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世界一大好きな女友達が結婚しました。

世界一大好きな女友達が結婚した。

彼女と初めて交わした言葉を覚えている。大学のあの美しい講堂で突然話しかけられた。大学一年生の四月だった。

彼女と初めて一緒に受けた月曜一限の授業を覚えている。頭が良くて気が強くていつも先生と口論になりかけて周りはヒヤヒヤしていた。私はいつも左斜め後ろを振り向いてそれを見ていた。

彼女が初めて私を笑ってくれた日のことを覚えている。彼女が私の消しゴムを勝手に使ったのに、取りにくい所に置いててごめん!と私が咄嗟に謝ったことがおかしかったと笑っていた。自分のすぐ謝る癖を笑ってくれて嬉しかった。裏表なく歯に衣着せぬ彼女に惹かれた。

彼女と初めて二人で遊んだ日のことを覚えている。私の第一印象を聞いたときに「いつも笑って誤魔化してる子やなと思ってた。」と言われて、その一言で彼女の虜になった。図星。そんなこと面と向かって直接言われることは今までなかったから。自分の全てを見透かされたようだった。好きになった。

彼女と初めて旅行に行った日のことを覚えている。夜行バスで東京に行った。今はもうない千歳烏山にある外国人しかいないゲストハウスに泊まって、パイン味の缶チューハイとインドカレーを床で食べて、せっかく旅行来たのにな〜って二段ベッドしかない狭い部屋で笑った。無敵に楽しかった。彼女とならどこで何をしたって。

彼女は私の長所を「ありがとう。とごめんなさい。がちゃんと言えるところ。」って言ってくれた。あれは本当に嬉しかった。それから絶対に自分の良いところは「ありがとう。とごめんなさい。がちゃんと言えるところ。」と答えるし、彼女が教えてくれたこれだけは何があっても裏切らないようにいつも心掛けた。


彼女に初めて気になる男の子の話をされた日のことを覚えている。一緒に観劇へ行く途中で寄ったスタバでのことである。八月のとても暑い日だった。

彼女に初めて恋人ができた日のことを覚えている。私は…正直面白くなかった。突然現れた男の子に彼女を盗られたように思えた。でも彼女は本当に嬉しそうで、それを見ると幸せそうで良かったと見ず知らずの彼に感謝せざるを得なかった。私じゃ満たせないものを持っている人なんだとわかってしまった。彼女に恋愛感情を抱いた瞬間などないし、特に今もないのだけれど。でも彼は私と同じ干支同じ星座同じ血液型だったね。

彼女が初めて恋人の愚痴を言って泣いて電話してきた日のことを覚えている。ああ、殺してやりたい、と思った。あんなに強くて無敵だった彼女がどうして泣いている。どうして私の大切な彼女を悲しませる。私には座れない椅子に座っておいて。それでも彼女は…。

彼女の恋人に初めて会った日のことを覚えている。帰りを車で迎えに来てくれる優しい彼氏だった。私は手を振って見送るしかなかった。でもあれは私の知らない誰かの"彼女"だったな。

本当に彼氏のこと気に食わない嫉妬するって言った日もある。彼女にはまだそんなこと言ってるって笑われたけど、そんなの、ずっとだ。と思った。

同棲を始めた彼女の家に初めて泊まりに行った日のことを覚えている。彼女と彼女の恋人と三人で一緒にご飯を食べた。お酒を飲んだ。テレビを見た。悔しいけど、面白くてカッコよくて良い人だった。彼女が好きなのもとてもよくわかった。彼女は好きな人と好きな人が仲良くしてくれて嬉しい、といった様子だった。自分の器の小ささが私を惨めにさせた。彼女が私をとても信用してくれていることも感じてしまったから。(彼氏と友達を同じ空間で寝かすか?)

彼女は私にとっての天上ウテナだった。たぶん自分をアンシーに投影し、ウテナのあの気高い眩さを彼女に見ていた。潔くカッコよく生きていた彼女に憧れ心酔していた。隣に立ってあの無邪気で残酷な汚れ知らずの気高さをずっと見ていたかった。それが恋人という自分の介入できないもので崩されてしまうのではないかと不安で仕方なかった。崩されたと思っていた。あのときは。私は勝手に彼女に憧れては、失望し軽蔑して、音信不通になった。今思えば本当に勝手で迷惑な話だと思う。

そのことを数年前に《人生に印象を残している女》というテーマに寄稿したこともある。そして、ちょうどその直後しばらく連絡を取っていなかった彼女からLINEが来た。突然音信不通になったから怒られるのかなと思った。でも彼女から来たメッセージには、

「久しぶり。迷惑じゃなかったら、誕生日プレゼント贈ってもいい?」

本当にどこまでも敵わない。私は自分が恥ずかしくて仕方なかった。ずっと子供みたいに拗ねていただけで、自分のことしか考えていないこともわかっていた。

彼女は常に私を一番の友達と言ってくれていたのに。いつも愛をくれていたのに。どうしてそれだけじゃ満足できなかったんだろう。

私にできることはもっとたくさんあったはずなのに。どうして彼女が困っていた時に支えになってあげなかったんだろう。あぁ、だから彼女の恋人にも敵わない。彼はきっとあの子の傍に寄り添っていた。私は本当の愛で彼女を愛してはいなかった。なのに大きな愛で受け入れられた。その眩さに目を焼かれて暗闇の中であなたの光だけ感じていたい。わたしはどうすればいい。あなたの為に何ができる。

恋人ができたから男ができたから彼女の美しさと気高さが失われるなんて、それは私が彼女を見くびっていただけだった。そんなことで彼女は崩されない。だって彼女は本物だから。彼女はいつだって何があったって気高く美しいままだったのだ。そうか、きっと、私が気高かったはずの女たちと言ったあの子もあの子もあの子もみんな本当は今も気高く美しいままなんだろう。

私は誠心誠意、友達として、彼女の隣に立って彼女を愛した。

今でもずっとあなたがくれた"ありがとう"と"ごめんなさい"を忘れずに生きている。


「きっと十年後にも、一緒に笑ってお茶を飲もう。約束だ。」

そして彼女は結婚した。

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