見出し画像

デザインでゴリ押した「聖地巡礼しない聖地巡礼本」をコミックマーケットで頒布した話

記事概要:弊同人サークル「にしきかむろ」コミックマーケット97で頒布した同人誌は「聖地巡礼しない聖地巡礼本」を狙ったもので、細かいネタを多く仕込みながらも元作品を直接的に出さず仕上げた本だった。コンセプトやデザイン上の工夫と実際に頒布した様子をレポートする。

コミックマーケットのない2020年

残念ながら2020年はコミックマーケットが開催されない年となりましたが、お盆と年末と聞くとコミックマーケットが思い浮かぶのがオタクのサガというものです。
同人サークル「にしきかむろ」も、2020年に初め時点ではコミックマーケット99の参加を予定して準備を進めていましたが、時勢を考慮して見送ることにしました。

画像12

表紙と裏表紙まで作成して放置することになった「異次元空間 C99号」。LCCによって気軽に行けるようになったアジア地域の海外旅行を特集するつもりだったが、おそらくお蔵入りしそう。

noteアカウントを開設したのも、長期的にみてオンライン上での同人活動が必要だと感じたからです。そのあたりの事情は別記事に記しておりますのでよろしければ御覧ください。

聖地巡礼しない聖地巡礼本を作ろう

もともと筆者はいわゆる聖地巡礼本を数冊出した経験がありました。

アニメやマンガなどの作品に出てきた舞台を聖地と呼び、舞台を回ることを聖地巡礼という。聖地巡礼を題材にした本(聖地巡礼本)はコミックマーケットでも旅行ジャンルの一部として定着している。

そのときに出した本は、作品と同じ場所・同じ画角で写真を撮り、現実との相違点を解説したものでしたが、そういった細かい間違い探しが聖地巡礼本に求められているのかと改めて考えると、どうも違うような気がしました。

作品のファンが聖地巡礼へ出かける動機はまちまちだとは思いますが、少なくとも作品と繋がれる場所を求めて聖地巡礼へ行く方が多いのではないかと思います。実のところ、現地と作品内の違いはどうでもよく、作品との繋がりが得られれば聖地自体は必ずしも重要ではないと考えました。

かくして作品から要素を抜き出してそれっぽいところを尋ねる、聖地巡礼をせずに聖地巡礼をする謎の聖地巡礼本の作成に至りました。

s-スクリーンショット 2020-12-20 120927

聖地巡礼しない聖地巡礼本に至った経緯(苦悩)を「異次元空間 C97号」のあとがきに記しました。

「異次元空間 C97号」では、筆者が心惹かれた作品である少女終末旅行を題材に扱っています。

画像23

少女終末旅行は2017年の秋アニメでしたが、2018年1月に原作で最終回を迎えた後もファンに根強く愛されており、2020年においても年始と秋には秋葉原でポップアップショップが設けられました。

少女終末旅行は西暦3000年台の終末世界を舞台にしているため、明確な聖地は存在していません。「聖地巡礼しない聖地巡礼本」にはぴったりの題材だと感じました。

デザインに極振りした同人誌を作る

聖地が一切登場しない聖地巡礼本では、どうしても作品要素が薄くなるため、デザインや体裁を工夫して作品要素を補完することにしました。

画像5

こちらは入稿後に見本用として届いた2冊です。読んでいていくつか文章で間違いをしていることに気付いて頭を抱えたのですが後の祭りです。同人誌あるあるです。

『まずは見たまえ!この素晴らしき仕上がり!(中略)B5オフセット36ページ!麗しくフルカラーなPP加工の表紙!どんな場所においてあろうとも、強烈なオーラを撒き散らす!』

人類は衰退しましたのアニメ3話のセリフが脳裏に焼き付いているせいで、同人誌を作るときはわざわざ追加料金を払ってPP加工をやってしまいますが、PP加工をすると表紙が反りがちなので考えものです。

思えば、人類は衰退しましたも終末を扱った作品ですね。こちらもぜひ。

画像10

表紙下部にある「モノクロに輝く楽園へ。」は少女終末旅行のエンディングテーマ「More One Night」のフレーズから引っ張ってきたものです。この一文をヒントに、一部ページを除いて本の全編でモノクロ画像を使用しています。

お高いフルカラー印刷代を払っているのにもったいない気もしますが、デザインに極振りしているので仕方ありません。どうせ赤字です。

画像9

裏表紙では可読ギリギリのフォントで誘い。の一文を入れています。マンションの一部に埋め込んでいるように見せるため、大きさを調整して影を入れています。

この文章はnote版の異次元空間にも引き継がれています。

画像11

実際にコミックマーケット97会場に搬入されたときの様子です。今回は45部発注しましたが、余部として数冊余分に入っていました。

印刷は株式会社グラフィック様の同人誌印刷サービスに依頼し、会場に直接搬入してもらっています。どうもありがとうございました。

s-異次元空間C97_201912122

表紙をめくると見返しを使って、終末文字のフォントで「まわるせかいとぎゃくむきで」と書いています。読める人だけがニヤリとする仕様です。

アニメOPの「動く、動く」の歌詞「回る世界と逆向きで」から来ています。

s-異次元空間C97_201912123

目次ページは少女終末旅行あのシーンを再現しています。しれっと目立たないようにユーリが発した印象的なとあるセリフが終末文字で書いてあります。少女終末旅行ファンなら終末文字が読めなくとも察しがつくはず。

