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仕事づくりでホームレス状態の人たちの自立を後押し(前編) 釜ヶ崎支援機構 松本裕文さん

NPO法人福祉のまちづくり実践機構ではホームレスや障がい者、ひとり親家庭など、職につくことが難しい人たちを就労につなげるしくみづくりとして、「行政の福祉化」の発展につながる調査研究に取り組んでいます。

このnoteでは、「行政の福祉化」に関わるさまざまな情報をお届けしていきます。
今回は大阪で日雇労働者の多い釜ヶ崎(行政の呼び方ではあいりん地区)で、野宿状態にある人の相談業務や生活支援・就労支援を行っているNPO法人釜ヶ崎支援機構のご紹介です。
前編、後編の2回に分けてお届けします。

 NPO法人 釜ヶ崎支援機構


釜ヶ崎支援機構は、建築現場の日雇労働者が多かった釜ヶ崎で、野宿者の自立支援に取り組んできました。大阪では1990年代初頭のバブル崩壊による建築不況により、現場を支えてきた日雇労働者が職にあぶれ、路上生活を送らざるをえなくなりました。  
1990年代末の調査では大阪市内で8,660人が路上で生活していました。

日雇労働は高齢になるほど雇われにくくなるため、釜ヶ崎支援機構では99年から55歳以上の釜ヶ崎を拠り所としている労働者に向けて、道路清掃、公共施設や公園等の除草、保育所での塗装や補修作業等で就労の機会を提供する高齢者特別清掃事業(特掃)を、大阪府・大阪市より受託し実施してきました。

この釜ヶ崎支援機構の活動について前編と後編の二回に分けてお届けします。
前編では、理事の松本裕文さんに、特掃にはじまるここ20年あまりの大阪でのホームレス支援についてお話をお伺いしました。

「仕事があれば野宿せえへん」

――高齢者特別清掃ができたきっかけはどのようなものですか。

1990年代は大阪府下で約1万人、ホームレス状態で生活する人がいました。仕事に就けなくなった建設の日雇労働者が簡易宿所の宿代を支払えなくなり、釜ヶ崎を出て公園や河川敷等にテント小屋掛けをするようになったのです。釜ヶ崎とその周辺でも概ね1000人が野宿となっていました。

当時の社会のホームレス生活者のイメージは「正業につかずに怠けている人」というものでした。民法では「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」という扱いで、現在でも取り締まりの対象という条項が残っています。

ところが当事者のみなさんにお話を伺ってみると、「仕事があれば野宿せえへんのやけどな」という答えをする人が大多数だったのです。そこで、「野宿者=怠け者」という当時の社会の偏見を覆し「野宿しないでよい仕事の保障を」と訴えていくことになりました。府庁・市庁の前で座り込みをし、座り込みが長期化するとそのまま野営テントを張って交渉を続けました。ついに行政が折れて釜ヶ崎での就労対策を自治体の単独費で展開することに乗り出しました。釜ヶ崎の地域内で期間限定の生活道路清掃より始まり、1999年より大阪府全域の公共施設・道路・公園などの現場で高齢の日雇労働者が輪番で働ける特別清掃事業に発展することになりました。

こうした釜ヶ崎の日雇労働者の運動の過程で、特別清掃事業を実施しうる事業体が必要となり設立されたのが釜ヶ崎支援機構です。そのため仕事や生活が不安定な方のための仕事づくりに取り組むということが当機構の基本理念となっています。

行政からの委託事業である高齢者特別清掃以外に、都市公園管理共同体の一員として公園のトイレ清掃等での就労支援、民間より請け負った剪定・刈払作業、リサイクル自転車の販売、認定内職あっせん所、コインランドリーの清掃業務などの仕事づくりにも取り組んでいます。

――高齢者特別清掃の対象は55歳以上の生活保護受給者以外にむけて作られたそうですね。

55歳以上としたのは、90年代にゼネコンが55歳以上の現場入場を制限する動きを主導し、釜ヶ崎の寄り場でそのことが大きな問題となっていたからです。バブル崩壊により求人数が極端に減少しましたから、手配師が高齢者を仕事に連れていかなくなったこともあります。

現在にいたっては、高齢の日雇労働者からは建設現場に出る日数を月に数日までにしているという話をよく聞きます。アンケートをとりますと、就労の希望としては清掃業等の軽易な作業を求めている人が多い結果が出ています。

また、生活保護については元々ホームレス状態の方が居宅保護になることがとても難しかったのです。生活保護にまつわる裁判等を通して少しずつ運用が変化してきましたが、居宅保護が実際に受けやすくなったのは2008年のリーマンショックの後からになります。特掃のスタート当時は、特掃で働ける機会は月1回でした。現在でも特掃で働いた収入は居宅保護で支給される金額にはるかに及びません。それゆえ特掃は、ホームレス状態かホームレスに陥る可能性のある高齢の日雇労働者を対象とし、生活保護を既に受けている方は就労できない仕組みとなっています。


