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自分たち以外にも思いを寄せる

チャリティグッズ販売

私の鞄屋で、新型コロナウィルス感染症対策の基金に寄付をする、チャリティー製品の販売を開始しました。まだまだ小規模で利益も出ておらず事業自体がひとり立ちできていませんが、寄付を行うことにしました。

きっかけの1つは、中国に住む元同僚がマスクを送ってくれたこと。中国でもまだまだ外出制限下、品物は出回り始めたので困っているだろう日本の仲間に声をかけてくれたのです。彼女に代金を支払って個人的に送ってくれました。4月上旬の全くマスクが手に入らない時期でした。自分だけがこの運の良さを享受するのは申し訳ないのと、少量をわざわざ送ってもらうのも申し訳なかったから。KN95マスク (N95相当の中国の規格) (*1)を300枚購入しました。友人とも分け、余らせた分は100-200枚程度ですが近所の学校等に寄付をするつもりでした。それが結局寄付ができなかったのです。

東京都内に住んでおりますが、区に問い合わせても寄付を受け付けられないことと、個別に連絡するので、よりお困りの施設や学校の情報だけでも教えてもらえませんでした。近所で時々買い物をする障がい者施設さんに連絡したところ、足りているので大丈夫とのことで丁寧なお断りの言葉をいただきました。東京都ではないですが特別支援学校の教頭をされている友人には、私個人が負担できる少量の寄付ではほぼ意味がないので大量購入ができる相談をしましたが、やはり購入には至りませんでした。衛生用品のため寄付であっても受け取れないだろうことや、急に新しい会社から調達ができないことなども理解でき、とてももどかしい思いをしました。

購入できた300枚は、ほとんどが購入希望する友人と数十は友人経由でマスク不足でお困りのクリニックへ渡るパスができたので、幸い全数がより必要としている人たちと分け合うことができました。

きっかけの2つ目は、コロナ感染症状況下のビジネスのディスカッションで、社会貢献の視点を話題にする人がいなかったことです。コロナ後もしくはコロナと共存する社会のビジネスをトピックとするオンラインイベントでとても有意義なイベントでした。約1時間の3名の方のセッションの後、さらに1時間の5, 6人のグループディスカッションというとても建設的な場でした。

参加者は大企業のマネージ職や自身の会社の経営層がほとんどので、自社やお客様、業界のリアルタイムな変化を共有し合うことができました。変化や変化へ対応する新しい仕組みや考え方の意見交換をする中で、事業内容から離れた地域貢献や医療や教育などのより大きな損害を受けている業界や組織との協力に取り組んでいたり、実際取り組んでいなくても考慮していると話題にする人はありませんでした。たった1, 2か月の間に事業の計画は大きく逸れ個人の生活は変わり、これから先もどう変化するかがわからない時期で、ビジネスに置いて誰もが事業を維持していくことが重要であることは間違いありません。そして私は、自分たち以外にも、思いを寄せることができたらいいだろうと思ったのです。

5月の連休明けという周回遅れのタイミングでしたし、私の友人やお知り合い以外にまたほとんど知られていない弱小店ですので何件購入くださるかわからない規模ですが、やろうと思ったので始めました。

サービスとお金が一方通行でも等価交換

ビジネスは、受けたサービスの分の代金を支払うという等価交換です。お金を払ったら相手が何かをしてくれる。一方で、芸術やスポーツへのスポンサーシップやCSR活動は、応援して活動で貢献してさらに資金の提供も行う活動。お金を払ってさらに自分が何かをする。その分私たちは社会に参加して貢献できた充足感を得ています。

気持ち的には理解していますし、私自身もプロボノなどの活動をしたことがありますが、心理学や哲学の心得がない私は、行動も金銭も両方提供することを理屈で上手に説明できません。ものの本(*2)を読んだときに、倹約家は、つらい思いをして節約しているのではなく、節約できたという満足感を得てさらに手元にお金が残るという実質的な利益も得られ二重に幸福を味わっているとあり、非常にに納得しました。

今回の仕組みは、購入金額のうち送料と消費税分を除き製品価格の全額を基金に寄付をします。利益分ではなく、材料や製作工賃、決済手数料等を私側が負担をします。金銭的な貢献をしながら、私自身の社会的貢献の充足感が得られる行為。そして共感してくれたお客様のお気持ちも加わり、増幅させて貢献できればうれしい限りです。

単なるマーケティング行為ではないかという疑問は常に考えて計画しました。知名度が低いブランドなので、確かにこれをきっかけに知っていただけるのはうれしいですし、企画をして品物を準備してその告知をすることは従来の延長には変わりはありません。ただ寄付額の仕組みは、一般のマーケティングの販管費を大幅に超えコストの多くを補填し、物販のために変動費率が高いなか、お客様のお支払額の75%-80%程度を寄付するので、やっぱり単純なマーケティングとは異なると言えます。一方でもし何万人ものファン顧客を持っている事業だったとしても成り立つのか、というシミュレーションも行いました。儲かってもいない事業でやせ我慢してまでやらなくても、もう少し比率を落とそうかという思いもありながらの判断でした。

ちなみに景表法も気になりましたが、対象外のようです。対象の定義は、「顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する物品、金銭その他の経済上の利益」とあります。心理的な利益は対象外のようです。よかった。

すでに想定以上の数を友人やその友人の方たちが購入してくださり、一部は在庫切れになってしまいました。もうしばらく続けますが、すでにやってよかったと思っています。規模は小さいながらも、6月末に終了したら、購入してくださる方のお気持ちも一緒に、基金へ振り込みをしてお届けしたいと思います。

参考サイト

*1: N95マスク

Wikipedia N95マスク:https://ja.wikipedia.org/wiki/N95%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AF

3MのN95マスクの説明:https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/medical-jp/mask/faq/

N95マスクは、一般の不織布のものがマスクをしている人から他者への飛沫の拡散を抑えるのと異なり、マスクをしている人を飛沫等から守る機能のあるものとのことです。一般の私たちが日常生活には必要なレベルのものではないと考えられます。長時間の使用では苦しくなって逆に使いにくいようです。今回は、不織布の医療用サージカルマスクの購入単位が万単位となり大きすぎることと、友人が中国で日常的に使用している事なども考慮して、N95相当の中国の規格のKN95マスクを購入しました。実際使用してみると、表面積が広くて空気の通りが良いからか、それほど苦しくありませんでした。

*2 自由からの逃走、エーリッヒ・フロム著、日高六郎訳、1952年 (原著1941年)

私には非常に難解で、課題として読まなければいけない状況でなければ最初の10ページで終わっていたと思います。80年近く読み続けられるだけあり重厚感があります。人は自由になりたいと思いながら自由になることを恐れている、何かに従属することに居心地の良さを感じてしまうと、ナチス政権化のドイツで書かれた著書です。

消費者庁、景品表示法:https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/

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