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~私は何者かになるのか~<2>

マイナポータルハッカソン参戦記

 先日、デジタル庁主催のマイナポータルハッカソンに友人と二人で参加しました。マイナポータルを使って社会をよくするサービスを提案して競うハッカソンです。

ハッカソンとは、ハック(hack)とマラソン(marathon)を組み合わせた造語とされ、 プログラマーや設計者などのソフトウェア開発の関係者が、 短期間に集中的に開発作業を行うイベントを指す

 えっ、浪人生なのに? そうです。2月上旬の高校の卒業式の日に友人と、面白そうだから出てみようという話になって、その後二人とも大学に落ちて予備校生活になったのに、5月に半分ノリと勢いで応募しました。高校の時から時事系の話で盛り上がっていた私たちは、デジタル庁主催のハッカソンと聞いて飛びつきました。河野大臣から賞状をいただきたかったですし・・・・・・。友人がプレゼンと資料作成を現地参加で、僕がオンラインでプログラミングという役割分担で臨みました(Nくん、予備校1日休んで行ってくれてありがとう)。

 最近、マイナポータルで家族の銀行口座情報を登録してしまう事例が相次いでいるという話が取り沙汰されていました。私はまだ決済アプリの認証くらいでしか使ったことがないですが、市役所に行くとマイナンバー対応のデスクは多く用意されていて、本当に国の一大プロジェクトなのだなと感じます。今は問題として取り上げられることも多々ありますが、時間が経てば問題ごとも次々に解消されて、マイナポータルがあらゆる手続きのベースとなる、新しい"普通"が生まれるのだろうなと考えています。

 さて、そんなマイナポータルを使って新しいサービスを創出するという今回のハッカソン。私たちが提案したのは、先日政府の子ども政策DX推進チームが開発の方針を発表した、子育て支援情報アプリの一つの機能としての、「保育園・幼稚園マッチング」です。待機児童の問題はかなり改善されてきたとはいえ、依然として保活が大変であったり、子育てに関する支援情報が錯綜していたりと、行政が取り組むべきことは多いと思います。また、保育士の業務を軽減するためにも、子育て現場のデジタル化は急務だと考えます。当初はこれらを踏まえて「子育て総合アプリ」と銘打って開発をしていたのですが、2分30秒のプレゼンでは多くを語ることはできないため、どうやって内容を絞ろうか悩んでいました。しかし発表日の5日前に子ども政策DX推進チームのアプリ開発の報道があり、このアプリに便乗する形で、全員が条件に合う保育園・幼稚園に確実に入るためのマッチング機能を考案しました。「先日政府が発表した・・・・・・」と言えば、とりあえず支援情報の必要性は伝わりますし。

 「マッチング」と聞くと、ありきたりな感じや、ちょっとした胡散臭さがありますが、マイナポータルをベースにした保育園・幼稚園マッチングを導入する利点は大いにあると考えます。熾烈な保活競争で公平性を担保するには、確実に1世帯1アカウントの制約が必要です。これはアプリの認証にマイナンバーを使えば、世帯情報の取得で実現可能です。また保険証を始めとする個人情報の提出も楽です。世帯情報から一つの"親"アカウントを作るとアプリ機能の利用がはじまり、そのアカウントの中に対象年齢の子どもの数だけ"子"アカウントが作られます。  

 新生児にもマイナポータルが開設されることもアプリ運用上のメリットと言えます。アカウントから希望の条件を選択すると、自宅と勤務地との距離も含め、最適な保育園・幼稚園を提案します。しかしマッチングはここで終わりません。各世帯から送られた情報を元に、全ての申請者が希望に沿う保育園・幼稚園にはいれるように、組み合わせマッチングを行います。最小費用流問題に帰着させて、PuLPのCBCソルバーで・・・・・・という技術的な話はおいておいて、とにかく全員の最も最適な場所、2番目に最適な場所を組み合わせて全員納得の組み合わせを算出するというイメージです。申請してしばらくたってから唐突に「この幼稚園に通え」、だと乱暴すぎる気がしますが、第3候補くらいまで表示したうえで、これらのどれかになることを了承して回答を送信する、という仕組みならと思いました。

