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アニマの祈り

初めまして、N7thという者です。
こちらは、ボカデュオ2024にて制作した、『アニマの祈り』の小説となっております。ぜひ曲と併せてお楽しみください。
MV→https://www.youtube.com/watch?v=Dhc-EBdmAkY


僕には昔から霊感があった。といっても、特段強い訳では無く、日常生活を過ごす中で、たまにモヤっとそれっぽいのが見えるくらいだ。霊感があると言えばちょっと羨ましがられたり、持ち上げられたりする。でも、別に霊感があったって別に良いことはないし、得することもない。だから、そんな僕の霊感がこんなにも僕の人生を左右する事になるとは思わなかった。

彼女とは高校の入学式の日に初めて会った。会ったと言っても廊下ですれ違って、ちょっと肩がぶつかって、すみませんってお互い頭を下げて、それだけ。その時の、すみません、と言って、頭を上げた彼女の顔を僕はずっと忘れないだろう。別にとても美人だったとかそういう訳ではない。ただ、彼女と目を合わせたその瞬間、彼女のふわっとした笑顔が僕の心に焼きついたのだ。ただそれだけ。ただそれだけなのに、僕は少しの間何も考えられなくなっていた。彼女の、特段華やかでもなく、特徴のあるわけでもない、でも素朴な笑顔を、僕は心から素敵だと思った。僕がそれを一目ぼれだと認識したのはもう少し後だった。彼女とはクラスが違ったから頻繁に顔を合わせる事はなかったが、例えば彼女が登校する時間に僕も合わせたり。彼女が吹奏楽部の部室で一人自主練しているのを通りすがりにちらっと見たり。彼女のふわっとした笑顔を遠くからでも見られた日には密かに一人喜んだり。そうやって彼女を見ていられるだけで僕は満足だった。そうやって僕の高校一年目は終わりを迎えた。

高校2年生になって、僕は彼女と同じクラスになった。そして僕は彼女の前の席になった。まるで少女漫画のご都合主義さながらだ。一つ漫画と違うのは、一番後ろの席でも端の席でもなく、右から2列目の、僕が前から3番目、彼女が4番目ということ。でも、僕はその決して特等席と呼べない席でも舞い上がる程嬉しかった。いつも遠くから眺めているのが当たり前だった彼女が常に隣にいるのだ。席に座ればいつだって後ろが気になるし、自分の後ろ姿だけでもカッコよく見られようと意識した。少女漫画なら、どちらかが教科書を忘れたから見せてくれだの、係が同じになっただの何かと二人の会話を生むような展開になるのだが、現実そう上手くはいかず、前後の席だからって接点がないと中々話すことはない。唯一話す時と言えば、国語の授業中とか、『近くの人と意見を交換してください』と言われた時くらいである。みんな高校生にもなるとそんな時間にちゃんと意見交換するのはごく少数なのだが、僕は彼女に真面目な人だと思われたくて、というか彼女と話したくて、しっかり意見交換をした。彼女の意見はどれも素敵で僕にはない彼女だけの切り口から考えられていて、とても新鮮だった。国語が苦手な僕としては単純に色々勉強になったし、彼女には新たなる尊敬の念を抱いた。
そして初めて同じクラスになったことで、彼女の今まで知らなかった一面も知ることとなった。彼女は困っている人がいるとほおっておけないタイプで、誰にでも手を差し伸べるような、心の底まで暖かくて優しい人だった。だからといって、クラスの中心にいる訳でもなく、穏やかで物静かだった。そして、あのふわっとした笑顔は今でも変わらず誰よりも素敵だった。僕は本当に幸せだと思ったし、願わくばずっとこのままでいられればと思った。

