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【コラム】"アディダスとニューカッスル・ユナイテッド" かつての黄金コンビ復活に高まる期待

9月1日、ニューカッスル・ユナイテッドとアディダスが、来季以降のユニフォームサプライヤーとして契約を結んだことが発表された。

2021年からパートナーシップを築いてきたイギリスの新興ブランド「カストレ」との契約は本来まだ数年残っていたと考えられているが、クラブ側はこれを早期に打ち切り、アディダスへの乗り換えに踏み切ったという。

「アディダスとの提携は、クラブの歴史に残る多くの名選手や指導者、激闘の記憶を蘇らせるものだ。再びタッグを組み、今度は刺激的な未来を共に創り上げられることに喜びを感じている」

「このクラブはファン、オーナー、そしてスポンサーのサポートにより、素晴らしい旅の途中にある。アディダスが仲間に加わる来季も、その旅を続けられることを楽しみにしているよ」

ダレン・イールズCEO(ニューカッスル・ユナイテッド)

ニューカッスル・ユナイテッドの近代史は、アディダス抜きに語ることはできない。1995年に初めてサプライヤーとなると、それから15年間に渡り関係は続き、いくつものアイコニックなキットを世に送り出してきた。マンチェスター・Uとの熾烈な優勝争いや、チャンピオンズリーグでのバルセロナ撃破、そして3連敗から奇跡のGS突破といった印象的なシーンにはいつも、選手たちの胸元に輝くスリーストライプスのロゴがあった。

当時クラブのオーナーだったサー・ジョン・ホールによれば、ドイツを代表するスポーツブランドとの関係は、単なるサプライヤーの域を超えた密接なものだったようだ。

「単なるお金の取引ではなく、そこには人と人との信頼関係があったんだ。いつだって僕らにアドバイスをくれたし、試合を見にきてくれていた」

「フットボールの世界に飛び込んだ時、まだ新参者だった我々を助けてくれたのさ。選手を買いたい時には、スポンサー収入で後押ししてくれたりと、本当に力を貸してもらったよ。彼らはこれ以上ない存在だったし、クラブにとって素晴らしいことだった」

ところが徐々に財政面が悪化し、2007年に経営権が実業家マイク・アシュリーの手に渡ったのを機にクラブが完全な低迷期に突入すると、アディダスとの関係性も変化していく。08-09シーズンに降格の憂き目にあうと、チャンピオンシップを戦った09-10シーズンを最後にアディダスとは袂を分つこととなり、それ以降11年間はプーマ、そして2021年からはカストレと組むことになったのだ。

だが、彼らがアディダス以上にジョーディ達の心を鷲掴みにすることはなかった。アディダス復活待望論が絶えることはなく、毎年のようにアディダスのロゴが入った仮想のユニフォームデザインもネット上に出回っている。

こうした背景を考えれば、クラブ幹部の1人であるメルダッド・ゴドゥシが、アディダスとの再契約を"昔の恋人との復縁"と表現(アマゾン・ドキュメンタリー内で発言)したのも頷ける。開幕4試合3敗のスタートダッシュ失敗を受けて意気消沈していたニューカッスルのサポーターにとっても、ここのところで最も喜ばしいニュースだったといえるだろう。

伏線だらけだった再会

アディダスとの再会は、どのようにして実現したのだろうか? まずはそのバックグラウンドに迫っていこう。

アディダスとツーカーのCEOとCCO

現在ニューカッスルのCEOを務めるダレン・イールズと、昨年幹部に加わったピーター・シルヴァーストーンは、いずれもアディダスと旧知の仲である。

イールズは2022年の夏よりCEOの職に就いているが、それ以前に代表を務めたアメリカのアトランタ・ユナイテッドでアディダスと関係がある。同クラブがMLSに参戦した2016年から、サプライヤーとしてパートナーであり、そのコネクションがアディダスとニューカッスルを結び付ける重要なファクターであったことは言うまでもない。

アトランタ・ユナイテッド会長時代のイールズ

一方のシルヴァーストーンは、前職アーセナル時代にアディダスとのビッグディール成功により名を挙げた、大型契約の請負人である。それまでのサプライヤーであったプーマと比べて約2倍の契約金(6000万ポンド/年)でアディダスへの乗り換えに成功し、クラブに大きな収入源をもたらしたのだ。それ以外にもエミレーツ航空と巨額のスポンサー契約を成功させるなど、ミケル・アルテタ体制で復権の兆しを見せるガナーズの基盤を裏で支えていたのがシルヴァーストーンだった。

昨年よりニューカッスルに加わった彼が受け持つ役職はCCO(コマーシャル・オフィサー)。聞きなれない3文字だが、日本語で言うところの"商業部長"のような役割だ。

実際に彼が就任してから、中東のオンラインショッピング王手である「noon」や、サウジアラビアの航空会社「Saudia」、さらにはエナジードリンク界の巨人「Monster」など、続々と大企業とのパートナーシップが実現している。

ビッグディール請負人と言える敏腕CCOが加入した昨年末の時点で、カストレからの脱却、そして大手スポーツブランドと再びタッグを組む可能性は高まっているという味方は強まっていた。今年1月にはアディダスの担当者がセント・ジェームズ・パークへ招待されたことも明らかになっており、将来的なコンビ復活は実のところ時間の問題と考えられていたのだった。

8月に公開されたアマゾン・ドキュメンタリー「We Are Newcastle United」では、この2人を中心に経営陣がドイツにあるアディダスのヘッドクオーターを訪問し、契約をまとめる様子が収録されており、ファンは必見の内容となっている。残念ながら日本版はまだ登場していないので、公開を楽しみに待とう。

アディダスとの契約で期待できること

旧友との再会はもちろん嬉しいニュースだが、経営陣がカストレとの契約を早期に断ってまで今回のパートナーシップ締結に漕ぎ着けた理由はどこにあるのだろうか。来季以降期待されるメリットを詳しく見ていこう。

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