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【進撃の巨人】エレンとエルヴィンは似てるとずっと思っている話


ご注意
最終話ネタバレあり。
原作未読の方はお引返しください。
話数は原作の話数です。
この文章は全て私の主観です。
根拠のある考察ではなく読書感想文です。


去年の4/9に最終話を読んでからずっと考えている事。

エレンとエルヴィンは似てる。
人としての性質と、決着のつけ方が。

1.裁き

1-1.エレンの場合

最終話(139)話、
エレンは道でアルミンにすべてを打ち明ける。

これから自分がする残虐行為。
それによってパラディの皆が助かること。

止められる結末がわかってなくてもこの世のすべてを平らにしてたということ。
「やりたかったんだ…どうしても…」

協力を求めたのか?
許しを求めたのか?

私はどちらも違う気がしていて。
私は、エレンはアルミンに『裁き』を求めたんだと思っている

・ ・ ・

99話【疾しき影】の冒頭、ベルトルトはライナーとアニに、首をくくったおじさんについて語り出す。おじさんが自分達にあの話をした理由は「裁いてほしかった」からじゃないか、とベルトルトは言った。
それはきっと、ベルトルト自身が裁かれたいと思っているからだと思う。
48話【誰か】で、ベルトルトは自分のした事を「取り返しのつかないこと」と言っている。
罪の重さをわかっているからこそ、裁かれたかった。

ライナーも自分のした事に対する裁きを常に求めてる印象があって、99話【疾しき影】でエレンと対峙した時や127話【終末の夜】のシチュー会でも、常に裁かれたい気持ちを抱えて生きてるように見える。

裁かれるような事をした自覚がある人は、裁きを受けることによってようやく区切りを付けて前を向くことを許される。
それが有罪でも無罪でも、裁かれたという事実がその人の心を結果的に解放する。
逆をいうと、裁かれないまま悶々としている間はどこにも進めないし前を向く事すらできない。

・ ・ ・

エレンはアルミンに対して、「やりたかったんだ」という気持ちを隠し通す事もできた。
「お前たちがパラディで生きていける方法を苦渋の決断で実行したんだ」という体裁を貫こうと思えばできた。

でも、そうはしなかった。

「止められる結末がわかってなくてもこの世のすべてを平らにしてた」
「やりたかったんだ…どうしても…」

この、言わなくてもいい事を打ち明けた。
これはいわば『懺悔』。

これを知らなければ、アルミンだってエレンをもっと正当化できたかもしれないし、「エレンはパラディの為に自分を犠牲にして(他者にも犠牲を強いているけど)この行為に及んだんだ」と思っていられた。

でもアルミンは知らされてしまった。

エレンの懺悔を聞いてしまったからには、アルミンはそれ相応の答えを出さなきゃと思ってしまう。
スルーするにはこの言葉はあまりにも罪深すぎるし、親友がこんな風に懺悔をしてきているのに放っておける訳がない。

そうしてエレンは、この懺悔に対するアルミンの返答を、自分への裁きとしたんだと思う。

これと同じ風景を、私は80話【名も無き兵士】で見た。

1-2.エルヴィンの場合

80話【名も無き兵士】、
エルヴィンはあの場で、リヴァイにすべてを打ち明ける。

自分を含む兵士たちを犠牲にすれば
この場を切り抜けられる事。

しかし本当の本音は、人類を救う事よりも世界の真実を知ることの方が自分にとっては大事だという事。
「俺は…このまま地下室に行きたい…」

この時エルヴィンは、リヴァイに『裁き』を求めたんだと思っている。

「仲間たちは俺らを見ている。
捧げた心臓がどうなったのか知りたいんだ」

これはエルヴィンのもうひとつの本心であると同時に、リヴァイが公平な裁きを下せるように材料を提示したように私には思える。

エルヴィンは聡明ゆえ、このまま地下室へ行きたいという自分の気持ちが、心臓を捧げていった仲間たちに対する裏切り行為である事を痛いほどきちんと認識している。
そしてそれが、人として超えてはいけない一線である事もわかっている。

だからこそ、この極限状態において、
リヴァイに裁きを委ねた。

欲望のまま一線を越えるか、
人として踏みとどまるか。

エルヴィンもまた、リヴァイに対して、「地下室へ行きたい」という気持ちを隠し通す事もできた。
団長として人類のために為すべき事を為す、という体裁を貫こうと思えばできた。

でも、そうはしなかった。

「俺は…このまま地下室に行きたい…」

この、言わなくてもいい事を打ち明けた。
これもいわば『懺悔』。

これを知らなければ、リヴァイだってエルヴィンをもっと正当化できたかもしれないし、「エルヴィンは人類の為に自分を犠牲にして(他者にも犠牲を強いているけど)この行為に及んだんだ」と思っていられた。

