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支援付き住宅 中部地方の状況(NPO法人わっぱの会)

抱樸が初のクラウドファンディングに挑戦した「コロナ緊急|家や仕事を失う人をひとりにしない支援」の中心事業「支援付き住宅の全国展開」において、各地で担っていくパートナー団体の一つであり、中部地方を中心に活動する、NPO法人わっぱの会の羽田さんにお話しをお伺いしました。


NPO法人わっぱの会について

私たちの団体は、1971年に障害のある人、ない人3人から始まりました。
その当時、障害を持つ人は山の中の施設で集団生活を行いながら暮らすことが障害者にとっても幸せだという施設万能主義の考えが強く根付いていました。

それに対して、障害を持っていてもそうでなくても、施設ではなく一緒に地域の中で共に生活するんだという理念のもと活動を始めたのがわっぱの会です。

当時広がっていた障害者隔離の発想とはまったく異なり、隔離=差別と捉えた運動を始めたので、一部の関係者や行政からは過激な団体だと思われることもありました。
ただ、世界的にはノーマライゼーションという概念が出てきていたため、段々と私たちの考えを過激だとする見方は減っていき、これまでの考え方がおかしいのだということも認知されるようになりました。

その時から今まで、ずっと変わらず、私たちの団体では、障害を持つ方や社会的に排除されてしまっている人含め、すべての人が地域社会の中で共に生き、共に働くために活動を続けています。

NPO法人わっぱの活動

具体的な活動としては、共に生活する場をつくるだけでなく、パンをつくったり、資源を集めるリサイクルを生み出したり、レストランを運営したり、ビール工場もつくってきました。
作業所ではなく共に働く場をつくり出しています。

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私たちの団体では、一般的に「給料」と呼ばれるものを「分配金」と言っていて、みんなで働いてみんなで分け合うという考えでお金を支払います。
誰もが対等であるべきだとするからこその名称かもしれません。そうしてはじめて共生の関係が生まれるんだと思います。

障害を持った方など、誰もが一緒に働けるようにするというのはそう簡単なことではありません。
共に生活をし、そして共に働く。
そんな自分たちの理念を大事にしたそれぞれの活動に、当てはめられる国や自治体の制度を当てはめながら、どんな方であっても垣根なく、そしてまた選択されることなく、誰もが共に活動をし、共に生きられるようにしたいと思っています。

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わっぱの挑戦

私たちの軸は、どこまでいっても、社会的に排除されてしまいがちな人であっても一緒に働くということです。
そのためには、地域にネットワークをつくったり、働く場をどうつくるかがとても大きな課題となってきます。

障害のある方が参加してパンをつくり、市民に販売するという事業に挑戦したのは日本でわっぱの会がはじめてだと思いますが、この時に大事にしていたのは、事業を興すことでした。

障害を持っている人があの時代に働く上では内職や下請けが主流でしたし、今でもそれは続いていますが、それだけでは経済的な自立は難しくなってしまうし、そうなることはおかしいと思っていたからこそ、きちんと売れる商品をつくって事業にしていきたかったんです。

当時は国産の小麦を使ってパンを焼くことは珍しいものでしたが、それでも国産の小麦を使った無添加のパンづくりをやるんだと始めたら、これがすごく売れたんですね。当時は無添加国産小麦のパンなんてほとんどありませんでしたから。
そのあと、いろんなところで無添加や国産小麦のパンが増えました。
わっぱの基礎がパンづくりにあるのは確かです。

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とはいえ、今や無添加の国産小麦でつくられたパンは必ずしも珍しいものではなくなってしまいましたし、パンづくりはもともと大きく儲かるわけではありません。

私たちは障害のあるなしや能力による差別をしないと決めていて、要するに誰であっても共に働けるよう、人を選ばないと決めていますが、そのためにはきちんとお金を稼げる仕事を生み出さなければいけないし、こうした理念どおりに活動を広げるのは難しいことでもあります。

だからこそ、今後も働く場や生活の場をどのようにつくるかを考え続けたいと思っています。


新型コロナウイルス感染拡大による変化

私たちはレストランやビール工場の運営もしていますが、コロナによってそれらは大きな打撃を受けました。
アルコールや会食がダメとなると当然これらは厳しくなりますよね。

パンを生協におろしているので、在宅時間が増えて生協を利用する人も増えたからか、その売り上げだけは少し増えましたが、パンも行事などでの販売がまったくなくなり、売り上げを減らすことになってしまっていました。

それから、共同での生活にしろ、お一人での生活にしろ、障害のある人に感染者や濃厚接触者が出てしまうことをなるべく避けなければいけません。
みんなで働いているので、感染が拡大しやすいため大変です。
とはいえ、推奨されている感染対策が十分にできない事実もあります。

例えば、ここにいる全員がマスクができるわけではありません。障害をお持ちの方には様々な理由でマスクすることが難しい方もいます。
また、障害がなければまず隔離をすればいいというのはそうなんですが、知的障害をお持ちの方とか重度の障害がある方はそうもいきません。ヘルパーさんが来られない場合はスタッフが交代で介助に入りますが、それが続くと感染が広がり、みんなが疲弊してしまいます。

なんとかこれまで自分たちで凌いできましたが、健常者への対応のように隔離すればいいという考えとはまた違うので、そのあたりも苦労が多かったように思います。

世で言われていることは大抵、健常者の世界の話ですからね。
他の人が気にしなくてもいいことや、私たち自身もこれまで気にしてこなかったことに対して気にかけなければならないことが増えたと思います。

