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心リハって何すること??

一般の方向けできる限りわかりやすく、まとめたいと思います。

今回は治療については書きません。看護師目線で書いてみます。

心不全とは

よくニュースなどで死亡原因として目にする、心不全。

これは病気の名前ではありません心臓の状態のことを指します。

原因は様々で、弁膜症による心不全、心筋梗塞後の心不全、高血圧による心不全、心筋症からの心不全、腎機能悪化からの心不全…

あとは、高齢になると筋力が弱まり、体力が減り、全身が衰弱していくのが想像つくかと思いますが、心臓の機能も当然弱まり、それによって心不全になることもあります。

心臓は全身に血液を送り出すポンプの役目をしていますが、その機能が低下している状態でも、心臓は頑張って頑張って血液を送ろうとして、やがて疲れてきます。

心臓はそれでも、なんとか全身に血液を送ろうとし、心臓に血液をためて呼吸苦が、全身の血液の流れが悪くなりうっ滞した状態では浮腫が出現します。

患者さんの主訴として、呼吸苦(特に労作時)浮腫…これが1、2位そ争うくらい多いです。

心不全

心不全には心筋梗塞などによって起こる急性心不全と心不全の状態がずっと続く慢性心不全があります。

今回は慢性心不全を中心に書いていこうと思います。

日本の心不全患者さんの人口

しんふぜん 人口

国立社会保障・人口問題研究所の平成18年12月推計による日本の将来推計人口および Okura Y, et al. Circ J. 2008; 72: 489-91. 

このグラフをみると、日本の総人口は減っているのに、心不全患者数は横ばいなのがわかるかと思います。

これからも、人口に対する心不全患者の割合はどんどん増えていきます。

これは日本人の寿命が延びたこと、心不全の治療が発達したからといえます。

そして、治りにくい病気だから…。

心不全は悪くなる前に食い止める必要がある

心不全の重症度を判断するには、ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association:NYHA)の分類がよく用いられます。

ちなみに、ニーハと読みます。

これは患者さんがどう感じているか自覚症状で分類わけしているものです。

にーは

数字があがるほど重症なのですが、Ⅳ度になった患者さんは、治療しなければ、2年以内に50%が亡くなるといわれています。
また、心不全全体の年間死亡率は7~8%ですが、Ⅲ度では20~30%になるといわれています。

なので、Ⅰ、Ⅱ度の状態を維持する必要があるのです。

心不全ステージ分類

NYHAとは別に2001年ACC/AHA(American Heart Association / American College of Cardiology)の心不全に関するガイドラインから登場した心不全ステージ分類を最近ではよく目にします。

無症候であっても早期に治療介入することが推奨されており、適切なタイミングで適切な治療が受けられるように作られました。

心不全 重症度 ステージ

ちなみに、心不全におけるACP(アドバンス・ケア・プランニング)はステージCから介入すべきと言われていますが、実際、患者さんが今どのステージにいるのかって難しかったりもするので、私は患者さんに出会ったその日からACPは介入すべきだと思っています。。。

NYHAと心不全ステージを関連づけた図もしめしておきます。

ニーハと心不全ステージ分類

ん??NYHAのⅢ、Ⅳが複数でてくる?

そうなんです!!!!!!!!


病みの軌跡

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これはがん患者さん、心疾患患者さん、認知症患者さんの亡くなるまでの経過をしめした図です。

心不全患者さん(とくに高齢者)は、心不全を起こして入院するたびに全身状態が1段階ずつ低下し、入院前の状態まで回復することはありません。

これを亡くなるまで繰り返していきます。

なので、前の項目でⅢ、Ⅳが複数回出てきているんです。

そして入院治療によって状態が”一旦は”改善するため「治った」と思いこみ、入院中に行った生活指導などが守れずに再入院をする人も少なくありません。

繰り返しますが、NYHAⅠ、Ⅱに患者さんの状態をとどめ、再入院しないように、または再入院を遅らせる、これが今の心不全患者さんには必要なのです。

心リハ

リハビリって聞くと、一般の方は骨折後のリハビリ、筋力低下予防のリハビリなど、機能回復を目的をしたリハビリを思いつく方が多いのではないでしょうか??

心リハはちょっと違います。

心疾患罹患後の患者さんが、体力アップを目指す機能回復はもちろんですが、自信をもって家庭生活や社会生活に復帰するとともに、再発や再入院を防止することを目指して行う総合的活動プログラムのことです。

内容として、運動療法学習活動生活指導相談(カウンセリング)などを含みます。

運動療法

心疾患罹患後の患者さん。

退院直後は運動機能が弱まっているため、それを回復するために行います。

若年層は、運動機能があまり落ちていない方も多いかと思います。

運動機能的には罹患前と同じこと、例えば通勤(階段や長時間立位)、家事(お布団の上げ下げや掃除)はできる。

しかし、その動作をして心臓が耐えられるか…?それを確認するために医師が処方した運動療法を行います。

下記は一例です。

入院中:端坐位⇒立位⇒病室内歩行⇒50m歩行⇒200m歩行⇒シャワー浴⇒退院

退院後:リハビリ外来で自転車運動(日ごとににワット数をあげて心臓に負荷をかける)

徐々に活動範囲を上げて心臓に負荷をかけ、心拍数や血圧の著しい上昇がないか、不整脈の出現がないかをモニタリングするのと、当院はボルグスケールを用いて”しんどさ”チェックもしています。

既往歴がない人みたくガンガン運動すればよいというわけではないのです。

ぼるぐ

実際、患者さんと「今このくらいしんどいんですよね?日常生活でこれを感じたら休憩の目安にしてください」と話したり「先週よりも長時間できましたね」と良くなっていることを患者さんとともに実感したり、そんな時間だったりもします。