――ホームレス状態で生活をしている方の就労が難しい理由は何かあるのでしょうか。

釜ヶ崎で日雇労働をしていた方の中には、発達障がいがある方も多く含まれていました。また、就学の機会を十分に与えられなかったため、お名前ぐらいしか書けない方が昔は結構いましたね。人間関係で悩んでしまうため固定した職場で働き続けるのが難しい方、アルコールやギャンブル依存で家族や職場での人間関係が希薄となってしまった方がおり、そうした方が雇い主や働く場所が変わる日雇いを選ぶ場合があります。

建設の現場は暑さ寒さのなか肉体を酷使しなければいけないような大変な職場環境ではありますが、一定の技術があって単純なことを繰り返すことができれば、それなりにお金を稼げて生活できました。刑務所を出てきたばかりでも肉体労働についていけさえすれば、分け隔てされることなく働けました。

しかし、機械化で土工や片付けなどの仕事が減ってしまいました。若い世代の場合は、ちょっとしたアルバイトでもパソコンを扱えることが必須、マルチタスクをこなす、複数の人とやりとりしなければならないなどが前提条件となっています。つまり、企業・社会の側が働く人を制限している面があり、そのような職場に適合できない人たちが1人立ちしうる環境を国として作れていない状況があります。

収入はあるが自立するには少なすぎる


――実際にホームレス状態にある方の生活状態はどのようなものですか。

厚生労働省が発表しているホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)を見ますと、第一は高齢化、第二に長期化の傾向が顕著です。また、収入を得る手段としては、アルミ缶拾いや古紙回収などの都市雑業が多いです。ホームレス状態で生活をしている人たち同士で情報交換をし仕事を融通し合いながら、平均すると月5万円程度の収入はあるようです。

大阪でホームレス状態にある人たちの多くは、路上とシェルター・簡易宿所・ネットカフェ等を行き来しています。ずっと路上で生活している人は少数になりました。平均して月5万円程度の収入では、部屋を借りることまではできず、無料もしくは費用が安く敷金保証人などを求められない場所を利用することしかできないわけです。

――やはり生活保護につなぐことが自立への道なのでしょうか。

自立支援相談員は行政からそのような方針で対応するように言われていることもあり、生活保護の受給を勧める相談を積極的にしています。ところが高齢のホームレス生活者ほど「働けるうち身体が動くうちは自分でなんとかします」「(病気になるなど)もうあかんくなったらまたお願いしますわ」とお答えになる場合が多いです。さらに高齢になった未来においては生活保護に頼らなければならないと思っているのですが、今ではないというわけです。生活保護と働くこととの間に制度上まったく矛盾はありませんが、ケースワーカーに全体的に面倒をみてもらう形になり保護費を支給されるとなると、自立して生活している意識や生きるハリのようなものを失うと考えてしまうようです。

民間での就職に結びつき自立という場合もありますが、若い方の場合は寮付きの派遣、高齢者の場合は清掃ということが多く、常傭就職と言っても仕事や住まいの不安定さがつきまとってきます。

――高齢者の場合は年金もあると思いますがそれだけでは足りないのでしょうか。

制度の不備により年金制度からこぼれ落ちてしまった方が、高齢になってホームレス状態になる場合があります。年金があっても2ヶ月で数万円くらいという方が多いです。その金額では自立は難しいと思います。

過去のアンケート調査を見ると、「大体月に8万円ぐらいあったら野宿しない」という結果が出ています。現在ホームレス生活者の収入は年金なども加味して全国平均が5万円です。つまり、あと3万円あれば、大阪ではホームレス生活を回避できる人がほとんどなんです。

――なるほど。働いていないからホームレス生活をしているわけではなく、働いていて収入があるからこそ、生活保護をもらって部屋を借りない。しかし、働いているとはいえ、それは自立するには足りないということなんですね。

そういうことになりますね。ホームレス状態の方や住居不安定の方のために行政が仕事を作る政策はほとんどありません。特掃はレアなケースです。そのため支援機構では仕事づくりに取り組むのです。

私見ですが、生活保護をもっと柔軟に適用できるようになると、ホームレス問題はなくなるのではないかと思います。特に生活保護を受給するとケースワーカーが生活・就労・医療など全てに関わることになるので、この仕組みを拘束されていると感じて嫌がる方が多いようです。働ける場を作り、元気で働いている間はその収入で生活費はまかなってもらう、ケースワーカーの指導は控えめにし、住宅扶助の単給(生活保護のなかで家賃を補助する「住宅扶助費」だけを支給すること)で住まいの安定化に努めれば、高齢・長期化にかかわらず路上での生活を続ける方は急速に減っていくのではないでしょうか。

そうなると路上に残るのは、認知症も含めて精神の病気や依存症がある・障がいがあるといった働くことが難しい方たちです。その方たちに対しては、国が勧めているとおりの方法、制度に関する丁寧な説明と相談支援、地域で生活できる支援関係づくりが活きてくると思います。


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