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ラーメン屋のおじさん

山形の実家の隣に、僕が世界で一番美味しいと思うラーメン屋さんがあった。

僕が東京に出る前の最後の夏。祭りの打ち上げで、封鎖された道路の上にブルーシートを敷いて、小さい頃からお世話になっている商店街のおじさんやおばさん達と飲んだ。

上京するんです、と伝えると、ラーメン屋のおじさんは、酒で真っ赤になった顔でこう言った。

「俺も若い頃は、色んな所に行って、それこそ本当に色んな仕事をしたけど、まさかラーメン屋になっているとは思わなかったよ。東京で色々やってみるといい。きっと何か見つかるはずだよ。大丈夫。頑張れよ」

東京に来てから、何かにつまずいた時は、いつもこの言葉を思い出していた。

大丈夫。大丈夫。

おじさんは、病気でその数年後に亡くなった。もうラーメンは食べられなくなった。

最後に食べたのは、かなり前なので、味は少し忘れてしまったが、おじさんの言葉は僕に残ったままだ。

僕は、いつも誰かから言葉を受け取って生きてきた。

その時々の誰かの言葉に生かされてきたんだと思う。

これからは、誰かに言葉を与えられるように生きていきたい。

誰も傷つけない、心からの言葉を。

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作っている本にどうしても収まりませんでした。でも、気に入っているのでこちらに残しておきます。

新刊、まもなく完成しそうです。お楽しみに。

秋のある日に思い出したので、センチメンタルオータムとさせて下さい。

それではまた。


お読み頂きありがとうございます。コーヒー代と本代に使います。