daily)日本特派記者


平野学園の成り立ち

鈴木:今回も引き続きキートスガーデン幼稚園の平野先生に幼児の英語教育につ いてお話をお伺いしています。まずは今年(2009年)の4月にオープンした幼稚園の 母体である平野学園について教えてください。

平野:現在高等学校と専門学校を運営していますが、元は戦争中の昭和19年 に、祖母が和洋裁学校を始めました。戦中戦後、手に職をつけたいという 女性が多い中でのスタートでしたが、当時の女性は少しでも格好のよいモ ンペをはきたいと思っていたそうです。祖母は開校後当時には珍しくフラ ンスに行ってファッションの勉強もしてきました。

鈴木:岐阜はもともと繊維やアパレルで有名ですし重要な産業ですものね。その 大垣市でファッションやアパレル関係の仕事をされていたのですね。

平野:そうです。当時は日本中北海道、九州、沖縄からこの辺りの工場に勤め て、洋裁を習いたいと、ずいぶんにぎわった町であったようです。

鈴木:今もデザイン関係の教育もしていらっしゃるのですか。

平野:はい。現在はその頃とはまるで様変わりしていますが、高校は生活デザイ ン科、国際ビジネス科の2科、そして専門学校には洋裁科と情報デザイン 科があります。あとは文化センターもあり、これはまさにLifelongで、小 さい子どもからご年配の方までが学んでいます。私はそこでは英会話の講 師をしています。 年配の方々は、戦争の影響で勉強できなかった世代ですが、本当に向学心 が強いですよね。実際教えられていてどうですか。 本当に頭が下がるというくらい勉強熱心です。ただの丸暗記ではなく、楽 しみながら学びたいということは常に思っていらっしゃるようです。

今幼稚園をオープンさせるのは

鈴木:大垣市で昭和19年以来教育に携わり、今回は幼稚園ということで、どう して幼児教育に関心を持たれたのでしょうか。このコーナーは、"For Lifelong English"と言いますが、実は幼児期というのは今まで欠けてい た部分です。まずはどうして幼稚園をオープンしようと思われたのでしょ うか。

平野:なかなか一言では言い表せませんが、自分がこの社会に役立てるとした ら、この幼児教育だと思いました。先ほどお話したように文化センターで はおじいちゃんおばあちゃんに、そして高校生にも教えており、ジャーナ リストとして様々な報道もしてきましたが、社会がさらに良い方向に変わ っていくには、小さい子どもたちが成長していく手助けをするのがいいの ではないか、と思いました。幼児教育こそ世の中を新しくしていく、良く していく基となるのではないかと。そう思っていたところに、一昨年くら い前から、聞くに堪えない事件が増えてきました。今非常に窮屈な社会で すが、世の中が変われば子どもも変わり、子どもが変われば世の中も変わ っていきます。仲間と協力して、自立できる、そんな子どもを育てていき たい。そういう考えがありました。まずは何にでも興味を持って取り組む こと、例えば、自分で本を読むとか、またはファーブルのようにじっと虫 を見ているとかいうように、やりたいことをやるという子を育てたい。そ れには初等教育やその前の幼児教育に携わることが一番良いと思いまし た。

鈴木:それで実際にフィンランドに行かれたのですね。

平野:はい。新聞記者時代のクセで、とにかく実際に当たってみようと思いまし て。そこで、幼児教育を短期間で学ぶことのできる場所を、今日本が必要 としている教育を実践していて注目度も高い北欧のフィンランドにないか と探しました。するとフィンランドのオウル大学がそのような研究をして いたのでアプライし、去年の1月から3月まで留学しました。フィンラン ドにはまったくツテはなかったのですが、色んな要因が幸いとなりました。まず、フィンランドは、自国民だけでなく外国人に対しても講座を無 料で開放しています。つまり、このフィンランド留学の費用は飛行機代だ けで済みました。また、フィンランド語と英語の両方ができる国なので、 例えばクラスに留学生がいることを確認すると、ぱっと英語に切り替えて 授業を進めてくれました。語学についても面白い国でしたね。

鈴木:元々北欧語と英語では、言語自体に大きな違いがないからということもあ りますが、フィンランドという国のおかれた歴史的、地理的状況を見る と、英語を使わざるを得ない状況があるのでしょうね。

平野:ええ。その自然な雰囲気が衝撃的でしたね。授業内容は、ひとつのコース の中からフィンランドの幼児教育についての研究を選び、現場をたくさん 見せてもらいました。フィンランドの教育、特に幼児教育は、フィンラン ドメソッドというくくりが出来ないくらい柔軟性が高く、シュタイナー、 イタリアのモンテッソーリ、アメリカのデューイらが提唱した様々な理論 をうまく組み込みながら自国の伝統に合わせていました。そういう柔軟性 がひょっとしたら日本での教育にも必要なのではないかと思いました。ま たフィンランドでは小学校や中学校も見せてもらいました。個性を大事に しながらも、個性だけに終わらず、やはり人間ですから組織の中で動ける ような仲間意識を育てます。キートスガーデン幼稚園で私もよく言うので すが、例えば英語の授業だからと言って、みんなを椅子に座らせてという 凝り固まった形だけではなく、最初はまず同じ部屋の中にいるだけでよし とする、そういうところから始めていかなければならないと思っていま す。また、シュタイナーの教育論から言うと、幼児期の英語教育は良くな いとされているのですが、子どもが将来幅広い視野を持ち人間形成をして いくためには、これからは幼児期から英語に触れさせる時代になってくる だろうという見込みをもっています。

