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【コラム】"新参者"ニューカッスルがサン・シーロから持ち帰ったもの

ニューカッスル・ユナイテッドが遂に欧州最高峰チャンピオンズリーグに帰ってきた。

初陣の舞台となったのは、イタリアはミラノに聳える伝統のサン・シーロ。「ACミランとのアウェーゲーム」という、いかにも“CLらしい”響きが心地よい。

チケット争奪戦を勝ち抜き海を渡ったジョーディ数千人は前日からミラノの街を占拠し、パブやレストランにはノースイースト仕込みの野太い歌声が響き渡る。サンドロ・トナーリのチャントにある、モレッティを飲みながらスパゲティを食べるという、外国人がイメージする典型的なイタリア人像を、実際に"やってみた"人たちも多くいたはずだ。合間合間でサンダーランドをディスるのはご愛嬌。

試合までに体力を使い切ってしまいそうな程のどんちゃん騒ぎをファンが繰り広げる裏で、選手達にはちょっとしたトラブルも襲いかかっていた。月曜日の午後にはミラノに到着しグラウンドで調整を行う予定だったが、悪天候により飛行機が離陸できず、数時間到着が遅れてしまう。結局セッションは中止となり、20時までに監督と選手1名が出席しなければならない前日会見も、21時過ぎに遅れてスタートする波乱含みの遠征初日となった。

トナーリ・ダービー

ご存知の通りニューカッスルとミランは、バンディエラ候補であったサンドロ・トナーリの移籍でこの夏に一悶着あった、因縁のカードである。だが物議を醸した取引から僅か2ヶ月半で直接対決が実現するとは、誰も予想していなかっただろう。

無論多くのミラニスタが、トナーリのニューカッスル行きにはミラン内部の問題が大きく影響したことを理解している。本人に対するブーイングなどネガティブな反応は一切なく、ウォームアップ中には大合唱でミラン時代のチャントが歌われ、試合前にはトナーリのユニフォームを着た両チームのサポーターが一緒に写真を撮ったりと、初顔合わせとなる2クラブがトナーリを中心に距離を近づけるかのような雰囲気すら感じられた。前日にミラノの街で目出し帽を被った男にニューカッスルファンの男性が刃物で刺されるという物騒な事件こそあったが、基本的には予想していたよりも和やかな雰囲気でキックオフを迎えた印象である。

ちなみに両者は初顔合わせとなる。20年前にミラノで試合をした時の相手はインテルで、ACミランとは歴史を遡っても公式戦の対戦がない。2013年にスティーヴ・ハーパーの退団記念で行われたイベントで、往年のレジェンド同士が合間見えたことこそあったが、ガチンコ勝負は初めてだ。歴代2位の欧州制覇7度を誇るミランは、もちろんニューカッスルにとって雲の上の存在である。

とはいえそれらは全て過去の話。いざピッチに立てばタイトル獲得数は関係ない。大谷翔平よろしく、憧れるのはやめましょう。21年分の鬱憤を晴らすべくサン・シーロでの戦いがキックオフを迎えた。

耐え凌いだ末のドロー

CLの舞台で一発かましてやろうというファンの願いとは裏腹に、エディ・ハウ監督は予想以上に堅い戦い方を選んできた。一昨季のイタリア王者であり、昨季CLベスト4でもあるロッソネロをかなりリスペクトした印象だ。

陣形こそいつも通りの4-3-3ではあるものの、リーグ戦で見せるようなハイプレスは控えめで、どちらかといえば4-5-1のような形でブロックを作って中央を割らせないことに重きを置いていた。逆にミランも中盤でボールを受けに来る動作は少なく、両ウィングの個の力で打開を図るシーンが多くなっていく。

ホームチームは序盤から左のラファエル・レオン、右のサムエル・チュクウェゼが交互にクロスを供給しチャンスを演出した。中には空中戦にめっぽう強いオリヴィエ・ジルーが待ち構えており、ニューカッスルが中央のケアに手一杯となったところ、手薄になった逆サイドを有効活用されて前半からピンチの連続となってしまうが、GKニック・ポープを中心に守備陣が決死のシュートブロックを連発。前半だけで6セーブを記録したポープは、まさに殊勲の活躍だったと言える。

