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限界煩悩活劇オサムを読んで泣いてしまった話

「限界煩悩活劇オサム」という漫画をご存知だろうか。ジャンプ+で連載されており一話で話題になって単行本が出ている。
内容はあらゆるオタクがオタク特有の心の闇を抱え過ぎて成仏できないところを、オタクに特化した霊媒師のオサムちゃんが除霊していくという話である。ギャグ漫画で、私は割と気に入っていて単行本も買った。
オタク特有の心の闇はたくさんありすぎるのと、ぜひ読んで欲しい為割愛するが私はこの漫画のある話で泣いてしまった。
一話だけネタバレになるので全部楽しみたい人はこんなブログなんて読まず是非原作を読んで欲しい。あとBLに興味ない人は何も面白くないので閉じて欲しい。

その話はざっくり言うと「自カプが増えない為自分で描くしかなくて限界を迎えたオタクの生き霊と闘う」という話だった。
自カプとは「自分が推しているカップリング」のことを指す。主に二次創作界隈で使われており、オタク同士「うちの自カプがなんかごめんな」とか「自カプしか勝たん」みたいな感じで使っている。私も各々のジャンルで自カプがおり、基本的には読むことしかしない所謂読み専的なところがある。まあ読み専の人がいる=たくさんの人が描いて(書いて)いるということなので、とても平和だ。
その話で「Pixivにこんなにあるじゃないですか」から「いや作者全部同じ人!」みたいな流れがあった。それがどう考えても少し前の私すぎて胸が苦しくなった。更にそれでも頑張って自カプを量産し続け生き霊になったオタクに感情移入しすぎて泣いた。

もう2年も前の話なのだが、私はねじれたリズムで踊る某ゲームにどハマりしていた。推しは早々に見つかって、この子のいいカップリングはないか模索し始めた。これは悪い癖で、推しが見つかるとどうしても推しが絡むカップリングを探してしまう。
そもそも私の中で推しのAくんは絶対的に攻めだった。可愛い担当みたいな顔してるけど、中身を知れば知るほど絶対に攻めだとしか思えなかった。
Aくんが攻めだという確信のもと、メインストーリーやらガチャで出るカードについてくるサブストーリーやらを読み漁っていた時、Aくん×Bくんという二人にたどり着いた。文明開花の音がしたので、すぐにPixivでA×Bを検索した。私以外にもきっとこの二人に目覚めた人はいるだろうと意味のわからない自信があった。
PixivでA×Bは0件だった。
Pixivは色んな人が気軽に絵や小説を投稿できるサービスだ、どんな人でもなんでも上げられる。その中で0件。色んなカプで検索したことがあるが、0件は初めて見た。
私の探し方が悪いのかと思って違う言い回しで検索しても何も出てこなかった。Pixivに上がってないだけかと思って、Twitterでもめちゃくちゃ検索した。「A×Bっていいよね」と言っている人は何人かいたが、作品は出てこなかった。
とっても残念な気持ちではあったが、私の中でのA×Bの熱量は半端なかったので久しぶりに自分で書くことにした。
私は中学生あたりから腐女子を拗らせてしまって、その頃から自分の妄想を文字で具現化していた。当時はPixivみたいなお手軽サービスもなかったしSNSもなかったため、普通に紙に書いていた。すごい気持ち悪い話だがそんな人生なので、二次創作の小説はかれこれ20年くらい書いていることになる。

もしかしたら私が書くことで、同士が見つかるかもしれないというあわよくば精神でPixivに小説を投稿した。0件に遭遇したのも初めてだったが自分が作品数第一号になるのも初めてだった。
TwitterもA×Bに特化したアカウントを作って、どうにかこうにか同士が声をかけてくるのを待つためにめちゃくちゃ独り言を言っていた。
私が投稿した小説はポツポツいいねとブックマークが増えてきた。ほらやっぱいるじゃん同士!と思って、その後二つほど小説を書いた。
ある時、私が初めて投稿した小説にコメントがついた。
「素敵な作品をありがとうございます、A×Bがとても気になっていましたがこれを読んで沼に沈みました」
みたいな感じでもう最高に嬉しくてなんとかこの人と繋がりたかった。でもこの人を探し出すには、もっと作品を書くしかないと思って短いものも含めて週に2.3回投稿していた。Twitterでめちゃくちゃ独り言も言っていた。すると、絶対コメントの人だと確信が持てるアカウントからフォローされた。
紆余曲折ありつつ私は何とか同士を手に入れた。