鈴木:それも柔軟性ということですね。シュタイナーとはまた時代も環境も変わ ってきていますからね。

平野:今は言語というものが生活の中に入り込んでいま すし、幼稚園に英語を導入することも深く考えていかなければいけないと 思います。


キートス・ガーデン幼稚園 2009年4月開園時

キートスガーデンの目指すもの

鈴木:幼稚園の名称の「キートス」とはどのような意味があるのですか。 フィンランド語で「ありがとう」という意味です。

平野:私たちスタッフの考え では、ありがとうには2つの意味があります。ひとつは、周りのものや人 や自然に対して感謝の気持ちや敬意を持とうということ。もうひとつはそ れを伝えること。人間は仲間と行動する以上、「ありがとう」を思い、か つそれを伝えられる幼稚園にしよう、ということでこの名称にしました。 新しいというよりは昔から日本にもあったことを、あらためて教えられて いるようです。やはり思うと同時にそれを表現しなければいけない。思っている人はたくさんいても、それを表現する人は少ないですね。 キートスガーデンの様々な取り組みは、幼稚園の特徴づけとして行ってい るわけではなく、常に子供の30年後、つまり大人になったときのことを 考えた末に選別していったものです。

鈴木:取り組みには他にどのようなものがありますか。

平野:そうですね、まず自分自身の存在への感謝や、それに基づく他の人への敬 意や感謝ということで、体育に空手を取り入れています。これは、空手を 通じて相手に敬意を持つこと、どんな相手でも礼で始まり礼で終わるこ と、相手をしてくれてありがとうということを、心と体に覚えさせるもの です。 これは日本人がもともと持っていた心ですね。 我々もフィンランド方式と言いながらも日本を捨て去っているわけではな く、旧来の日本の形式だけだとちょっと窮屈になってきているので、それ に柔軟性をもたせています。だから伝統と柔軟性、この2面性を展開出来 たらと思っています。あと体育では「バルシュ-レ」という集団でやるス ポーツを導入しています。

鈴木:それはどういったスポーツですか。 ドイツ語で「バル」がボールで、「シュ-レ」が学校という意味です。こ れは、地元では岐阜経済大学の高橋正紀先生がハイデルベルク大学に1年 間留学されて研究していらしたスポーツです。日本では奈良教育大学が地 元の子どもを熱心に誘うなどして、今日本における中心的役割を担ってい るそうです。バルシューレでは色んな種類のボールを使い、そのボールを 投げたり蹴ったり放り上げたりします。スポーツ嫌いになるのは、ボール 等が当たって痛かったという辛い経験が原因であることが多いらしいの で、当たっても痛くないボールを使っているのが特徴です。ドイツでは幼 児期から小学校3年生時までバルシューレを行い、その後例えば「君は蹴 るのが得意だからサッカーへ」、「あなたは投げるのが得意だから野球 へ」、「君は泳ぎも出来るから水球へ」、というように、運動特性を検証 し、その後のアドバイスをするために開発されたスポーツだそうです。

鈴木:英語もボールと同じで、英語や日本語という区別からでなく、色んな言葉 の音でまず慣れる、という意味で考えると良いですね、柔軟に。

平野:そうですね。他には食育にも力を入れています。安全性の高い食べ物を与 えたいということに加えて、10坪ほどの畑で子どもたちが食べる食材を 子どもたちが育てています。子どもたちは協力して栽培し、先日は初めて のジャガイモ収穫をしました。 この頃は、受験戦争で個人で戦うことを教えていますが、社会というのは 個人では成り立たなくて、やはり一緒に立ち上がって、協力して物事を進 めなければできません。それぞれの個性を生かしながらも、共にひとつの 仕事を成し遂げる、そういうことに小さいときからグループで、ほかの人 と一緒にやってみようということですね。 スポーツでも、例えばかけっこが遅い子がいてもそれがその子の個性だと いう大らかさを子ども達に持ってもらいたいと思っています。もちろん健 全な競争というのは社会でも必要だとは思いますけれど。

鈴木:そこは柔軟性ということでしょう。ある点では勝つかもしれないけれど、 ほかのところでは負けるかもしれない。柔軟性というのは、多様性という ことですね。


園舎中央スペース 玄関、教室、給食室、トイレ、事務局は四方を囲むように 園児全員がすぐに集まれるよう工夫 (2009年4月)