新年度が始まって少し経った7月の初めくらい、初めて彼女が授業以外で僕に話しかけてきた。
おはよう!
え?あ、おはよう
今日も暑いねー
うん、暑いなー
だだこれだけ。でも、僕は彼女から話しかけて来てくれたことが何よりも嬉しかったし、仲良くなるチャンスだと思った。これ以降、彼女は毎日僕に話しかけてくるようになった。
今日の5限の歴史の授業だるいねーとか、○○先生のこの話知ってる?とか、部活で今何やってるの?とか、本当に何気ない会話だ。でもそういう会話だったからこそ、僕と彼女は次第に打ち解けていった。僕も最初は彼女と話せる喜びだとか、緊張とか、そういう物ばかりだったけれど、次第に彼女と話していて落ち着きとか、安心を見出すようになった。いつもと変わらず、彼女と何気ない会話をする。それは彼氏彼女の付き合っている関係とか、そういう特別な名前で飾られなくても、静かな幸福を覚える、そんな日常だった。今思えばあの頃が一番幸せだったかもしれないと思う。だって、僕の学校生活のど真ん中には、ふわっと笑う彼女がいたから。

秋になって、文化祭の季節になった。別に文化祭二人で回ろう!!とか、そういう物はなかった。だが、当たり前のように彼女からは吹奏楽部の文化祭公演のチケットを渡され、僕は当たり前のように見に行った。世界でこんなにも凛々しく美しくフルートを吹く人を僕は初めてみた。彼女が練習しているのをちらっと見たことは何度かあったが、何気にしっかり演奏しているのを見るのは初めてだった。公演後、彼女に、とても良かったよ、と伝えた。彼女はありがとう、頑張って良かった、とふわっとした笑顔で笑ってくれた。満面の笑みだった。恐らく、彼女が僕一人を相手にここまで笑ってくれたのは初めてかもしれない。勿論、それに対して嬉しくもあったが、彼女が笑って文化祭を終えられたという安心と笑顔でいてくれる幸福の方が、もう何倍も大きかったのだ。

12月の半ば頃、僕は彼女を遊びに誘った。遊びと言っても、ただ僕が見たい映画と彼女が見たい映画が同じだっただけで、二人で見に行った方が楽しいと思ったからだ。彼女もこの誘いに乗ってくれるという確信はあったものの、流石に僕は緊張していた。

葛谷、ちょっといいか?
うん、何?
あのさ、この間言ってたみたい映画あるだろ?
うん、そう、あれまだ見れてないんだよねー
もしよかったらなんだけどさ、一緒に見に行かない?実は俺も見たいってずっと思ってたんだけど見れてなくて・・
・・いいね、一緒に行こう!
・・良かった!じゃあ、いつが空いてる?
うーんと、、、24日とか、ダメかな?
いや、別に大丈夫だけど、いいのか?友達とか、、、恋人とかと一緒に遊ぶ約束とかないの?
えっと、、、この日は、わざとあけておいたの。私、別に恋人なんていないし。菊池君こそ、付き合ってる子とかいないの?
俺は別にいないよ!!!・・いるわけないじゃん。
・・そっか。じゃ24日で決まりだね。

僕と彼女は12月24日、初めて二人で出かける約束をした。この時点で僕も彼女も薄々勘づいてはいた。この気持ちは、一方通行ではないらしいことを・・

12月24日、この日は一段と寒かった。クリスマスイブということもあり、街はいつも以上に賑わっていた。待ち合わせの時間の15分も前に、集合場所の駅についた僕は少し緊張しつつ、でも楽しみの方が勝っていた。そして待ち合わせ時間の5分後、

お待たせ!!

と言って、彼女は駅前の道路の向かい側に姿を現した。そして、あのふわっとした笑顔を見せてから、彼女は横断歩道に足を踏み入れた。その時だった。突然自動車が猛スピードで彼女に突っ込んできた。僕は暫くの間何が起こったのか分からなかった。気が付けば救急車のサイレンと、野次馬の騒ぎ声が僕の耳に鳴り響いていた。目の前にあるのは、ぐにゃりと曲がった彼女だった。