逆に攻撃時には、なかなか前に推し進めない時間が続いた。アンカーのブルーノ・ギマランイスがルベン・ロフタス=チークに、右IHのショーン・ロングスタッフがトンマーゾ・ポベガに、そして開幕後初めて左IHに入ったトナーリがラデ・クルニッチにマンマークを受け、フリーになることが出来ない。

守備をサボりがちなレオンのサイドでトリッピアーが高めの位置でボールを受けるものの、中盤3人が執拗なマークで無力化され、ボールを受けに降りてきたアレクサンデル・イサクにもセンターバックのどちらかがピッタリくっついてくる。マークの受け渡しの質が高く、ニューカッスルはこの4人が良い形で前を向けるシーンを作ることが出来なかった。足元のテクニックに優れ、ターンで局面を打開できるジョエリントンの不在は大きな痛手である。

後半に入ると少しずつニューカッスルがボールを持てる時間も増えてくるが、肝心なところでのミスが出たり、セットプレーを有効活用できなかったりと、攻めてもシュートで終われない時間帯が続く。ミランはミランでシュートこそ放つもののコースが甘く、本当の意味でポープを脅かすような場面は少なかった。

ハウは72分にトナーリを下げてアンダーソンを投入し、守備強度を犠牲にしてでも点をとりに行く意思表示を見せると、疲れが見え始めていたゴードンとマーフィも下げ、アルミロンとウィルソンを投入。ストライカーとしてスタメンだったイサクを左WGに配置転換し、より流動的な攻撃を期待した。

献身性に定評があるアルミロンとウィルソンはフレッシュな足で相手にプレッシャーを与え続け、攻撃時にはスピード感溢れるカウンターで右サイド突破も試みたが、テオ・エルナンデスの裏をとってもミランのCBフィカヨ・トモリに絶妙なカバーリングで対応されてしまい、全く仕事をさせてもらえない。

逆に疲れが見え始めていたイサクが左サイドに回ったことで、スピードの無いLBダン・バーンのサポートが手薄となり、ミランに右サイドから攻勢を仕掛けられる場面が増えていく。この日のイサクは前線のプレスのスイッチャーとなっただけでなく、頻繁にセンターサークル付近まで降りてきてボールを受けようとするなど、常にピッチを駆け回っていたが、徹底したマンマークを90分間受け続けて激しく消耗していた。ニューカッスルに入団して以降、あそこまでイサクが疲弊していた記憶は無い。走ることすらままならなくなった彼に気を遣ってか、ウィルソンが自発的に左サイドでディフェンスに協力する場面も見られ、結局イサクは後半アディショナルタイムにハーヴィー・バーンズとの交代でピッチを去っている。

両者決め手を欠いたこの一戦は、結局スコアレスドローでホイッスルを迎えた。終了間際にロングスタッフの強烈な右足がミランのゴールを捉える場面もあったが、相手GKのファインセーブに阻まれ、劇的決勝ゴールとはならなかった。

手土産の1ポイントと、唯一無二の経験

選手のほとんどがCL初出場、もしくは非常に経験が乏しい現状を考えると、初戦であり、しかもアウェーのサン・シーロという環境で行われたこの一戦はクラブにとって近年で最も難しいゲームだったはずだ。更には悪天候による試合前日のゴタゴタもあり、決して良い状態で試合に挑めた訳では無い。エディ・ハウ監督やコーチ陣にとっても全てが初めての経験だ。

そもそもチャンピオンズリーグでは、いかにホームゲームでポイントを稼げるかが重要である。18-19シーズンに優勝したリヴァプールさえも、グループステージのアウェーゲームは全て落としている。逆にホームでは3試合では全勝の勝ち点9を獲得し、ベスト16進出を決めていた。

浦島太郎状態のマグパイズにとっては、場の空気や、欧州遠征の手順に少しでも慣れることが出来たなら、それこそ最大の収穫だろう。週末のリーグ戦からの回復、遠征先での準備の進め方、そして相手チームのサポーターからの圧…サン・シーロでこれを経験し、おまけにに勝ち点1も持ち帰ったのだから、まったく悲観する必要は無い。

10月第1週に控える第2戦では、ホームにパリ・サンジェルマンを迎える。本格的に3ポイント獲得を視野に入れるべき一戦で、選手たちがどんな試合をファンに見せてくれるのだろうか。実に楽しみである。

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