同士がいる創作は、今までとは違いめちゃくちゃ楽しかった。沢山書いているうちに、ポツポツ他に「私も好きです」という人が5人も見つかった。無人島で1人で生きていた私にとって5人仲間がいるのはもう相当心強い。AとBはメインストーリーであまり絡みがなかった為、幻覚すぎる一万字を超えるパロディ小説とかも書いた。同士は私が作品をあげるとその度に阿鼻叫喚してくれてとても嬉しかった。PixivのA×Bの作品数はどんどん増えていった、9割私だったが1割は他に投稿者が出てきた。
過疎な村に他の村から貢物がきたくらい喜んだ。

気づけば私はB受け界隈で有名な人になっており、A×Bは自カプじゃないけど好きですよみたいなフォロワーも増えて交流も深まっていった。この熱量をどうにか発散したくて、自カプは違うがB受けで創作している人たちの通話にも参加したし、とにかく毎日自カプのことを考えていた。
ある日私はちゃんと小説を冊子で出した。生まれて初めて印刷所を通して、Pixivには上げてない完全書き下ろしで本を作った。通販だけで売ったが、即完した。素直に嬉しかったのだが、相変わらず同士は5人どころか途中いなくなった人もいたのでなんなら少なくなっていた。
でもPixivのいいねとブクマは増えるし、本は即完するしもう止められないくらい沢山の作品を書いた。最近全然違う界隈で二次創作している友人から「やる気に満ち溢れたニラさんの熱量とスピードはヤバい」と言われたくらいだ。
なんか今思えば休職してしまった仕事に似ている。

週に何個か小説を書きながら、次の目標ができた。それは即売会で実際自分の本を売ることだった。でも1人でやるのが寂しくて、小説が書ける同士を巻き込んで合同誌を書き、尚且つ個人誌も書き、表紙も絵師にお願いして前よりも立派な本を作って即売会に出た。自分で言って悲しいがA×Bの知名度は底辺だったので、B総受けの一番端だった。それでも(最初の方のコロナ禍だったのもあるが)必死で色んなものを用意した。前提でそんなに部数を作っていなかったのもあるが即売会に出る前に所謂「フォロワー限定お取り置き」を受け付けたところ、お取り置き数だけで半分は無くなりあとは現場で知らない人が買っていった。
これはやったことがある人以外分からない感情だと思うのだが、ネット上げた小説にいいねやブックマークがつくのとは訳が違う。全然知らない人が私のブースで足を止めて、お品書きを見て、本を買ってくれる。めっちゃくちゃ嬉しい。
即売会では完売まで至らなかったが、次の日余りを通販に回したら完売した。
私の作品が大好きだと言う人からスクロールしてもスクロールしても終わらないくらいのヤバい感想文も送られてきた。あまりに嬉しくてスクショを撮って頑張る糧にした。
本を出せば完売する、Pixivに上げれば一部がとても喜んでくれる。が、以前と変わらずA×Bが自カプですという人は4人程度だった。
私はお願いだから自カプが刺さって欲しいと思って、本も出したし即売会で実際売ったし、ありとあらゆる方法でなんとか自カプを売り込んだ。
そしてPixivで、A×Bの作品数は100件を超えた。
一年前まで0だったのものが、100になった。その中で私は90以上の作品を上げていた。

もう気づいていた、これ以上何をしても自カプが流行ることはない。

コロナ禍の影響を受けて、オンライン即売会みたいなものが流行り始めて私は「B総受けイベント」に出ることになった。新刊を書ける余裕がなかったので、今まで書いたシリーズ作品をまとめて本にして無料配布した。
オンライン即売会は大盛り上がりしていた、たった一つのA×B以外のブースは大盛況なのも見た。そして、それがとても羨ましかった。私は書くことを辞めた。
他の界隈が盛り上がっていることに対して羨ましいと思ってしまったら、もう終わりだ。
悲しすぎてもうゲーム自体やめた、ジャンルから私とA×Bというものがいなくなった瞬間だった。

未だに興味本位でA×Bで検索するが、その後増えているのは見たことがない。あのまま自分だけが量産してなんの供給もない状況にいたら、私もオサムちゃんに除霊される生き霊になっていたと思う。二次創作は楽しくてやるものだ、色々楽しい思い出はあるが、あそこで辞めて良かったと今となってはそう感じる。
色々経験談を含めて書いたが「限界煩悩活劇オサム」はめっちゃ面白いので是非読んで欲しい。

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