見出し画像

『実家本屋改造計画』②「待合室の主」

現在の時刻は、20時を少しまわったところ。この病院に来てから、12時間が経過しようとしている。親族が買ってきてくれた夕食を食べ終わった。私がずっといる待合室の空気清浄機は優秀で、空気が乾燥してくると音声で知らせてくれるのだが、特に加湿はしてくれない。優しいだけじゃ意味ないし。なあ、世界観。

昼食後にウトウトしていたら、ICU担当の看護師さんが会いに来て、手術が終わった後の流れなどを説明してくれる。その後、手術担当の看護師さんから電話が来て順調である旨のお話。少し時間が経ったら、執刀医の先生が来て順調であるとのお話。また少し時間が経つとと、早番の看護師さんのシフトが終わったとの事で、遅番の看護師さんが挨拶に来た。細切れにずっと誰かが来たり、誰かから電話が来たり、親族からメッセージが来たりするからあまり落ち着けない。看護師さんや医者の先生は、「困っている事は無いですか?」とみなさん優しく声をかけてくれるが、さすがに喫煙所が欲しい+ふかふかの布団で横になりたい、という要望はずっと伝えられずにいた。

今日の待合室は、私が一番乗りで、その後たくさんの手術を受ける方のご家族達が来ては帰り、来ては帰りをたくさん繰り返した。午後から来て、夕方に手術が無事終わった家族の方達に、看護師さんが「本当に長い時間、お疲れ様でした…!」とめちゃくちゃ温かい声をかけて、その家族と一緒にキャッキャしていたので、これは親父の手術が終わった頃に、今日の待合室の主である私には、クラッカーやらケーキ、『エヴァ』のテレビ版の最終話のシンジ君みたいに病院中から「おめでとう!」のコールを頂いた挙句、そのまま『ラ・ラ・ランド』ばりのミュージカルが始まり、最高の大団円を迎えられるのではないか、と夢想してみたが、夕方を超えて外来が閉まると病院からはどんどん人がいなくなっていった。昼間、あれだけ人がいた空間ががらんとしているのは、やはり怖い。夜の学校が怖いのと同じ方程式である。『金田一少年の事件簿』の敵キャラである「放課後の魔術師」はとても怖かった。

昨夜、そういえばこの病院で友人が働いているじゃないか、と急に思い出して連絡をしてみたところ、まだ全然在籍中との事で、親父の手術の話を少しして病院に行く旨を伝えると、時間が合えば会おう、という事になった。そして、今日の午前中に待合室に来てくれて久しぶりの再会を果たしたのだった。彼には、コロナ前に会ったきりだったので、大体4年ぶりくらいだろうか。医療従事者である彼にはなかなか会いづらい感じだったが、やっと会えて嬉しい限りである。病院ではなく、酒場で会えたらもっと良かったのだが。彼の近況や、共有の友人の近況などを話した。とりあえず、元気そうで何よりである。また暖かくなってきたら会おう、という話をして再見。ちなみに彼は、普通に定時で夕方に帰るらしい。今日は、私の方が、この病院に長くいる。

彼に会った事がトリガーとなり、そういえば10代の頃に不純異性交遊、もといエロい事をしていた子(達)が、その後看護師になったと後に風の噂で聞いていた事を思い出す。もしかしたら、この病院にも一人くらい在籍しているのかもしれないな、などと持て余す時間の中でぼんやりと考えていた。こう書くと何かのフラグを立てている感じもするが、特に現時点で劇的な再会などはなかった事を書き記しておく。ただ、風の噂って、人から聞いているのに何で「風」なんだろうな、とかって考えただけである。あの子は、元気にしているだろうか。

とりあえず全て万事快調に進んでいるとの事で、どうやら、あと1時間程度で手術は終わりそうとの事。その後、ICUに移り、麻酔が覚めたら面会して、本日は終了になりそうである。どれくらいで覚めるんだ、麻酔。何とか日が変わる前には、帰れるかもしれない。

続く。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ヘッダーは、今日ずっとお世話になったソファです。

#エッセイ #コラム #日記


お読み頂きありがとうございます。コーヒー代と本代に使います。