僕はそれから後の記憶は殆どない。病院でも家でも彼女の葬式でも僕は泣けなかった。もう感情がぐちゃぐちゃになっていた。葬式で、彼女の母親に、

これ、九重が事故に会った日持っていた物なんだけど、多分あなたにって、

と言いながら袋を渡された。そこにはボールペンと、誕生日おめでとうのメッセージカードが入っていた。そういえば僕は誕生日だったと今更ながら思い出した。
それが、唯一の救いだった。

冬休みがあけて、当たり前のように普段の学校生活に戻った。でも、もうそこには彼女は居ない。僕の心のど真ん中でいつもふわっと笑っていた彼女はもういない。僕の心はずっとぽっかり穴が空いていた。心がクラクラして仕方なかった。学校にいるときは友達もいるし、いつも騒がしいから気が紛れた。でも、家に帰って、自分の部屋に入るとやっぱり苦しくて、辛くて仕方なかった。
、、、会いたい、僕は、まだに葛谷伝えられていないことが沢山あるんだ、、
その時、急に背中がぞわっとした。これは、と思った。僕は幽霊の気配を感じるといつも背中がぞわっとする。またいるのかと顔を上げた時である。僕の目の前には、紛れもない彼女がいた。

葛谷・・?

彼女は一瞬驚いたような顔をした。そして何か口を動かしていたが、僕には伝わらなかった。

本当に葛谷なんだよな・・?

彼女は今度はゆっくり頷いた。僕は彼女に触れようとした。その瞬間僕の手は彼女の体を通り抜けてしまった。

ああ、そうか。そうだよな、もう死んでいるんだよな。

彼女は悲しそうに首を縦に振った。僕は話を続けた。

君は今、幽霊となって、僕の目の前にいるんだよな?葛谷は僕の声が聞こえるけれど、葛谷は話しても俺に届かないんだろ?
これ話してなかったんだけどさ、実は俺、霊感があるんだ。幽霊とか、そういう類の物がたまに見えたりする。だから今、俺は葛谷が見えているんだ。

彼女は嬉しそうに何度も頷いた。

そうか、、、・あのさ、これ、もし奇跡が起こって、葛谷に直接伝えられればと思ってたんだけど、、、本当にごめんな。俺が映画に誘ったから、あんな事故に巻き込まれて、、あと、誕生日のプレゼントもありがとう。凄く嬉しかったよ。

彼女は泣きそうな顔をしていた。彼女も何か言いたげだったが、僕に伝わらないのがもどかしいようだった。僕はその後も彼女に話しかけた。暫くして彼女は消えてしまったが、僕は彼女に心残りだった事を話せて本当に良かったと思った。
それから、彼女は度々僕の前に現れた。彼女の生前とは違って、僕が一方的に話すだけだったけれど、会話の内容はやっぱりとりとめのないことだった。今日はこんなことがあった、今これをやっているんだ、とか。彼女は僕の話を嬉しそうに聞いてくれた。
でも、彼女とはもう会話できないし、触れることもできないし、笑いあうこともできない。僕は次第に虚しさを覚えるようになった。いくら彼女が幽霊として現れたからって、現実では何も変わらないのだ。僕は彼女に会いたい、会ってこの気持ちを伝えたい、という想いが膨らんでいった。でも、これだけはどう願っても何をしても、絶対に現実には起こり得ない。そんなことは分かっているけれど、それでも、彼女のあの、ふわっと笑う姿をもう一度見たかった。

