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レザーは持続可能な素材なのか

多くのレザーは副産物からできている

肉の消費量が多い欧米を中心に植物由来の肉や牧畜をしない培養肉の生産が注目されています。私がそれを始めて知ったのが、2013年のオランダの研究者がバーガーのパテとしてお披露目したニュースでした (*1、*2)。日本は生産量と消費量ともに他国と比べて多くはなく、北南米、中国、ヨーロッパが上位で日本およそ20位台にあります (*3、*4)。そのためか、植物由来の肉や培養肉は日本では大きく取り上げられていませんが、モノや情報の移動が国をまたぐことは日常で、国内でも取り扱っているメーカーや飲食店が増えてきています。肉の生産による環境への影響を問題視する理由は、そのエネルギー効率が主な理由です。あるデータによると、特に肉牛は他の家畜と比べて、28倍の敷地が必要で、11倍の水を必要とするとのことです。

食肉の環境負荷が議論になると、必然的にレザーの環境負荷も議論になります。ファッションの業界では、以前から動物愛護の観点から毛皮の使用への問題意識や不使用を宣言するブランドもあります(*5)。

それでは、牛革の不使用が環境保護につながるかというと、直接ではありませんが間接的につながっています。間接的という理由は、牛革は牛肉や牛乳生産の副産物からできているためです。牛、豚、羊のレザーのほとんどは食用に生産され、お命を頂戴したおつりでできています。食肉の歴史の中で、すでに廃棄物の有効利用のサイクルが出来上がっているのです。一方で、毛皮やワニ革などは革のために育てられている場合が多く、以前より動物愛護の理由で使用が控えられてきました。

余談ですが、聞いた話によると、日本で生産されるレザーは、副産物である原皮を海外から多く輸入して作られています。食肉とレザーの生産量のバランスだったり、価格や品質が理由とのことです。そこで面白い話が、スエードによく使われる豚革は、日本は国内で十分循環していて原皮も国内で調達して豚革を生産しているとのことです。理由は、海外は豚肉として皮も食べてしまうからだそうです。確かに、ヨーロッパや中国では、皮つきでグリルしたお料理があります。台湾の故宮博物院にある「肉形石」も、皮付きの角煮です。

レザー製品による環境保護を考える

レザーの不使用による環境保護は直接はつながらないといったものの、それを考えないわけにはいきません。間接的だったとしても生き物から頂いた資源を無駄にしなことやその他の環境負荷の要因を考慮し、環境保護を考えている企業と取引をする、 適正な価格で取引をする、 他の素材も活用すること行っていきたいと考えています。飼育段階以外の環境負荷にはどのような要素があるのでしょうか。

移動距離を考えてみます。バッグ等のレザー製品が出来上がるまでには物理的に長い道のりをたどっています。この点は、レザーに限った話ではなく、食料品、服飾などで議論になっています。括弧内は、日本で比較的入手できる材料の生産地です。

1. 牛や豚の生産地 (ヨーロッパ、北米、日本)
2. レザーの生産地 (ヨーロッパ、日本、近隣のアジア)
3. バッグの生産地 (日本、近隣のアジア)
4. お客様へお届け

国産のレザーを使用する場合でも、豚革以外の場合は1.が北米やオーストラリア、ヨーロッパの海外のことがあります。 海外産のレザーは多くはヨーロッパから来ています。

化学薬品の使用を考えてみます。レザーの生産のなめしの工程や着色の工程で多くの水や化学染料を使用するため、最近では環境負荷のより小さな染料を使うレザーメーカーが、特に環境負荷の問題意識や対策が進んでいるヨーロッパで比較的多く出てきています。国内でもレザーの生産は化学薬品の排水を理由に特別な認可が必要と聞いています。

大量には使わないけれども、レザーから完成品を作るときに使用する接着剤に使われる揮発性の有機化合物 (VOC) に、環境保護や使用者の健康のためにより安全基準が設けられていたりより安全な選択肢が増えています。有機化合物の中でもトルエン不使用をうたうものが多くあります。身近なところでは建材に使われるホルムアルデヒドも基準が設けられている有機化合物の一つで、家具や接着剤のF★の星の数で安全ランクが表示されています。 自分が使う量は少なくても、生産する人は大量に作っています。 使用量が少なくても、使用者の選択が変わらなければ生産の変化にブレーキがかかってしまいます。

他の素材の活用を考えてみます。以前より化学材料による合成皮革は多く使われています。工業的に大量に作ることができる合成皮革は、安定した品質で低価格で、大規模な工場で生産する場合は排水等の環境への影響も最小限に抑えられているでしょう。一方で化学素材よりも天然素材を好まれる場合には、最近はパイナップルやリンゴ、キノコの繊維を使った植物由来のレザーもあります(*6、*7、*8)。植物由来肉や培養肉のように、手ごろな価格になりつつあります。

情報ソース

*1 培養肉によるバーガーに関する記事、”World’s first lab-grown burger to be cooked and eaten”、2013年8月5日
*2 しばらく後に書かれた、培養肉のバーガーに関する東洋経済の日本語記事:“ヤバすぎる!「培養肉ハンバーグ」の衝撃”、東洋経済新聞、2014年12月27日
*3 "世界で一番牛肉を食べるのはどこの国?"、ANAトラベル&ライフ、2016年10月27日
*4 "世界の牛肉生産量 国別ランキング・推移"、グローバルノート、2019年1月8日
*4 グッチによるファーの使用を廃止:“「グッチ」がリアルファーの使用を廃止”、WWD、2017年10月12日
*5 パイナップル繊維を使用したレザーメーカー:Ananas Anam
*6 菌類を使用した素材のバイオテック企業:Micoworks
*7 バイオ素材を使用したシルクやレザーを作るバイオテック企業:Bolt Threads


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