おむつをはいて中学校に行った話


学校におむつを履いていくことになった経緯

あれは、中学2年生の1学期、新しく年度が始まる日の出来事。
春休みが終わり、学期初めにはほとんどの学校で始業式が行われるだろう。うちの学校でも、全校生徒が体育館に集まり始業式が行われる。

この全校生徒が集まる式典というものが自分にとっては相当憂鬱なものだった。その空間は、物理的に閉じ込められるよりも強い拘束力を持っていると、いつも考えてしまう。
何が憂鬱かは、タイトルを見た皆さんなら簡単に当てることが出来るだろう。そう、おしっこ問題である。
なかなかパワーワードだが、これは自分のような人間には相当なプレッシャーになる。うちの学校の始業式は、初めに始業式その後休憩なしで新任、クラス担任、部活動顧問紹介というながれが慣習になっている。酷いときには、その後更に表彰式まであり、二時間もの拘束時間になることさえある。

普段からトイレが近く50分授業終わりの休み時間、必ずトイレに行かないと次の時間には漏らしてしまうこともある膀胱の小ささに加え、緊張すると一気に内容量の減る膀胱の謎仕様、この2つの影響を同時に受けるのが式典である。普通の人からすれば、ただ途中でトイレに行けば良いだけの話のように聞こえるかもしれないが、全校生徒が座っているなかで一人だけ立ち上がってトイレに行くなんて絶対にできないと思い込んでいた。実際、今その時に戻れるとしても無理だろう。

そこで当時の自分はとんでもない策を思い付く…
そう、この作品のタイトルでもあるおむつだ。

始業式当日朝

当日の朝の目覚めは最悪だった。朦朧とする意識の中でも、今日が始業式だ。という思考だけは脳内にこべりついていた。重い体を起こして、近くに親が居ないことを確認してからカラーボックスの下段に置いてある段ボールでできたボックスを引きだす。そこには大人用のおむつが入っていた。以前薬局へ行って買ったものだ。

今思えば中学2年生の160cm位の身長に対して大人用なんて履けば、ズボンの上からでもバレそうなものだが、その時は子供用は赤ちゃん位のサイズしかないと思い込んでいたので選択肢は一択だった。明らかにオーバーサイズのおむつを手に取り、ズボンとパンツを急いで脱いでそれを履いた。以前買ってすぐ、試しに履いてみた時には大きい吸水体が綿のように股を包みこんでくれていて、気持ち良かったが今はそんな余裕はなかった。取り敢えずトイレに行き、おむつを脱いでトイレをする。しかし新しいおむつにおしっこが付くのが何となく嫌だった為、いつもよりも念入りあそこを拭いた。それからは背後を気にしながらいつも通り朝食を取って、身支度をして、家を出た。

自分の家は中学校までそこそこ遠かったので基本的に車通学であった。祖母の車に乗って学校へ向かう。20分程で学校付近の駐車場へ着くと、もう既に多くの生徒が登校していた。本当は誰もいないような早い時間に来る予定だったが、朝早起きが苦手な自分には不可能だった。しょうがないので、なるべく目立たないように学校まで歩くことにした。

車から降りて数歩進んだところで、自分はある事実に気付き冷や汗をかいた。それは学生服とおむつが擦れるような音が聞こえたからだ。
初めは自分が耳を澄ましているから聞こえているだけだと自分を落ち着かせようとしたが、一度意識しだしたら急に心配になって、その思考が止まらなくなった。急いで進路を変更。少し遠回りをして学校の裏門から入り、自転車小屋の方を通った。そこには盗難防止で砂利がひいてあった為、音を誤魔化せるんじゃないか。と考えたからだ。周りの生徒を横目に見ても何も反応はしていないようで何とか胸を撫で下ろしたが、まだ安心出来ない。いくら遠回りしたとしても学校に玄関は1つしかない。

どうやってもそこを通り抜けないと教室には向かえない。そこで一つ案が思い付いた。保健室にかけ込む、だ。詳しくは語らないが、自分は何かと病んでおり保健室のお世話になることは多かった。保健室には、玄関を通らずとも入ることができる。これしかなかった。

自転車小屋を通り抜け少ししたところに、職員玄関。その奥に保健室のドアがあった。正直、保健室に入っていくのが見られるのは凄く嫌だったが、腹をくくりあえて周りの様子を伺うことなくドアノブをひねった…

保健室にて

まだ朝の登校時間、そして外から窓を見るとカーテンも閉まっていたので、鍵が開いているか不安だったが、無事ドアは開いた。いつもの光景。しかし電気はついておらず、スモークのかかったドアも、遮光カーテンも閉まっていたせいで、少し神秘的で不思議な空間になっていた。

「先生?」と聞くが返事はない。始業式の準備でもあるんだろうか。

本当はトイレに行って、おむつの上から一応持ってきていたパンツを履いて音を誤魔化そうとしていたが、誰も居ないことを確認してここで着替えることにした。背負っていたカバンをおろして、その中から急いで今日の朝まで履いていたパンツを取り出した。周りを見渡して、ドキドキしながら学生服を脱いでおむつの上からパンツを穿いた。凄く変な感じがしたが気にせずに学生服をもう一度着直す。保健室の中を軽く歩いてみると、おむつ特有の音はほとんど出ていなかった。おむつを穿いたとはいえ、始業式は憂鬱で、このまま保健室に居ることも考えたが、後日休んだ理由を友人等から聞かれるのが嫌だったのにも加えて、2年生に上がって一回目の顔合わせに出席しないのはどうなのか、クラスに馴染めない可能性が高くなりそうだなと思い、しぶしぶ保健室を後にした。