提案したアプリの仕様(ホームとアンケートページ)
300人と7施設の擬似データを作成し、募集定員、住所と職場からの距離を考慮しつつ、
他4つの希望条件が全員最大限通るようにマッチング(OOOXは条件が通ったかどうかを表示)

 保育園・幼稚園に入園するのは、小学校以降とはわけが違うと思います。まず義務ではないため待機児童なる問題がありますし、送り迎えもあるため親によって希望条件は様々です(希望とか言ってられる状況でもない)。幼稚園でできるコミュニティでは小学校の情報や入学の流れが分かるのに、幼稚園に入るまで家庭によっては情報を得るのが難しいと思います。情報収集が上手い人もいれば、上手くない人もいて、お仕事によって保活に充てられる時間も人さまざまです。だからこそしっかり情報にリーチできる環境を整えて、保活の大変さを軽減して、子育ての入口を楽にする必要があると思います。しかし子ども政策DX推進チームが準備を進めるアプリは今のところ、情報集めが上手い人だけが使う、ただのツールになるような気がしています。情報を提供していても、使ってもらえなかったら、情報集めが下手な人が悪いのではなく、使ってもらえなかった行政が悪いことになります。その点で、現在発表されている"子育て支援情報の提供"だけでは魅力に欠けます。保活をマイナポータルとの連携、希望条件アンケート、その他必要情報の入力で完結させる機能は、政府が提供するアプリを使ってもらうための入り口として、義務ではないが結果として使ってもらうための手段にもなりえると思います。  
 保育園・幼稚園マッチング機能と、政府が提供するマイナポータルと子育て支援情報アプリの信頼性は、互いに相補的な関係にあると言えます。

 さて、肝心の審査結果はというと・・・・・・、残念ながら入賞ならずでした。これだけ語っておいてちょっと残念です(笑)。技術的な話は控えめに、ジョブズのようなプレゼンを意識して二人で発表構成を考えましたが、やはり見せ方がまだまだでした。実装は難しくて大変でしたが、マッチングという発想自体に独創性があるわけではなく、かといってマイナポータルを用いることの優位性もアピールしきれなかったかなと思います。本番まで、実は最終審査に残っている時点で全応募の11分の1以下に絞られていて、他の発表グループには企業を代表して来ている方々もいる、ものすごい競争の場にいることを知りませんでした。アイデアから資料の作りこみ、発表の仕方、構成など、他のグループは凄かったです。そんな中で、河野大臣から賞状をもらうという目標は果たせませんでしたが、最年少グループながら一生懸命開発と提案ができて、良い経験になりました。

 そういえば、先日現代文の授業で扱った評論に、規律訓練と生権力の話がありました。それによれば現代社会は規律訓練が支配する規律社会と、生権力(フランスのポストモダンの哲学者フーコーの用語。近代以前の権力は、ルールに従わなければ殺す(従うならば放っておく)というものだったが、近代の権力は、人々の生にむしろ積極的に介入しそれを管理し方向付けようとする)が支配する管理社会を重ね合わせた支配様式を持つと言います。行政は少子化対策で、国民に子どもを作ることを強要したり、子育て支援情報アプリを義務的に使わせたりすることはできず、代わりに結果としてそうなるように環境を作っていくことによって国民を動かし、最終的に少子化を食い止めます。子どもを作ることを強要できないのは国民を"人間"として扱うからであり、しかし集合として子どもを作る方向に仕向けられるのは国民を"動物の群"として扱うからである、というこの二つが同時に成り立つのは、規律社会と管理社会が排他的ではないからだという話でした。

 異次元の少子化対策も、両者の狭間で様々な議論がなされていると考えると、受け身に政治の恩恵を得るのではなく、少しでも何かの役に立てたらなと思う、今回の挑戦でした。

<2023/06/26 大分の自宅にて>