3.32歳で5年付き合った彼と別れた日の話
別れは32歳の冬。なんでもない水曜日だった。
仕事帰りにふたりで近所のお蕎麦屋さんに寄った帰り道、その瞬間はやってきた。
2020年。得体の知れないウィルスへの恐怖心から、人との距離が遠ざかっていたあの年。
その日を境に家族よりも近くにいた人が人生から消えた。
街中でふと流れる米津玄師のlemonに涙が止まらない。
呼吸困難になりそうな感情を抱えながらも、心のどこかで彼は戻ってくるのではと思っていた。
きっと離れたからこそわかる大切さもあって、この別れには必ず意味がある。
そんな心持ちが功を奏したのかわからないが、数日後、眠りから覚めると心なしか気持ちが軽くなったように感じた。
結局これは '戻らない幸せ' で、よくある男女の別れ話に過ぎない出来事だったと悟るまでにはその後、年月を要することになる。
徐々に精神状態も安定し、今後を見据えるにつけて、底知れぬ不安が頭をよぎるようになっていた。
あれ、新しい恋ってどうやってはじめるんだっけ?
ハンティングフィールドとはほぼ無縁で過ごした20代。異性を落とす、あざといテクニックとやらもメディアの情報ばかりで実地訓練はゼロに等しい。
そしてわたしはもう30を超えている。
人に会うこともままならない世の中で、このまま独りで過ごすことに慣れてしまうのだろうか。
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