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新しい社会をつくる、新しい支援のあり方―炊き出しの現場から【NPOほうぼく活動報告】

毎月第2、第4金曜日(12月~2月までは毎週)の炊き出しとパトロール活動は、NPOほうぼくの原点でもあります。今回の活動報告は、約30年困窮者支援に携わり、NPOほうぼくの副理事長でもある谷本仰(あおぐ)さんにお話しをお聞きしました。

「おんなじいのち」、みんなでご飯を食べよう

――――――普段の炊き出しについて教えてもらえますか。

谷本:基本的には炊き出しとパトロールがセットです。まず、公園の広場に集まってくださった方に市内各所の協力団体に作っていただいたお弁当を配ったり、薬や衣料品を配ったり、散髪もしています。また、医療関係者に来てもらって簡単な医療相談をし、必要な場合はそこから救急医療につなぐこともあります。それが終わると、5つのコースに分かれて各所を回るパトロールを始めます。その時に広場まで来れない人にも、お弁当を配っています。

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聞き取りをする谷本さん

――――――今回のコロナで活動になにか変化はありましたか。

谷本:これまで広場でお弁当を食べるときは、みんなで集まってわいわい言いながら食べる、食堂みたいになっていたんですが、今回のコロナ禍でそうやって集まって食事を囲むというのが難しくなってしまいました。また、食後には「星空カフェ」といって、ボランティアも一緒になって、みんなでコーヒーなどを飲んでゆっくりする時間を設けていたんですが、それもできなくなっていて寂しい限りです。私たちの活動のここ数年の大きな特徴は、ボランティアも含めて、みんなで同じ時間を過ごすということなんです。それは提供する側とされる側みたいな枠組みを乗り越えていこうという考えからでした。みんなおんなじいのちじゃないか、みんなで食べようと。だからボランティアも参加できる「星空カフェ」などの時間を作ったんです。

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(2017年撮影)

――――――でも、いまはそれができなくなっていると。

谷本:実は、ほうぼくの支援の対象もかつてとは大きく変わったんです。かつてはいわゆる路上生活者を支援対象にしていたんです。当時はかなり厳しい状況だったし、お弁当の数も限られていたので。でも、それもある時期からやめたました。本当に安定した生活を送っている人がわざわざここにお弁当をもらいに来ないだろうと。実際に、家があっても困窮していてギリギリの状態で生きている人がいっぱいいる。そういう人たちも支えていこうということになりました。また、そういう人たちはいつ家を失ったり、生活困窮のかなり厳しい状態に陥らないとも限らない。本当に困った時に「いつも弁当を持ってきてくれるあの人たち」という信頼関係があれば、相談もしやすいですよね。そういうこともあって、いまではいわゆる「ホームレス」だけでなく、幅広く困窮孤立者の方々にお弁当を届けています。

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嫌な気配がする

――――――コロナの感染拡大後、炊き出しなどに参加される人は増えたのでしょうか。

谷本:いまのところは、そんなに大きく増えたということはありません。ただ、こういうことには時差があるんです。リーマン・ショックやアジア通貨危機の時もしばらく時差があって路上に人が増えてきたので、これからじゃないかなという気がしています。実際に、生活保護の相談が急増しているという話もあり、福祉の相談窓口がパンク寸前になっています。相談できない人もでてくる。そして、路上に出てしまうということが起こりえます。

――――――かなり危機感があると。

谷本:そうですね、いつ何が起こってもおかしくないという感覚はあります。最近、ある路上生活者からこんな話を聞きました。その人はブルーシートのテントで生活していらっしゃるんですが、最近2日連続で泥棒に入られたというんです。服やテントの中に置いてある物を盗られたと。しかも2日連続で。こういうことは、ホームレスに対する生活保護がまったく閉ざされている時期には時々あったんです。でもいまはホームレスでも生活保護を受けることができるようになり、最近はそういう話は聞きませんでした。いたずらという可能性もありますが、わざわざ中に入り込んで物を盗っていくというのは、単なるいたずらとは考えにくい。もしかすると、最近ホームレスになってどうしようもなくなった人やそうでなくとも生活に非常に困っている人がやむを得ずやったという可能性もないわけではありません。そう考えると、(生活困窮者が増えてきているのではないかという)少し嫌な気配がしますよね。

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ブルーシートの小屋(2013年撮影)
アルミ缶回収など野宿でも働いている方は多い。
コロナ後、アルミの買取価格も下落している。