学習活動

まず患者さんは心不全がどんな病気かわからない。

特に高齢者は気軽にネットで調べる機会もないので、当院は入院中から心不全教室に参加してもらい”心不全とはとは何か”を学んでいただきます。

ちょっとソースを忘れてしまいましたが、心不全教室に参加した方たちは、再入院が少ないデータもあります。

そして心不全手帳をお渡しし、体調の自己管理方法についても指導します。

毎日決まった時間に血圧測定と体重測定をして手帳に残す…結構大変ですが、受診の目安になるため、患者さんには頑張っていただきます。

心不全手帳は製薬会社、医療器具メーカーなど様々なところから出ています。

ネット環境がある方は日本心不全学会の心不全手帳がダウンロードできるので、ぜひご活用ください。(ちょっとボリュームありますが…)

当院患者さんの中には、心不全手帳を使わずに自分でExcelを使って分かりやすく体重、血圧管理をしている方もいます。

服薬の大切さも入院中から薬剤師を通して学んでいただきます。

盛りだくさんですね‥

生活指導

なんとなく喫煙とか太りすぎがよくないことは、一般の人でもわかるかと思います。

喫煙している人は禁煙を強く勧めます。

太りすぎの人はダイエットを勧めます。

しかし、具体的な栄養については、過去に管理栄養士から指導を受けたことがある人は多くないのではないでしょうか?

ここで書くと長くなるので割愛しますが、国立循環器センターのHPにまとめて書いてあります。

端的にいうと塩分6g/日制限、水分を摂りすぎない、結局バランスの良い食事これが大事です。

当院は栄養指導に関しては入院中に患者さん本人と、主に食事を作るご家族同席で行っています。

また、退院直後は皆さん食事制限を頑張りますが、退院後1カ月くらいから疾患罹患前の食事に戻る方が多いので、退院後1カ月の時点でも管理栄養士がリハビリ室まで赴き、再度栄養指導を実施しています。

これはなかなか自慢のシステムです。自負…。

ご自身で栄養調整が大変な方には、塩分制限食を宅配してくれるサービスなどもお伝えしています。

相談・カウンセリング

今まで書いてきたことを、ご自身でできる人は良いですが、超高齢社会の今の日本。

当然認知症を患っている心リハが必要な患者さんもいます。

そういった方には、ご家族の相談を聞いたり、地域で患者さんと関わってくれる訪問看護師や医師に協力要請したり、そんなことも行っています。

まさに地域連携

心疾患罹患後、抑うつ傾向になる方も少なくないです。

当院はHADSで抑うつ状態をスコアリングしています。

リハビリ室に臨床心理士も赴き、心リハ外来の患者さんの相談を聞いてくれたり、なかなか生活習慣が改善できない患者さんに対して行動変容できるようサポートしてくれたり、そういったシステムも構築されています。

これもなかなか自慢のシステムです。

最後にACP

なかなか難しいACP。

患者さん本人と家族が医療者や介護提供者などと一緒に、現在の病気だけでなく、意思決定能力が低下する場合に備えて、あらかじめ、終末期を含めた今後の医療や介護について話し合うことや、意思決定が出来なくなったときに備えて、本人に代わって意思決定をする人を決めておくプロセス

慢性心不全は、長い時間をかけて症状改善⇔悪化を繰り返し、患者さん自身気づかぬまま終末期になっていることが多いです。

そして、最初に挙げた病みの軌跡のグラフ。

初回の心不全で「さぁこれから治療しよう」という人には、すごく辛くショックを与えるグラフです。

「自分は死ぬのか…」と。

そんな方に”終末期あなたはどうしていきたいですか”と、臨床にいるととてもじゃないけど聞けないです。

生活習慣をかえて、しっかり治療すれば再入院を遅らせてNYHAⅠ、Ⅱの状態を維持することができる、それを伝えていくのが大事かなと思います。

そして、医療チームと相談して、タイミングを見てACPについても考えてもらう、現状はこれで精いっぱいです。

私の思い

長くなりましたが、心リハについては以上です。

がん患者さんの最期は苦痛緩和のため麻薬の点滴をして、一般病棟、もしくは緩和ケア病棟で過ごすことが多いと思います。

しかし、心不全患者さんは治療をすることが苦痛緩和になるため、最期までNPPVという機械のマスク、もしくは挿管して人工呼吸器をつけて、血圧に作用する点滴や利尿剤、強心薬など数多くの点滴を投与し、私がいるCCU(心臓専門の集中治療室)で最期を迎える方、多く見てきました。

患者さんやご家族がいよいよ最期が近いと自覚し「一度家に帰りたい」「最期は家で」と思っても、そういう状態では退院もできず、その思いも叶えられないことが多いです。

今は強心薬を投与したまま、在宅で心不全患者さんをサポートしてくれる訪問診療専門の病院もあります。

例えタイミングがあい、最期を家で迎えられるよう訪問診療機関と連携をとって退院をしても、退院後、いざ苦しがっている患者さんを目の前にすると、家族は訪問診療の病院でなく、救急車を呼び、結局は病院で最期を迎える方もいます。


まだまだ世間の人に浸透していない心不全。

心不全患者さんがこれからもその人らしい人生が送れ、いざというときは、その人らしい最期が迎えられるよう、私は患者さんやその家族をサポートしていきたいです。



慢性心不全の疫学  2020年3月11日閲覧

佐野内科ハートクリニック  2020年3月11日閲覧

日本心臓リハビリテーション学会  2020年3月11日閲覧

国立循環器病センター  2020年3月11日閲覧

日本心不全学会  2020年3月11日閲覧

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