でもリヴァイは知らされてしまった。

エルヴィンの懺悔を聞いてしまったからには、リヴァイはそれ相応の答えを出さなきゃと思ってしまう。
スルーするにはこの言葉はあまりにも罪深すぎるし、一番信頼している相手がこんな風に懺悔をしてきているのに放っておける訳がない。

そうしてエルヴィンは、この懺悔に対するリヴァイの返答を、自分への裁きとしたんだと思う。

2.異なる二つの判決

2-1.エレンの場合

裁きの結果、アルミンの口から出た言葉は
「ありがとう、僕たちのために殺戮者になってくれて」
だった。そして
「この過ちは絶対に無駄にしない」
とも。

『過ち』と言い切ったアルミンはきっと、エレンのした事の罪の部分は罪として決して許していないと思う。
あらゆる無差別暴力行為、そして「やりたかったんだ」という動機。
ただ、その罪も込みで、エレンの向かう方向に寄り添う事を決めたんだと思う。
自分も一緒に罪を背負おうと。

なぜそんな判決を出したのか。

それは、アルミンの中にもエレンと同質の『原初的欲求』があるからだと思う。

アルミンにも『外の世界を探検したい』という原初的欲求がある。
だから、『平らにしたい』という具体的な内容には共感できなくても、原初的欲求そのものは理解・共感できたんだと思う。

アルミンの原初的欲求はエレンに比べるととても健全だけど、「外の世界を探検したいんだ…どうしても…」という理屈じゃない感覚はエレンと共通して持っているもの。
裁くべきものと同じものが
自分の中にもある。
だから、裁けない。裁かない。許す。

2-2.エルヴィンの場合

裁きの結果、リヴァイの口から出た言葉は
「夢を諦めて死んでくれ」
だった。そして
「獣の巨人は俺が仕留める」
とも。

リヴァイは選んだ。
悔いのない方を。
身勝手な言葉には寄り添わず、
一線を越えたくない方のエルヴィンの本心を汲んだ。

なぜそんな判決を出したのか。

それはリヴァイの中に、エルヴィンほど強い『原初的欲求』が無いからだと思う。

リヴァイは、人を一番大切にして動く人。
理屈抜きでどうしてもやってみたいと思える、心の底から湧き上がる欲望=『原初的欲求』は、リヴァイからは感じられない。
それよりも、自分の大切な人たちが何を望むのかを考え、その人たちが幸せになる事が自分の幸せ。
だから、エルヴィンの原初的欲求は完全には理解・共感できない。

だから、裁けた。選べた。
一線を越えさせず、真っ当な方向へ導けた。
きっとエルヴィンは、自身の中に抗えない原初的欲求があっても、だからといって本当に一線を越えたくは無い気持ちがあったんだと思う。
それを後押ししてくれたのが、そこまでの強い原初的欲求を持たないリヴァイだった。

なので84話【白夜】のエルヴィンの「ありがとう」は、真っ当な方向へ導いてくれた事へのありがとうなんだと私は思っている。

3.二人の結末

エレンもエルヴィンも、救いを求めた訳ではなく、裁きを求めていた。
つまり、完全に否定され断罪される可能性がある事もわかっていた。それだけの事をしたし、それだけの発言をしたのだから。

だから彼らにとっては、下された判決がすべて。

エレンはアルミンの「この過ちは絶対に無駄にしない」を胸に刻みながら、それ以降突き進んでいたんじゃないかと思う。
自分の行為が『過ち』である事を自覚しながら、やりたいようにやった。

エルヴィンはリヴァイの「獣の巨人は俺が仕留める」を胸に刻みながら、自らが死ぬ意味をリヴァイに託して最期を突き進んだんじゃないかと思う。
それは一線を越えなかったから、やりたい事を諦めたから許された事。

4.さいごに

私自身は原初的欲求が"ある"方なので、エレンの行為そのものは絶対に肯定はしないけど、エレンの持つ原初的欲求は理解できる。
エルヴィンの原初的欲求も
アルミンの原初的欲求も理解できる。

だからリヴァイのような、自分以外の人を一番に考えられる人に憧れる。
そしてそういう人が近くにいてくれたエルヴィンには「良かったね」と思うし、
逆に共感してもらえる人が近くにいてくれたエレンにも「良かったね」と思う。

どちらの判決が良かったとか
どちらの方が幸せだったとか
不幸だったとか
罪深いかとか
倫理的だとか
正しいとか正しくないとか
そういう事ではなく

エレンにアルミンがいてくれた事
エルヴィンにリヴァイがいてくれた事
それをすごく尊く感じる。
裁きを求めたエレンの心を救えたのは、アルミンだから。
裁きを求めたエルヴィンの心を救えたのは、リヴァイだから。
人生の決断っていうのはきっと、そういう関係性から生まれてくるものなんだなと思う。
ひたすら、
エレンにアルミンがいてくれて良かった
エルヴィンにリヴァイがいてくれて良かった
そう思った。

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