つなぐこと、つながることの大切さ―成果主義を超えて

――――――活動の中での難しさ、大切にしていることなどはありますか。

谷本:顔見て、声をかけ合う。一言二言の関係でもそれは楽しいんです。語幣を恐れずに言うならば、知り合いを尋ねていくみたいな感覚です。ただ、お弁当などを持って行っても受け取らないという方も当然いるんです。人からものをもらうようなことにはなりたくない、放っておいてほしい、そんな場合もあります。でも、それでも「つないでいく」ということを大事にしています。かわら版だけ、お弁当だけ置いていきますと言いながら、とにかくつないで、つないで、つないでいくということです。

――――――なぜ、「つなぐ」ということが大事になってくるんでしょうか。

谷本:「その時」がいつ来るかわからないからです。ニッチもサッチもいかなくなった時に、ゼロから助けを求めるのは大変です。けど、「ちょっと相談してみようか」と思うことがあるかもしれない。私は30年間活動をやってきましたが、今まで何人もそういうケースがありました。生活再建の提案に乗ってもらえるまで、5年、10年という。

でも、最近は少し違うことも考えているんです。つまり、将来を信じて関わることも大事だけど、一方で、いまつながっていることそのものに意味があるんじゃないかとも思うんです。かつて、私たちはいまの支援が将来どんな成果につながるかということを考えていました。だけど、将来起こることは様々ですから。例えば、支援した人がものすごい崩れ方をする時もあります。かつては「なんだこれは!なんのためにやってきたんだ!」と思う気持ちが湧き上がってくることもありました。でもね、そういうことってあるんです。崩れたところで、また寄り添えばいいんです。それだけの話なんです。 何かを目指して成果を積み上げるのは人間の実態にそぐわない。そういうふうに考えるようになったすべての原点が炊き出しという活動なんです。

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雨でも雪でも炊き出しはやめない(2019年撮影)

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コロナ禍でも消毒したり距離を取ったりお弁当を持ち帰りにしたりで
炊き出しは続けている。

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皆様から届いたマスクも喜ばれています。

「いま、生きている」ことを大切にする社会へ

――――――炊き出しの現場から見て、いま求められているものとはなんでしょうか。

谷本:北九州だけでなく、今後、全国的に生活困窮者が増える可能性があります。だからこそ、私たちはいま、全国の団体と連携して住居を確保し、生活を支えようという動きをしているんです。そのために、現在コロナ緊急支援クラウドファンディングも行っているので、まずそこを応援いただいて、現場の私たちが来たるべき事態に備えられるようにと思っています。

――――――最後に伝えたいことなどがあればお願いします。

谷本:コロナがあぶり出しているのは、非常にシビアないまの社会の実相だと思います。家族主義が顔を出し、一人ひとりの命が顧みられない、命や生活の危機に直面しても国は自己責任で放っておく。先ほど、ホームレスのテントへの窃盗の話をしましたが、同時にもしかすると襲撃も増えているかもしれないと思っています。このコロナ禍の中で多くの人にストレスがたまっている状態です。そんな時に、これまで「生産性」ですべてが測られ、それを求められてきた人たち、特に子どもたちなんかは自分よりも役に立たない「とみなされる」ホームレスを襲撃する可能性もあります。

失業者や困窮者が増えて、多くの人が生活に困っているこの状況の中で、本来はそう扱われてはいけないはずの命や尊厳がどれだけいい加減に扱われてきていたのかというのが、このコロナであぶり出されています。この社会の不安がどちらにころぶか。より命を軽く見たり、弱い者にしわ寄せがいく方向にいくのか。それとも今までの社会のあり方そのものに乗り越えないといけないものがある、という方向にいくのか。僕はもう命や尊厳を軽視してきたもとの社会には戻りたくないという空気を作っていきたい。「いま、生きている」ことの大切さをベースにして、つながり=社会を作っていけるかということが問われているんだと思います。大げさなことを考えるのではなく、本当に小さいところからでいいから今までとは違ったやりかたでやっていくことが大事なんだと思います。


【ご寄付のお願い】

NPOほうぼくは、コロナで家や仕事を失った方に素早く、また継続して支援を届けることを目的として1億円のクラウドファンディングに挑戦しています(~7月27日)。共に前を向ける未来をつくるために、「今」皆さまのご支援が必要です。ご協力よろしくお願いいたします。

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