まつろわぬ民と消された神話群

藤巻一保『古事記外伝 正史から消された神話群』(学研2011年発行)

読んでてまだ序盤だけど最初っから面白くて興味をそそる。

俺自身はふんわりとイメージでしか持っていないが、古代日本における国津神と天津神の勢力争い、土蜘蛛の一族などへの関心があったので、この本にそういったことが書いてあるのかなという期待感を持って読み始めた。

題にもある「正史から消された」ということだから歴史の中でどうしても出てきてしまう勝者と敗者の別について思いを馳せてしまう。西洋ならキリスト教が広まるにつれて、土着の信仰が文化の表舞台から次第に姿を消していった、という歴史の流れがある。消えつつも、ちょびっと残存する。たとえばハロウィンやクリスマスに「キリスト以前」の文化の名残りがぼんやりと残っているのがおたくには馴染みあるだろう。


遠い遠い昔の話でどうしても現代からは判らないことが多いので、この手の話はオカルト・スピリチュアルじみてきて本なんかでも個人の空想・妄想が入りがちなので割り引いて読む必要がある。

「まつろわぬ民」という言葉がある。


以下weblio辞書―実用日本語表現辞典より


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まつろわぬ民
読み方:まつろわぬたみ
別表記:順わぬ民、服わぬ民

平定事業において抵抗を続け、帰順しない民族。などの意味の表現。「古代において蝦夷の民は、王朝にとり、まつろわぬ民であった」などのように用いられる。

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天皇を頂点に抱く王朝に対して抵抗をして、従わない民…その一種が土蜘蛛という蔑称で呼ばれた。土着の豪族など。

今でこそ日本という一つの国、民族、建前上は一枚岩と見られている節があるけれども、時代を遡ればそうではなかったんだなということが想像できる。この辺の話題を掘っていくと保守層の殿方にお叱りを受けます。おまえは分離主義者か。分離派の夏。用語が似ているが分離派と分離主義とはまるで異なる意味があるようだ。その他、もののけ姫なんかもこういった古代史を踏まえている…という深読みをする人たちがいる。宮崎アニメは深いね…。きりがないね。

ここまで書いてまだまだ『古事記外伝』の話には全然入ってませんでした。個人的に期待する、「そっち方面の話が入っているとよいな~」という期待がある。最終章が『国譲りの真実』と題されているので、期待できそうな気がする。はよ読めや。

『第一章 謎の神ヒルコ』


はいやって来ました。みんな大好きヒルコさん。蛭子。蛭といえば、の真夜中の絶望。ずとまよ。泥門デビルバッツ。奇妙な漫画家、蛭子能収さん。

イザナギとイザナミが子供をつくったんだけど第一子である水蛭子(ヒルコ)が不具者(変換できない。差別用語?)として生まれてしまい、捨てられるという悲しいエピソードがあります。
水子供養はこのヒルコに由来するとか。現代では生まれる前に胎児が障害を持っているかどうか出生前診断する技術が発達している。

ブラックジャックによろしくで不妊症で悩む夫婦がついに子供を授かるものの、ダウン症の子で親がなかなか事実を受け入れられないというエピソードがあった。先進国ほど晩婚化が進み、それに比例して出産年齢も高くなっている。父母どちらも年齢を重ねるごとに障害を持った子が生まれる率が上がるというのは悩ましい現実だ。


脱線した。


ヒルコについては、どろろとか貴種流離譚とか大塚英志・田島昭宇『MADARA』とかほかにもいろいろあるけど広がりすぎて散漫になるので戻す。


本の中から印象に残った部分を引用しておく

以下、古事記外伝 第一章より

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皇室では、いまも棺桶のことを「舟」といい、納棺を「御舟入」と呼ぶ。辞書類には、御舟入は天皇家など高貴な人の納棺のことをいうと説明しているが、それは近代以降の話で、古くはもっと一般的な表現だったらしい。江戸時代に書かれた『俚言集覧』には、「伊勢にて土民らの柩の如きをみなふねという」とある。棺を舟(船)と呼んだのは、舟が死者の国である海に送るための乗り物だからだ。

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葦はこれからイザナギ・イザナミが造りあげるはずの葦原中国を象徴する植物で、いうなればこの世のシンボルだ。ヒルコが葦船で流されたということは、葦によって象徴されているこの世から、海というあの世に流し去るという意味をもつ。

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葦神事は、津島神社(津島市)、熱田神宮(名古屋市)、牛頭天王社(豊橋市)など愛知県内の神社で、広くおこなわれてきた。

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国生みの神話の冒頭にはジェンダーロールを感じさせるような部分(聖書の失楽園エピソードでもある)があるが、本書では天皇家の歴史が始まる前の日本には男女による「二頭体制」の政治があったのでは、という話もされている。


序章の中で、記紀においては記述の少ないヒルコのエピソードでありながら、想像力を膨らませ、やってきたところがまたすごい。
ヒルコは太陽神の子だった。ところが何かしらの理由でその属性を剥がされ、穢れの存在として落とされ海に流された。
この部分は読んでて興奮した。そこまで神話に詳しくないので余計に新鮮みがある。

該当部分引用
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松本信広氏や三品彰英氏の研究は特に有名で、日本神話研究の土台となった。(中略)
太陽神や太陽神の子が、箱船やうつぼ船などに乗せられて漂流すると言うタイプの箱船漂流型神話も、広く世界中に見られるものだが、松本信広氏は、こうした神話が東南アジア各地の海人族系に広く分布していることを示したうえで、ヒルコ神話も、もともとは船に乗った太陽神の子が漂流するという神話だったろうと推測している。

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面白いのでいろいろメモしておきたいことや先も気になるが掃除と食器洗いとご飯の準備があるのでこのへんで。

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