わっぱが感じる、制度と理念の隔たり

私たちの団体は、他の事業所とは違い、行政からのお金で職員だけを支えるのではありません。
つまり、障害を持っている方含めてみんなの生活を支えるためには、先ほど話に出した分配金を確保しなければいけません。だから、全体として売り上げが減ってしまう状況というのはとても厳しいことでした。

事業を運営する上で、大抵の所は利用者と指導員・職員という境界が存在します。
もちろん、これは全て間違っているというわけではなく、国の制度としてそうしていかなければならないという側面があります。

ただ、私たちはそうした構造のまま支援を行うのではなく、対等な関係を築き、共に生きていきたいと思っています。
福祉制度どおりに言えば、施設の職員だけは給料が保障されるでしょうが、それは私たちの理念には合わないから、そうしたくはないんです。
だから分配金という構造を団体では持っています。
共に生きるっていうのは、そういうことだと思うんです。

私たちの考えや活動、団体のあり方はありふれたものではないでしょうが、自分たちの理念と制度が合致していないのなら、法整備のために運動をする必要もあると思っているから、そうした運動も行っています。

海外の例を挙げれば、イタリアは精神病棟をなくし、地域で生活する場や働く場をつくってきました。社会的協同組合の構築です。
社会的協同組合というものは、理念上はすべての組合員が対等な関係ですよね。このように、障害を持った人、社会的に追いやられてしまいがちな人なども含めて対等な関係の組合を、私たちもつくりたいんです。

だから、そうした関係をめざして社会的事業所という仕組みの法制化運動をやってきたのですが、途中で頓挫してしまいました。でも、どうにか実現したくて、それを糧に動いています。
私たちの理念が夢物語のように聞こえてしまうのなら、やっぱりまだまだ制度が追いついていないのだと思います。


クラウドファンディングで実現した支援付き住宅

私たちは、障害者や生活困窮者の相談支援センターの活動を行っており、そこから居住支援の取り組みを進めています。
例えば障害のある方の住まい探しの相談に乗っている中で、私たち団体が保証人になることがあります。しかし、そううまくいかないこともあります。
私たちが法人として保証人になるという個人プレーな支援をしても対応しきれないケースもあり、いつももどかしい気持ちになります。

ところが、今回抱樸さんからお声がけを頂いたことで、一つのマンションの半分を借りることができました。現在、18室の部屋を用意し、20名の方が入居しています。

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私たちの居住支援では制度支援はほんの一部ですし、無低(無料低額宿泊)にもしていません。


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制度を使ってお金を得ることも大事なのはわかっていますが、残念ながらまだ居住支援での制度はまったく不十分です。また、へたな制度を使うことで制限も増えてしまいますし、制度を使うことによってたとえば障害を持つ方の施設になってしまえば、私たちが初めから避けてきた入所施設をつくってしまうことになりかねません。
なので、あくまで現状の制度を使わずにこちらのスタッフで入居者の支援をする形で運営をしています。

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無低にはせず他と変わらず不動産契約をしているため、どんな人でも差別されることなく誰でも使えるようなシステムになっています。


そうした形にしたことで、刑務所から直接連絡が来たり、困っている人が多く入るようにもなっています。結果的に、現在では居住者の中の一定数が刑余者の方となって、そして生活保護を受けて生活をしています。

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当団体の理念どおり、生活保護や障害の有無に関わらず誰もが住むことのできるマンションを借りることができたのは、今回のご支援のおかげだと思っています。


支援付き住宅入居者への支援や関わり方

ホームレス支援を長年やっている、私たちの団体とも共に活動をしてきた団体さんが、事業所を持って相談支援専門員を置いています。
うちを頼る人は困りごとがある人がほとんどなので、制度を使いたい人はそこで相談しながら計画を組み立てたり、私たちの団体でも同じことを行いながら相談に乗っています。

相談に乗っていく中で課題はたくさん見えてきます。

外国籍の方で、なおかつ精神障害をお持ちだとなかなか就職ができないことがありますね。言葉が自由でない上、今はコロナでさらに職を見つけることが難しくなってしまっている現状はさらに大変です。いつかビザが切れてしまうと不法滞在となってしまいますから、それは避けたい。
あるいは、生活保護の方にはお金を貸すことができないので、生活保護を取れても、借金があったりするとなかなか苦しい状況になってしまいます。
他にも、子どもが児童養護施設を出て大学に入ることができても、頼る先が圧倒的に少ないせいで、大学を辞めざるを得なかったり、貧困に陥ってしまう人もいます。教育関連で言えば、外国籍の子どもは教育を十分に受けられる環境になかったりします。

問題は本当にたくさんありますが、こうした困りごとに対して行政はなかなか調査をしない現状もあります。
調査をして、今の構造を明らかにしないと、困っている人たちを支えていく構造もつくることができません。

寄付をしてくださった方へのメッセージ

課題はまだまだ多いです。
でも、共に生きるを実現させるための課題だと思っています。

今回、皆さんからご寄付をいただいたことで、行き場のない人たちが住むことのできる場ができました。
制度を使わないからこそできることがありました。
有効な使い方ができたと思っています。これからも続けていかなければならないと思うと同時に、心から感謝を申し上げたいと思います。


いただきましたサポートはNPO法人抱樸の活動資金にさせていただきます。