学校へ向かう電車を待つ、朝のホーム。今日は人がほとんどいない。もう3月だというのにかなり肌寒い。僕は一人電車を待ちながら、ちょっと呟いてみた。

葛谷、会いたいな、、

俺、葛谷の事、、、好きだったんだ

その声を、ホームに入ってきた電車は轟音と共に哀しくかき消した。

その瞬間、僕は意識を失った。


彼とは高校2年生の初め、席が前後になったことで知り合った。別に席が前後になったからって特段仲良くなったとかではない。だけれど、彼は私を肯定してくれた。
私はちょっと人とは違うらしい。考え方とか感じ方とか。それが日常生活に支障がでることはなかったが、国語となると話は別だ。主人公の気持ちとか、筆者の主張とか、いつも模範解答とはどこかずれていた。そんな解答を、先生は切り捨てたし、友達も、「それはちょっと違くない?」とか言った。私としては、真面目に考えて、真剣に答えを出したつもりなのに、何故×なのか分からなかった。
国語の授業で、隣の席の人と意見を交換しましょうとよく言われる。私が意見を言うたびに、「え、何それ?」とか、「ああ、確かにそうだね、、、」とか、気遣われるのが嫌で、ずっと前から自分から意見は言わないようにしていた。彼と初めて話した時もそうしようとしていた。

⋯って俺は思ったんだけど、国語の答えとしてはダメだよな、、
ううん、凄く良いと思う。その考え凄く素敵だと思うよ。
そうか?それで、葛谷はどう思った?
私の答えなんて聞いても面白くないよ、的外れだし。
・・それでも俺は聞きたいよ!そんな、的外れかなんて言わなきゃ分かんないだろ。
いやでも、、、
ダメか?
・・分かった。私はね、・・・
え、すげえ。よくそんなん考えられるな。
だから言ったでしょ。的外れだって。
違う違う!!よくそんな誰も思いつかないような視点で、それでいてこの話に当てはまるような凄いこと考えられるなって意味!!
・・え?
俺国語苦手だからさ、正直主人公の気持ちなんて一ミリも分かんないけど、葛谷はちゃんと分かってるんだな、、、すげえよ、、、
・・あ、ありがとう。なんか嬉しい、、

彼は私のとんちんかんな考えを受け入れてくれた。それが本当に嬉しかった。そうして、この国語の授業中の意見交換が密かな楽しみとなった。気が付いた時にはもうかなり彼に心を許していたように思う。

7月の初め、席替えをしたことによって、彼と話すタイミングを完全になくしてしまった。私は純粋に嫌だと思った。もっと彼と色々話したい。私の考えていることを聞いてほしい。そう思って、思いきって彼に授業以外で初めて話しかけてみた。

おはよう!
え?あ、おはよう
今日も暑いねー
うん、暑いなー

ただそれだけ。それだけだけど、私は彼と話せた事が本当に嬉しかった。それから、彼とは毎日少しだけお喋りをした。他愛もないことを毎日少しだけ。それが本当に楽しかったし、安心出来る事になった。彼に対する感情も、夏休みに入る前には「友達」という枠に収まらないと自覚した。

文化祭の公演に彼が来てくれた時は本当に嬉しかった。周りは、ソロパートとか、目立った活躍のあった子ばかり褒められていたけれど、彼は私だけを褒めてくれた。それが救いだった。この人を信用しても良いんだなと心の底から思った。
私は文化祭の間、体育館で行われているバレーの試合をこっそり見に行った。バレーをプレイしている彼は本当にカッコいいと思った。キラキラ輝いていて、誰よりもバレーに真剣だった。でも何だか恥ずかしくて、彼にはバレーの試合見に行ったよ、とか、カッコ良かったよ、と最後まで言えなかった。今思えば本当に勿体ない事をしたと思う。あの時は、彼と話す時間がいつまでも続くと本気で思っていたが、そんなのは錯覚だったって気が付くのはもっと後の話だった。

