ありがたいバイトの話

 私は人と話すのが好きで接客業のアルバイトをいくつか経験してきましたが、いわゆる「仕事ができない人間」です。その道の達人なので、どのアルバイトでも不注意としか言えないようなミスを重ねて店長の表情を曇らせてきました。手に職をつけてデザイナーという職業にありついていなければ何も務まらないと思います。
 パワハラのようなひどい叱責を受けたことはありませんが、アルバイトを辞めようと思うときは大抵ミスが続いて嫌になった時です。そんな時は大抵自信がひどく削られていて、しかしその理由の一つ一つは大したミスではなかったりします。

 例えばドラッグストアでアルバイトをしていたときは混雑時のレジミスで行列がどんどん伸びたり、ミスによって自分ではわからないレジの細かい操作をしてもらうためにいちいち社員を呼び怪訝な顔をされたり。どれもこれも全くもって私が100パー悪いです。でも、出来事自体よりもそれによる周囲のストレスを感じる機会が増えるほど仕事に対する自信がなくなって出勤が嫌になっていきました。

 いまアルバイトしているカウンター系の飲食店では店長とアルバイトがペアになって2人で回すので必然的に全てのミスが1から10まで店長の目につくことになります。しかし、大学卒業に伴って3月には辞めなければならないのが惜しいほど働き心地が良いです。私の業務スキルが急上昇しているはずはないので、それはきっと店長とお客さんの温厚さが理由です。ありがて〜!
 学生アルバイトには「せかせか動け!一分一秒も無駄にするな!」というようなところが多いですが、働く店員の佇まいも店のサービスの一つということでむしろ「忙しくても焦った様子を出すな、ゆったり動け」という方針。だから落ち着いていられます。内心焦ってもまるでわかりきったことの確認のように「店長、〇〇って〇〇で合ってますか?」とフラットに聞くことができます。

 元来そういった軽いコミュニケーションができる人はいいですが、私は仕事ができないながらに気にしいなところがあるのでそれまで質問するたびに謝っていました。人は不思議なもので、「すみません」と言い続けると自己否定的になってしまいます。今のアルバイト先はそういった要素がなく、お客さんも懐と心に余裕のある方が多い。ありがて〜!(2回目)
 この前は普段まかないで食べるすごく美味しいキムチの新作ができていたので業務中につまみ食いしたところを店長に目撃されました。店長に「まったく、食べるのだけは早いんだから!」と言われたので「仕事は遅いのに!」と返すと、カウンター席の常連さんはゲラゲラ笑ってくれましたが店長の笑顔は引き攣っていました。ブロッコリーのキムチは超おいしかったです。
 レジ業務の行列のように急かされることもイライラされることもなく、おろしたてのワインを注ぐ緊張の瞬間も娘や姪っ子のように見守ってくださる。お店に貢献したいと心から思えるアルバイト先です。卒業までがんばるぞ!

(おわり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?