ページ数がさほどない薄い本に目次が必要なのかは毎回悩む所ですが、今回は情け程度に入れることにしました。

画像6

特集ページは大きく見開きで工場の写真を載せています。

画像21

地図になっていない地図です。それぞれの場所がどこにあるのか、ラフに描いた日本地図の上に示しています。聖地巡礼本ながら、アクセスに関する記述はほとんど入れていません。

s-異次元空間C97_2019121218

特集では少女終末旅行を題材に「生と死がつながる場所へ」のテーマを設定し、北海道・青森・岐阜・和歌山・岡山・香川・広島・山口・長崎と、全国各地から場所を選定しました。もちろん、いずれも少女終末旅行に登場した聖地ではありません。

本文は長すぎず短すぎずのサラッと読める程度の文章量に調整しています。写真は数枚のみを大きく掲載して、文章とのバランスを取りました。

キャラクターやセリフについては本文中で触れるのみとし、イラストやシルエットも登場しません。聖地巡礼本としてはカタい部類かと思われます。

s-異次元空間C97_2019121222

誰得コーナーの制作裏話ページだけ画像はカラーにしました。本を出すに至った経緯と、フォントの一覧を入れています。

画像7

画像素材を利用して、このページだけパッと見でリング式ノートのように見えるようにしました。スケッチブックやスクラップブックのイメージです。

遊び心しかない告知画像と設営

以前は告知に全く力を入れていなかった弊同人サークル「にしきかむろ」ですが、さっぱり売れなかったコミケを期に同人活動と告知は切っても切れない存在だとようやく気付きました。

C97向けの告知では、サークル配置時と入稿完了時にTwitterとPixivで告知を行っています。

s-C97告知_20191103

サークル配置時にはサークルカット・サークル名・本の表紙のイメージ画像を載せたものを上げています。このような変わった本に興味のある少女終末旅行のファンがどれくらい居るのか未知数だったので、この画像への反応(いいね数・リツイート数)を見て発注部数を45部に調整しました。

告知画像でも少女終末旅行のあのシーンっぽい背景を使用しています。

画像14

入稿時に上げた告知画像です。サークル配置時からは表紙画像を変えています。より少女終末旅行のファンに存在が伝わるよう、作品名を大きく入れました。

Twitter・Pixivでの告知画像を作る上で、同人誌の添削で有名なPOO松本氏の告知画像講座を参考にしています。視線は左上に始まり、左下までは戻らないとのことでしたので、左下に重要な情報を載せていません。

画像8

Pixivでは本の雰囲気を掴んでもらうために一部ページを掲載しています。単に本文をボカすのは面白くなかったので、テープのような隠しを入れています。読みにくいものの、読もうと思えばなんとか読める仕様です。

テープの元ネタは小島秀夫監督が手掛けたゲーム、デス・ストランディングのダメージセンサーテープです。

画像23

もちろんそのままのデザインではなく、筆者のアイコンを浮かべるようにボーダー柄に変えて、弊同人サークル「にしきかむろ」のロゴとバーコードっぽく「GLT UNOFFICIAL FANBOOK」(少女終末旅行同人誌)を入れています。

コミックマーケットのウェブカタログではサークルカットに動画を指定することができます。今回は少女終末旅行OPに沿ってのタイポグラフィーにしてみました。

本来はキャラクターの顔を動かすためのものでしょうし、意図されない使い方だと思います。サークルカットを動画にしたからといって同人誌が売れる、なんてことは考えにくいでしょうし、単純に遊び心です。

おしながきは業務の都合によりコミックマーケット直前に作成しました。サークルカット、アイコン・ロゴ、サークル配置案内、各頒布物価格を載せています。

以前は配置番号だけ載せとけばいいと思い込んでいましたが、告知画像にサークル配置まで入れるのが昨今の流れのようです。

このおしながきもPOO松本氏の告知画像講座を参考にしています。16:9画像にしておいてB4で印刷するとポップに転用できるとのこと。

画像2

コンビニでB4印刷して実践してみました。売上を入れるコインケースの目隠しにもなっていい感じです。

新刊は少女終末旅行っぽく螺旋積みにしてみました。本当は万引き防止と購買欲を煽るために数冊だけ出しておくのがいいそうです。

画像16

ちなみに、ツイートにある会津若松のさざえ堂はこんな外観です。
(さざえ堂は二重螺旋構造なので、螺旋積みとさざえ堂は相違あります)

画像1

PayPayの個人用アカウントのQRコード(ダミー)を印刷して置いておき、希望者へはスマートフォンでPayPay決済(PayPay個人間送金)する試みもやってみました。

右下はまちカドまぞくのシャミ子のセリフをもじっています。

実際にPayPayでキャッシュレス決済して頂いた方は3人居ました。ちょっとずつでもキャッシュレス決済が広まるといいですね。

コミックマーケット97当時は同人誌即売会に特化したpixiv PAYも存在していましたが、先日ついに日の目を見ないままサービスが終わってしまいました。

pixiv PAY普及のためにpixiv Marketまで開いていたのに、終わるときはあっけないものです。時勢柄、同人誌即売会は規制方向ですし、仕方ないといえば仕方ないのですが……。

おかげさまで2時過ぎに新刊は完売しました。

対面販売専門の弊同人サークル「にしきかむろ」では、2時ごろまでにさばける分だけ発注する方針なので、読みは正しかったと思います。

創作するって尊い

2012年のサークル設立当初から一貫して、弊同人サークル「にしきかむろ」は創作する人向けに頒布物を作っています。

アイデアを思いついたとしても、世の中に形として出すことは少なからず自己犠牲を伴い、決して楽な道ではありません。ゆえに、創作活動は尊いと考えています。

もし、この記事を読んで何かしらを作るアイデアやモチベーションになれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?