彼から初めて映画に誘われて、日程を24日にしてもらった。いつかその場のノリでラインを交換した時、彼のステメに誕生日が12月24日と書いてあるのを見てから、密かに24日には、直接誕生日プレゼントを渡そう、直接祝おうと決めていた。まさか、彼から誘いがくるなんて思ってもみなかったが。そして、彼はクリスマスイブに一緒に過ごす相手を、「いるわけない」と言ったから、多分そういう事なんだと思う。私は当日、誕プレを買ってから待ち合わせ場所に向かおうと思った。しかし、思った以上に選ぶのに時間がかかり、待ち合わせ時間を少し過ぎてしまった。走って待ち合わせ場所に向かうと、もう彼はいた。彼もこちらに気が付いたので、駅前の横断歩道を渡ろうと足を踏み出した瞬間、私は意識を失った。
気が付けば私は魂だけの状態になっていた。俗にいう幽霊である。私は最初は全く受け入れられなかった。なんで?どうして私が?どうして私がこんな目に合わなければいけなかったの?なんで?
幽霊は現世に未練があると成仏できないから、私は現世に留まった。私は残された時間を彼と一緒に過ごしたいと思った。勿論、彼に私は見えないから私が一方的に彼の傍にいるだけになってしまうのだが。彼は私が死んでから、ずっと虚ろな目をしていた。悲しさなんて通り越したようで、心にぽっかり穴が空いていた。そんな彼を私は可哀想だと思ったし、それほど私を大切に思ってくれていた事を知って少し不謹慎だが嬉しかったりもした。でもずっと浮かない顔をしている彼を見て、私が彼の前に現れたらどんなに救われるだろうと思っていた。そんなある日の事である。

葛谷・・?

彼は私の方を向いてそう言った。

菊池君?

と言ってみるも、彼から返事はない。

本当に葛谷なんだよな・・?

今度は頷いてみた。すると彼は私に触れようと手を延ばしてきたが、その手は私を通り抜けてしまった。

ああ、そうか。そうだよな、もう死んでいるんだよな。
君は今、幽霊となって、僕の目の前にいるんだよな?葛谷は俺の声が聞こえるけれど、葛谷は話しても俺に届かないんだろ?

一体どういう事か分からなかった。でも、確実に彼は私の事が見えている。

これ話してなかったんだけどさ、実は俺、霊感があるんだ。幽霊とか、そういう類の物がたまに見えたりする。だから今、俺は葛谷が見えているんだ。

私はこれ以上ない奇跡だと思った。まさか彼が私の事を見えるなんて。私は嬉しくて首を何度も縦に振った。

そうか、、、・あのさ、これ、もし奇跡が起こって、葛谷に直接伝えられればと思ってたんだけど、、、本当にごめんな。俺が映画に誘ったから、あんなっ事故に巻き込まれて、、あと、誕生日のプレゼントもありがとう。凄く嬉しかったよ。

私は泣きそうだった。私だって、私だって彼に伝えたいことが沢山ある。だけれど、幽霊の声は人間に届かない。私はもどかしくてたまらなかった。これに関しては本当にどうしようもできなかったけれど、それでも十分私は嬉しかった。

それから度々、彼は私が見えている時、私に話しかけてくれた。彼が私を見えている時間はまばらであり、私はずっと彼の傍にいたけれど、彼がそれを見えるのは偶にだけだった。彼は私に色々な話をしてくれた。私はそれを黙って聞くだけだった。彼が話してくれるのは彼の優しさだけれど、私が話せない事がもどかしいのは変わらなかった。私はどんどん苦しくなっていった。当たり前だが、私は幽霊なので、彼に触ったり会話することができない。目の前にいるのに気持ちを伝えられない。それが辛くて辛くて、悲しかった。それは彼も同じように会話が出来ないことが辛いようだった。
私はどうしたら彼と会話できるのかを考えた。解決策を見つければ私だけでなく、彼も救われるだろう。彼が前に進むために、彼の為にも私は解決策を考えなければいけないのだ。私は考えに考え抜いて、そしてある時、ふと思いついた。私と彼がもう一度話せる方法。

学校へ向かう電車を待つ、朝のホーム。今日は人がほとんどいない。もう3月だというのにかなり肌寒い。彼は一人電車を待っていて、私はいつものように彼の傍にいた。この日は私の姿は彼には見えていなかった。ホームに列車が入って来た所で、彼がふと呟いた。

葛谷、会いたいな、、

俺、葛谷の事、、、好きだったんだ

その声は、私の中の何かをぷつっと切った。

その瞬間、私は彼の背中を押していた。

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