幼稚園での英語教育のこれからの可能性

鈴木:キートスガーデンでの英語教育はどのようなものですか。

平野:現在は週2回で各1時間ほど行っています。身近に外国人がいるという環 境をつくる意味もあり、週に1日はネイティブによる授業を入れていま す。今のところ、子どもが楽しそうなので、こういう環境を作ったのは正 解だと思っています。この言葉やフレーズを覚えなさい、といった形式ではないのですね。 ええ、完全に遊びです。英語だけでなくすべての活動の経緯やコミュニケ ーションの過程で、遊びというのをとても大事に思っています。フィンラ ンドでは遊びを「レイキ=Leikki」と言いますが、無邪気に遊べる時期 は、子ども時代以外にありません。それだからこそ、とにかく遊びをさせ たい。そういう考えから、英語活動も遊びがベースになっています。

鈴木:遊びから学ぶということですね。

平野:遊びのほかにもうひとつ大切にしているのが、リアリティです。例えば、 大人はこれは椅子です、これは机です、という会話はしません。それより も、私はこれが欲しいですとか、これは私のものではありませんとか、普 段の会話の中に出てくる表現に重点をおいた活動をしていきたいと思って います。例えば、これは幼稚園では他に例を見ないようなものかと思いま すが、提携しているオーストラリアの幼稚園と、週3日間昼間はオンライ ンでずっと繋いで、お互いの様子や音声がオンタイムで流れるようにして います。これは英語教育のためではなく、環境として世界を身近に感じる ためのものです。オーストラリアは日本とあまり時差もありませんし、イ ンターネットを通じて日常の中に自然に外国の環境を作り出せます。子ど もたちが色々な経験をしたり、自立したりしていく中で、英語や異文化に 対して自然と幅が広がるでしょう。子どもたちも喜んでいて、スクリーン 上のオーストラリアの園児に笑顔で手をふったりHelloと言ったりしてい ます。教育だとHelloと言われたら、Helloと答えなければならないという 感じになりますが、キートスガーデンでは先方のキャンパスを環境の一部 として構成しているので、とても自然な雰囲気が作り出せています。

鈴木:オーストラリアでも日本語を勉強したいというニーズがあるのではないで すか。

平野:そうですね。オーストラリアは産業面でも日本との関係が深い国ですの で、日本語を必須科目にするところがあるほど勉強する傾向があるようで す。ですから向こうの幼稚園も興味を持っていて、こちらから向こうに 「ありがとう」と日本語で接することもひとつ、反対に英語で遊ぶという ことも活動のひとつだと思っています。

鈴木:イベントを一緒にやるなど具体的な企画はありますか。

平野:普段はバーチャルな環境ながら、あたかもスクリーンの向こうに豪州の幼 稚園の部屋がもうひとつリアルにあるような感覚で子供達が接してくれれ ばと思っておりますが、ゆくゆくはイベントも考えたいですね。例えば、 お互いに歌を発表するのもいいですし、もっと自然に、「野菜の芽が出て きたからこれを見て」とか、「スポーツ大会で走るから見ててよ」とか、 日本の桜の木を見せながら「そちらにもこういう木はある?」とか、そう いうリアリティがあり、なおかつ自然にお互いにコミュニケーションが出 来るようなことをしていきたいと思っています。

鈴木佑治の感想

先日、出来上がったばかりのキートス幼稚園を訪問させていただきまし た。田園風景の中に青々とした芝生が敷かれた庭に囲まれて園の建物が あります。中に入ると自由に動ける大ホールが真ん中にあり、それを囲 むように小さな小部屋が四隅にさりげなくありました。先生たちの目が どこからでも届くよう工夫されています。園児たちは私を見つけるやす ぐ近くに寄ってきて大きな声で挨拶をしてくれました。のびのびと自然 に遊びまわれる空間で、岐阜経済大学の高橋正紀先生を囲んでバルシュ -レというボール遊びに興じていました。その流れを断ち切ることなく ごく自然に英語を使った遊びが展開され、これにも子どもたちは没頭し ていました。ふと見ると園長の平野先生に園児たちが抱きついたり手を握ったりして話しかけています。こんなに大勢の子どもたちの笑顔を見るのは久しぶりです。



2024年鈴木後記インタビューから15年大垣に根付き世界へ飛躍

筆者はあれから15年、毎年5回催される主要行事に出席し英語コミュニケーション活動に参加し園児さんたちの習熟度を観察します。各行事の前後に平野先生や英語の先生たちと英語活動、教材・教授法開発について意見交換をします。すべて手作りハンズオンであることは素晴らしいことです。15年間の歩みについては「キートス・ガーデン幼稚園・保育園、英語で発信活動Lifelong Englishに向け「よーいドン」“Ready Set Go!”」(前編)(後編)、そして、2キートス・ガーデン・幼稚園・保育園は公式サイトにあります。


Kiitos Englishの15年間の活動記録 (鈴木資料)


活動で使用された単語・句・文リスト (鈴木分析)、Kiitos開発単語教材例

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