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なんとのんきな国だろう

経済評論家の加谷珪一氏が現代ビジネスで『日本企業が「賃上げ」をできない「根本的な理由」…経営者たちが「仕事をサボっている」驚きの現実』という記事を書いている。

日本における賃金が上がってこなかった理由が明白だ。
私は人事を担当していることが多かったので、この理由は、個別企業の事情から見えていた。
給与を決定していく場合、企業別や業種別、あるいは役職別、さらに雇用形態別に我が国の賃金水準をみる。

当然、管理職として人事労務を担当するのだから、会社側の立場で賃金を決定していく。
このような決定をしていくのは、人事の立場から当然だ。
そのような賃金データをベースにしながら、企業の利益水準と照らし合わせながら最終決定していく。
最終的には、経営判断となる。
中小企業では、経営判断で賃金が決まることが多い。
創業者が、経営の実態を把握しているからだ。
人事担当者からみれば、高すぎる賃金だと思うのだが、自社の成長のために創業経営者は賃金を上げていった。
実際、企業はすばらしい成長を遂げている。

他方、大企業の賃金は、わが国独自の賃上げ方法である春闘によって、大企業を中心とした横並びを形成しやすい。
バブル崩壊で大手企業の業績は厳しさを増した。
増しただけではない。
大企業が倒産し、銀行などに限らず多くの企業が合併などをおこなって、今日にいたっている。
大手企業の労働組合も、このような経済環境をみながら低い賃上率によって雇用を守ろうとしてきた。
もっとも、売上は伸びていないのだから、いわゆるコストカットすることで利益だけは上げてきたようだ。
また、これまでは定年制や非正規労働者のおかげで総額人件費を抑制できていた。
その結果が内部留保の問題へつながってくる。

そこで、私は、身近な存在である息子たちの企業とソニーの10年間の売上と利益の推移を出してみた。
私がではない。
これこそ、AIだ。
Perplexity Proにやってもらった。
瞬時に結果がでる。
ちなみに、労働分配率を計算させてみたが、驚くような答えを出してきた。
AIとは、秀才なのか、馬鹿なのかわからない。
結果は、売上と利益だけをみた。
この3社は、海外売上比率が高く、10年間ほぼ増収増益だ。
賃金は、息子たちに確認していたからおよそわかる。
利益と社員数からみると、給与は、長男の会社が一番低い。
株価は、ソニーとまではいかないが、それでも長男の会社は高い。
利益率が高く、利益額も大きいからだろう。
もっとも、株価はそれだけで決定されるわけではないが、私は、業績を大雑把にみているだけだ。

なにが言いたいか。
加谷珪一氏が示している表は、あくまで平均値であって、個別の企業の実態は別だということだ。
むしろ、平均ということは、個別企業でみればこのような状況にはなく、この表以上に厳しい企業があるということだ。
俗にいう企業間格差が生まれているということでもある。

賃金に関しては、就業人口が減少することで上昇が期待される。
そうであれば、企業間格差は、さらに拡大していくということだろう。
国内市場は、縮小し、企業間格差が拡大してくれば、国内競争についていけない企業が淘汰されていくということでもある。

企業というものは、本来生まれ持った機能として投資をしなくしては、成長しないのだが、人間は、投資を抑えることができる存在だ。
バブル崩壊という急激な経済環境の変化によって、わが国の経営者は萎縮してしまった。
現在、その上に人口減少社会だ。
経営者は、国内における投資を躊躇する。
シンプルに言えば、投資ができる企業とは、海外で稼げる企業ということになる。
気をつけておかなければならいことは、米国のような国では、工場誘致などの投資まで要求してくることだ。
国内の雇用が益々厳しくなることが考えられる。
これからの世代は、人口減少社会の現実を知り、地域紛争などによって同盟国からこれまで以上の協力と負担を求められることになる。

国民も人口減少社会の現実とこれから直面していく未来を想像してみることが必要だろう。
昨日、来年度予算案の概算要求額が30日に締め切られ、一般会計の総額は4年連続で110兆円を超え、過去最大となる見通しだ、と報じられた。
わが国の経済成長の現実は、総花的な経済政策や耳ざわりの良い地方創生などできるわけがないというのが、結論ではないだろうか。
どちらも国民に率直に話をし、中身ある議論が求められる。

また、他の国ができない特徴ある技術や製品、あるいは農産物などを生みだしていくことが急務だ。
個別企業で世界へ挑戦している企業はたくさんある。
このタイプの企業は、積極的に投資をおこなう。
理由は、シンプルだ。
食っていけなくなるからだ。
企業の成長を支えることができない経営者ばかりになってくれば、国を支える力もなくなる。
国力が落ちていることは明白だ。
さらに多くの企業が、中小企業を含めて海外へ挑戦しなければならない。
Coca-Cola、P&G、ユニリーバ、ネスレなど最初から大企業だったわけではない。
それぞれ企業が独自に海外へ挑戦してきたから巨大企業になっただけだ。

そんな時代に政治家の裏金問題とは、さらにわが国の危機を深めていく。
与党、野党と牽制し合っているときではないだろう。
内向きの議論をしている時間はない。

この場に及んでも、なんとのんきな国なのだろうか。

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