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東京タワーの見える街で

プロローグ

あの頃と変わらない
あなたの横顔を見つけた。
クリスマスイブで賑わう、東京タワーの真下。
エピローグの中にあるそんなワンシーンがプロローグ。

このチャンスを逃すと
あの時のように
リナを喪ってしまった時のように
ずっとずっと後悔だらけの日々を送る
人生になってしまう。
「明日の25日、夜なら... 伺います」
そう答えてくれた彼女のために
いつもの閉店時間を2時間も早めた。
消灯後すべてのテーブルにグラスに
浮かべたアロマキャンドルを配置する。

前職を辞めてすぐに祖父から受け継いだ
この店のオーナーになり、恋人との待ち合わせでよく訪れていた"りさこ"に出逢った。

異国の地まで追いかけていく勇気のなかった私を置き去りにして二度と手の届かない世界へ旅立ったリナ。
最初で最後と思えるほど心から愛した女性だ。
私は自分自身を責め続けた。
ポーカーフェイスよろしく
誰にも心を動かせなくなった日々は
この仕事をする上では好都合だった。

それでも... 
りさこを初めて見た時、まるでリナがそこにいるかのような錯覚に陥った。

「さあ、どうぞ」
私はすかさず、りさこの特等席だった場所とは違う席へ案内した。
あの席に座った最後の日は彼女にとって悲しくて辛かったはずだから。
入口ドアを挟んで反対左側の窓際に二人して向かい合う。

ときめいて
ときめいて
止まらないこの気持ち
グラスの中のキャンドルライトは
私の心の中を誰かに見せつけているかのように揺れ続けていた。

彼女がそっと呟く
「ありがとう... 私のために、こんな素敵な演出...貸し切りね」
続けて
「あの時にあなたが渡してくれたハンカチ、嬉しかった。
店を出るまでは我慢していたのに... 
やっと決意できて、ほっとしたのもあったのかも。
洗ってアイロンをかけて... いつの日からか... 手にとってあなたを思い浮かべていました。
雑誌に載っていたあなたのインタビュー記事も偶然、読みました。
ああ、これって私のことだって... 
大切なひとに私が似ていたことも
そのひとも私と同じでアップルティーが
大好きだったことも書かれていたわ。
だから気になって、近くまで来たけど
お店に入るのは恥ずかしくて... そのままタワーを見に行ったの」
思わず、りさこの手を両手で握りしめた。
「これからはこの席から東京タワーを眺めてください。
あなたとリナを重ねていたのはほんの少しの間だけでした。
今は... りさこさんはりさこさんでしかない、わかってください」


緩やかな長い坂道の先に見える東京タワー。
その風景を背に様々な人々が来店する
そんな店のオーナーである
わたくしが、それ等のエピソードをご紹介していきましょう。
りさこエピソードは、ところどころ
回想しながら織り込んで参ります。
そしてエピローグでは今宵のラストシーンまで。
またのご来店をお待ちしております。




あなたの大切な人は
そばにいますか?
あなたが大事にしなければならないこと
それは何かわかっていますか?

Merry Christmas  for you
世界で一番大好きなあなたへ。

第二話はこちらです
https://note.com/npz/n/n88e5dc100161









                                                                                                                                                  



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