某インフルエンサー対某eスポーツチームオーナーとの間の名誉棄損関連訴訟(発信者情報開示)

某インフルエンサーVS某eスポーツオーナー

先日、「eスポーツ」で裁判例を検索をしてましたら、例のインフルエンサーさんの投稿に関する、名誉棄損関連の判決(発信者情報開示請求事件)を見つけたのでご紹介です。某eスポーツチームのオーナーが、インフルエンサーのした投稿にかかわる経由プロバイダ(ソニーネットワークコミュニケーションズ)社に対して、その投稿をしたインフルエンサーの個人情報を開示するよう求めました(東京地裁令和3年12月22日判決)。一応個人名は控えますが、ここまでの情報だけでも、、、誰のことかは分かるかなと思います、、、

発信者情報開示手続

なお、発信者情報開示請求の手続きは、(一部法改正の影響もありますが)こちらの神田先生のブログが一番信頼度があるかなと思います。第一人者の方です。
要するに、ツイッターなどの匿名が利用されるSNSでは、その投稿者の住所や氏名が分からなければその人に対して訴訟を提起することができません。そこで、「インフルエンサー×オーナー」という直接の裁判の前に、「オーナー×プロバイダ」という前哨戦の裁判を必要とします。
裁判を2回しないといけないことが出てくるので、その分弁護士費用は高くなりがちです。昨今の法改正では、この前哨戦の発信者情報開示請求訴訟を「命令」という比較的簡略な手続で進められるようにして、被害者の権利保護を図る動きがみられます。

問題となる投稿等

〇対象となる投稿
「【募集】いずれかの囲碁クラブに所属・元所属のご高齢者の方で ・雇用契約書が取り交わされず囲碁クラブから給与未払いがあった ・クラブ内のトラブルを口外したら「反社会的組織を使ってこれ以上活動できなくてしてやる」と脅された 等の経験をお持ちのご高齢者様がいましたら話をお伺いしたいです」

これだけだとなんの話か全く分からないと思いますが、その5分前に、以下の投稿がなされました。

〇直前になされた投稿
「〇〇〇〇の代表者様から「名誉毀損にあたるので削除しないと弁護士に相談する」という削除依頼が来ましたので、「〇〇〇〇を給与未払いが原因で辞めた方がいたら話を聞かせてほしい」というツイートは削除いたしました。失礼しました。」(代表者様=オーナー)

オーナー側の主張と裁判所の判断

オーナー側は、対象の投稿が直前の投稿から5分後になされたものであり、リプライにても、 「名誉毀損回避で草」、「囲碁で隠語か」、「〇〇(※オーナーの名前)」などの反応があったことから、
「これらの投稿の経緯及び一般閲覧者の反応からすれば」、対象の投稿はオーナーを対 象とするものであると主張しました。
これに対して、裁判所は、既に削除された投稿やEとは別のサイトにおける 投稿も併せてEの記事を読むという閲覧の仕方がEにおける一般の閲覧者の普通の閲 覧の仕方であると認めるに足りる証拠はないし、上記のようなわずか数件のリプライ があったというだけでは、それを推認することもできない」として、オーナーに対する投稿とは言えず名誉棄損には当たらない(社会的評価を低下させるもので あると認めることはできない)として請求を棄却したものです。

感想

結局、裁判所は、インフルエンサーさんの投稿がオーナーのことを指すとは限らないのだから名誉棄損にあたらない、と言ってオーナーの請求を棄却しましたが、このような考え方が他の事例について当然に通用するとは限りません。
①見る人が見れば、その投稿がオーナーさんのことを指すことは容易に分かるところであり、また、②インフルエンサーさんもこのような形で匂わせのような投稿をこれまでもされていますから、その過去の事例の集積を踏まえれば、問題となる投稿が誰のことを指すのかは裁判所においても十分認定し得る部分があると思います。(また、この名誉棄損の事例は多種多様で、裁判所・裁判官によって判断が変わり得る部分が多いので、「個人名を出さなければ名誉棄損にならない」と安易に考えることだけは決してなさらないほうがいいと思いますね)
そしてその場合、対象となる投稿が本当にオーナーさんの名誉を棄損したといえるかどうかというのかが、次に考えないといけないところです。
情報提供を求める趣旨の投稿ではあるものの、「反社会的組織を」使うなどといった表現は、意見の論評の範囲を超えると判断される可能性がありますので、違法性は認められ、名誉棄損が成立する可能性はゼロではないと思いますね。
過激な投稿が多いインフルエンサーさんですが、こうした投稿がどこまで許されるかというのは、名誉権等と表現の自由等とが対立する文脈で考えていく必要があると思います。

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