ねずみを拾ったはなし


干支が子から丑になったところですが、ネズミを拾った経験をふと思い出したので書きます。


高校生時代のことです。
土曜日で部活の日でした。
僕は自転車通学でしたが、その日は大雨だったので
親に学校まで車で送ってもらうことになりました。

帰りは歩きだよと言われましたが、午後の予定もないので了承。
部活をやっているうちに雨は少し落ち着き、練習は何事もなく終了しました。

僕は傘をさしても濡れてしまうので傘が苦手です。
当時、帰りなら濡れてもいいと傘を持たないことも多く、
その日も雨に濡れながら歩き始めました。

通学時間は自転車で30分弱、徒歩では1時間30分ほどの道のりです。

歩くことは嫌いではありませんが、旅先で1時間食べ歩くのとは訳が違います。
音楽を聴くだけでは退屈なので、気分転換に川沿いの公園を通って帰ることにしました。

公園にはサイクリングロードが通っていて、その手前には学校があります。
学校の脇の細い道は縁石に挟まれ、くるぶしほどの高さの雨水が溜まっていました。
踵が潰れ、生地が割れたローファーで、避けられない水溜りをジャバジャバ歩きます。後にローファーの中敷が剥がれました。

もうなんでもいいやという自棄になった状況。
そのまま歩いて公園へ、自宅まであと30分ほど。

公園はサイクリングロードと芝が広がり、下には川が流れています。
何もないながらお気に入りの場所です。今でもランニングや散歩に訪れています。

途中、ワイシャツの胸ポケットに入れていたiPodが水没したのかイヤホンから音が出なくなりました。

ショックを受けながら、川へ寄って様子を見ようとしたところ、雨でぐしゃぐしゃになった芝の上に黒いものが落ちていることに気づきました。

そこには寒さで震えた5cmほどの小さなネズミがいました。

ネズミを実際に見るのは初めてでした。
公園の端には竹林や雑木林がありますが、こんな開いた芝生で見るとは。

正直この瞬間のことはあまり覚えていませんが、明らかに弱っている様子でした。放置したら死んでしまうと思い、咄嗟に連れて帰ることにしました。

初めて見た野生のネズミ。どう扱うべきかわかりません。
どうやって運ぼうかと辺りを見回して見つけた花火のゴミを拾い、
花火の袋のフックにかける少し硬い部分でネズミをすくい上げました。

びしょ濡れで呼吸が荒くなった指一本分のネズミと、びしょ濡れで1時間歩いてローファーからiPodまで壊した僕。

ネズミを落とさないようにとビニールを持ち、
やっと自宅へ着いた頃には雨はほぼ止んでいました。
親は用事で出かけて家にはいません。ある意味ラッキーでした。

後になって思いましたが、ネズミは害獣とも呼ばれるような生き物ですし、野生ですのでどんな菌を持っているかわかりません。
餌や飼育ケースが無いのでやり場に困り、とりあえずベランダの下に置いて様子を見ることにしました。

制服から部屋着に着替えて濡れたものを干しているうちに、ネズミの様子は少し落ち着いていました。このまま回復すればそのうちどこかへ逃げるだろうと思い、その後はネズミのことを忘れて過ごしていました。

しかし、ネズミはその場で死んでしまいました。
特に思い入れがある訳でもなく、ただその瞬間に可哀想だと思い保護しただけです。拾った後のことは考えていませんでした。

ただ拾ったその瞬間、たった5cmの小さな体が呼吸を荒くして伸縮するのを見て
この中に自分と同じ生物としての機能の全てが入っているのかと強く感じられたのは確かでした。

延命したのか、早死にしたのか。どちらだったのかはわかりませんが
強く印象に残った出来事でした。


大きな出来事では無いけれど忘れられないことってありませんか?
他人にとって『だから何?』という出来事がきっかけで、その後の選択や考え方に作用することもあります。

SNSはこういうことが共有できるので面白いです。
思い出そうとするうちに忘れていた感覚が蘇り、懐かしくて変わった刺激を得られるので、また何か思い出したら投稿します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?