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動かない時計を身につけている

社会人になってから欠かさず身につけているものがある。母がお祝いに買ってくれた腕時計。シルバーで、細身で、文字盤が星のような煌めきの、腕時計。少しぶかぶかで、一度ドアノブに引っ掛けて歪ませてしまったけど、それでも10年仕事中は身につけて働いていた。

一度その時計が止まったことがある。5年前の話だ。しばらくは動かない時計を身につけていた。まあいいや、時間は携帯で見るし。とは思っていたけど、時計なのに時間を見てもらえないのもかわいそうなので修理してもらうことにした。

電池がなくなったのかなと思って駅中にある修理屋さんに持っていったら「ちょっと直せませんね」と言われて、専門の時計屋さんに持っていったら「ソーラー電池だから太陽の下で充電すれば動くはずなんだけど、なんか変ないじられ方してるね」と言われた。駅なかの修理屋さんがなんかいじった説ある。ゆるさん。結果、メーカーに送って直してもらった。

そこからまた5年経った。社会人になって10年。まーた、時計が止まった。

確かにテレワークが続いてつけてあげられない日々が続いていた。日の下には晒せていない。電灯の下ですら。なるほど、エネルギー切れか。5年スパンでお休みになるのだなと思った。

もう寿命だと手放してしまうことだってできるはずだ。だけど、絶対にそれはできない。

この腕時計はお守りのようだった。どんな辛い時も私と時を過ごしてくれた。もうつけなくてもやってけるんだけど、どうしようもなく手放し難い。母からの加護がこもっているような気がしてしまう。なお母は超元気に存命です。

玄関に置かれたシルバーの腕時計。今日も時計の針は動かない。その時計を私は腕に巻く。自分にまじないをかけるように。今日もうまくいきますようにと祈りを込めて。

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