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「音楽ジャンル論」論(私だけが持つジャンルイメージについて)

ジャンル論、好きですか?

 音楽のジャンル論は好きですか?私は好きです。この時点でムムッとなる方も居るかと思うのですが、話を聴いて下さい。ジャンル論と言うと「このジャンルとこのジャンルを混同するなんてとんでもない」という正統主義か、「ジャンルなんかにこだわらず自由に音楽を聴き、感じるべきだ」という感覚主義に意見が二分しているように世の中を観測しています。個人的に。先日は音楽の教科書に往年のロックバンドが沢山載っている、というバズツイートに対して「QUEENはプログレじゃない!」なんてツッコミが入って盛り上がっていました。これは正統主義からのツッコミですね。気持ちは分かります。これに対して、感覚主義の立場をラディカルに取るならば「バンドをいちいちジャンルに分類するな!」という事になるでしょうか。

 さて、「ジャンル」という枠組みについて、私は以下の二種類を想定しています。一つは教科書的な「客観的」で「正しい」とされる分類を指す正統主義的ジャンル。もう一つはごく私的な認識の枠組み、「私が特定のジャンル名に対して抱いているイメージの総体」としてのジャンルです。で、私が好きなのは後者のジャンル論なのですね。後者については、前述の感覚主義とベースは同じなのですが、その「感覚」を言語化した先で明らかになるイメージを考えて頂きたい。

例題:「アシッドジャズ」

 「ジャズ」というジャンル名があります。そして同じジャズという単語を含む「アシッドジャズ」というジャンル名があります。私は「アシッドジャズ」という単語を聴いた時にあまりジャズをイメージしません。(でもアシッドジャズは大好きです。)この「アシッドジャズという単語に対してジャズをイメージしない」というイメージ内容が、つまり私にとっての「アシッドジャズ」イメージであり、同時に「ジャズ」イメージの一部ということになります。アシッドジャズという界隈と単語に絡む諸々は結構入り組んでおり、私も詳しくはないのですが、

・アシッドジャズ界隈のDJ達がいわゆるクラブジャズ的な音楽(これは元来の「ジャズ」音源からダンスミュージック解釈が出来る楽曲を発掘したもの)を流していた事
・アシッドジャズ界隈のレーベルから発売される音源がジャズというよりはソウル/ファンク的な要素を多く含んでいる事(これに関してはジャイルス・ピーターソンが”Talkin' Loudはソウル・レーベルだと思っている。もちろん、リリースによってはジャズの要素が入っているものもあるけどね。”と発言しています。GROOVE 2001年3月号のインタビューより)
・音楽性としてフュージョン/クロスオーヴァーに共通する要素があるが、フュージョン/クロスオーヴァー自体もジャズの一部として扱われたり扱われなかったりする事(あとアシッドジャズ界隈のDJもフュージョンを流していたりした)
・アシッドジャズのレーベルから実際に元来のジャズの延長線上にあるバンドの音源も発売されている事 例:Acid Jazzから発売されたThe Beaujolais Band

など様々な要素が絡まっております。で、この音楽要素的にはソウル/ファンク的なアシッドジャズ界隈レーベル発の音楽(The Brand New Heaviesとか)を「ジャズっぽい」「ジャズだ」と感じるという方は結構居るんですよね。これは私が持つものとは異なる種類の「アシッドジャズ」「ジャズ」イメージです。さて、ここからは個人的な予想、推測、妄想です。そのようなジャンルイメージに至るプロセスとは。
 
 まず元来の「ジャズ」が指す音楽性を主要に含まないバンド/楽曲に「アシッドジャズ」というジャンル名が付与されました。その「アシッドジャズ」の流行により、あまり元来の「ジャズ」を聴いて来なかった、「ジャズ」という単語のイメージが未だ空白であるリスナーがその語感からアシッドジャズをジャズであると認識する。結果、「ジャズ」という単語のイメージにアシッドジャズ的な音楽が主要な位置を占めるようになる。……そんな感じじゃないかと予想しています。そして、この、「ジャズという単語のイメージをトラウマ的に決定する出会い」こそが重要なのです。

個人的ジャンルイメージにおいては、全員が優勝

 さて、ここで強く申し上げたいのは、この「アシッドジャズはジャズである」というような教科書的/正統主義的には正しくないかもしれない個人的なジャンルイメージをこそ、胸を張って大事にするべきである。それこそが自分だけが持ち得た、アイデンティティとも言える個人的音楽感覚である。という事なのです。そして私が言う「ジャンル論が大好き」とは、「誰かが、その人生においてどんな聴取体験をしてきたが為に、あるジャンルに対してその人特有のイメージを抱くようになったのかを知る事が大好き」である事を意味しています。これが言いたかった。これを言う為にこんな長文になってしまった。そして同時に「自分がなぜ特定のジャンルに対して特定のイメージを持っているのか、自己分析して自分だけのルーツに辿り着くのはめちゃくちゃ楽しい」という事を伝えたい。

 ついさっきシャワーを浴びながら「エリア88 ミッション・サイバートランス」というアルバムを流してサイバートランス最高だな……という気持ちになっていたのですが、例えばここで、なぜ自分はこういうサウンドが好きなんだ?と疑問に思う訳です。そこにはきっと何らかの原因がある。このジャンルへのトラウマ的な接触機会がきっとある。考えた結果、「初期beatmania IIDXの収録曲にはトランス系の曲が結構あり、それを長時間プレイした事で耳に馴染んでいるから」であると結論付けました。
 これは、似た経験をした方はきっとそれなりに居るとしても、何にも替え難い超個人的なルーツです。それを大事にしたい。そして同時に、誰かが特定のジャンルへの特定のイメージを持つようになった原因や経緯をただ聞いてみたい。私はこういうイメージだけど、あなたはこういうイメージ。あれも良いね、これも良いぞ。と互いのズレを楽しみたい。互いの好きを共有したい。そういう事をいつも考えています。なのでジャンル論は良いぞ!!!!!!と言いたい。その楽しさを広めたいのです。

余談、電波ソング100曲MIXについて

 そして余談ですが、以前からnoteでコメンタリーを書いている電波ソング100曲MIX「私の思う、私だけが持つ電波ソングというジャンルへの個人的イメージの総て」を形にするために選曲し、録音したMIXでした。これが私のジャンル論。これが私のジャンル語り。これが私のジャンル愛です。そして同時に「あなたのジャンル語りを聞かせて下さい」という願いを最大限に込めたMIXです。DJ MIXは同じジャンル、同じテーマで録ってもその人の個性が出るのが面白いと思います。それこそが「個人的なジャンルイメージ」の表出です。ぜひお願いします。この人また電波ソングの話してる……。

 以上です。

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