体育館へ。本番前

正直体育館へ向かう所は記憶があやふやだ。取り敢えず玄関に戻ると、時間が時間で登校する生徒の数もだいぶ減っていた。そこに張りだしされているクラス表から自分の名前を探して、出席番号を確認。足早に直接体育館へ向かった気がする。体育館へ着くと結構な人数が既に集まっていた。がやっておくことがある。トイレだ。ここは中学校であって、当時の自分にとってはそこでの自分が全て!おむつを履いているとはいえ、絶対におもらしなんかしたくなかった。体育館のトイレに向かい、個室に入る。制服を下ろすとそこには白いおむつ。これが同級生に見つかれば人生終了。その考えが自分の緊張に拍車をかけた。トイレを済ませて出てくると、もう生徒は並び始めていた。すぐにその中に入り平静を装って整列を始める。舞台から見て、右から1年生、2年生、3年生。と並ぶため2年生は真ん中、しかも自分はクラスの中でも真ん中に位置するため体育館のほぼド真ん中。絶対にトイレになんて立てない位置に座らされた。

詰んだ。と普段なら思っているだろうが今回は違う。おむつを履いている。安心感と羞恥心と緊張が交じりあい、まったく持って意味の分からない感情になり、混乱しながら始業式が始まる。

始業式→新任式の絶望コンボ

整列終了後、5分ほど待たされて、ついに始業式が始まった。ここからは、自分の膀胱に祈るのみだ。

「起立!」と号令がかかる。

皆に合わせて立ち上がると、膀胱よりも下の方で感じた絶望的な感覚。そう、おしっこに行きたくなったあの感覚だ。今思えば、膀胱の方に集中し過ぎて過敏に反応してるだけと思えるが、当時はそんなこと考えてる余裕もなく、更にネガティブな方向に思考が向いていく。

校長先生の話が、耳まで届いても頭で理解する余裕などなく、早く終われ早く終われと頭の中で念じ続けていた。始業式一発目の項なのにも関わらず、無慈悲にも校長先生の話は15分もかかり終了。

次は各学年1人生徒代表で抱負の作文を読み上げる。全員で3人。時間が進むごとにこれなら我慢が出来る!と気持ちが楽になっていき、3人発表が終わった頃にはギリギリ何とか大丈夫か?と自分の膀胱と相談出来るほどになった。

次は生活指導担当教員からの話。どこの学校でも同様な気がするのだが、生活指導の先生は滅茶苦茶厳しい。自分の学校の生活指導も、厳しい体育の先生で、声、身体、態度が大きい、絵に描いたような体育教師であった。

壇上に立つと、いきなり
「起立っ!」と号令をかけた。

さっきのことがあった為、おそるおそる立ち上がると、同じ場所に更に大きな違和感を感じた。
座って居ると感じにくいが、着実に、しかもハイペースでおしっこは貯まっているようだった。

挨拶をさせて、先生がまた号令をかけて座らせる。

座ると尿意は少し収まるのだが、立った時の現実を知ってからは、それはただの虚像であるように感じた。

見た目とは裏腹に、話は簡潔にまとめてくれていて、5分ほどで終わった。これまで感じてこなかったが初めて、体育の先生に好感が持てた瞬間だった。
その後は交通指導、学習指導からの話があった、が皆長話はせず要点だけ話してくれた為、全て合わせても15分ほどで終わってくれた。
始業式はここで終了だ。しかし、ここからは休憩なしで新任式へ直行する。ここからが本当の地獄だ。

何故か心配になりおむつにおしっこ

始業式が終わり間髪を入れずに、新任式が始まる。
新任式と言うのは、新しく学校に赴任してきた先生の紹介である。舞台上で一人ずつ自己紹介をしていく。その時の新任の先生は4人だった。多くも少なくもない前年と同じような数字だが、その数字には、余命宣告のような重みがあった。

新任式が始まった時には、座ったままでもハッキリとおしっこがしたい、という信号が脳に送られて来るようになっていた。

学校でのおしっこ我慢は、誰しも一回は経験があるんじゃないだろうか。限界に近づいた尿意には波があり、我慢するためにはそこを乗り越える必要がある。一人目の話の中盤で、その大きな波が来るが耐える。ここまで来ると気持ちの持ちようで少し状況が変わってくる。おそらくこの時おむつを履いていなかったら、一回目の波でおもらししてしまっていただろう。おむつがあるから万一もれても大丈夫。という保険があったからこそ、本当の限界まで耐えることが出来たんじゃないかと思っている。

少し話が脱線したが、二人目、三人目、四人目と同じように波が来たが耐えて見せた。
拍手で新任の先生方を迎えいれると、

「これで新任式を終わります」と放送される。

これで終わった!何とか耐えたぞ!!と思った次の瞬間、

「続いてクラスの担任を発表します」

忘れていた

本当にほんとうの絶望だった。

皆にとっては待望の担任発表だ。

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