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【前編】「『こどもかいぎ』のトリセツ」出版記念対談!子どもたちの未来に”対話”の文化を

2023年は、こども家庭庁の創設を機に世の中も放課後や居場所への関心が高まり、また国の動きも「こどもまんなか」をキーワードにあらゆる制度改善が進み始めた年となりました。そんな折、放課後NPOアフタースクールのアドバイザリーボードでもある映画監督 豪田トモさんが監督作品「こどもかいぎ」に関する書籍を出版!子どもたちが主体的に発言や活動ができることの大切さについて、放課後NPO代表の平岩国泰と対談をしましたので記事にまとめました。

豪田トモさん プロフィール
映画監督。映像クリエイター。株式会社インディゴ・フィルムズ代表
1973年東京都出身。大学卒業後、会社員を経てカナダへ渡り映画製作を修行。「命と家族」をテーマにした映画・映像制作、執筆、講演活動を行う。代表作に「うまれる」(2010年)、「ずっと、いっしょ。」(2014年)、「ママをやめてもいいですか!?」(2020年)等。2022年7月より映画「こどもかいぎ」を公開。2023年11月書籍「『こどもかいぎ』のトリセツ」を出版。

平岩さん:このたびは書籍のご出版、おめでとうございます!

豪田さん:ありがとうございます!

平岩さん:映画「こどもかいぎ」、そして今回豪田さんが執筆された「『こどもかいぎ』のトリセツ」に私も大変共感しまして、改めて子どもたちの話を豪田さんとできればと思いました。よろしくお願いします。

豪田さん:昔からの知り合いなので、かたくない話にしましょう。よろしくお願いします!

子ども主体の場づくり

豪田さん:最近、平岩さんが注力していることって何ですか?

平岩さん:放課後の居場所の「質」の部分に特にこだわっていますね。
近年、日本では小学生の放課後にも待機児童がいることがようやく知られるようになってきました。居場所の「量」を増やして待機児童を減らそうという流れがようやく出てきたんですけど、量が増えても過ごし方の質はどうなのっていうところがまだ全然着目されていないんですよね。放課後NPOでは、質を上げることにますます注力していきたいですし、その時に一番の根幹になるのが子ども主体という部分だと思っています。

一方でそれを実現するのが難しくなってきている面も大いにありますよね。色々と制約が増えたり、子どもに委ねたことで何かうまくいかないと、先生やスタッフに対して必要以上に厳しい目が向けられたりしてしまうこともあります。そうなると大人が場をコントロールしてしまった方が安心だというふうに思っちゃうわけですよね。しかし今、子ども主体を取り戻さなきゃいけないと感じている方や考える機会が増えている気がします。

豪田さん:今回の本の中でも触れているのですが、子ども主体といっても、子どもに「丸投げ」することとはちょっと違いますよね。まず、子どもは自分の感情を言葉にすることにも慣れていないですから。自分の心の奥底に眠っている感情を引き出すって、大人でも難しいじゃないですか。それを子どもだけでやるってなかなかできないから、そういった意味では大人が伴走する、子どもが発言しやすい環境づくりをすることはすごく大事だなぁと思っています。そのあたりについて、平岩さんはどう思われますか。

平岩さん:僕も賛成です。子ども主体は、人の問題だけではなく、環境も大切です。例えば学校でいえば、どういう教室環境ができているか、一人ひとりが発言しやすいかとか、人と違う意見を言っても茶化す人がいないかとか、そういった環境や場づくりなんですよね。人だけじゃなくて場の方に注目が集まってくるという考え方は、とても賛成です。

豪田さん:でも場づくりって難しいんだよな〜

平岩さん:難しいですよね。本当に時間がかかるし、耕し続けなきゃいけない。

豪田さん:そうそう!耕すっていいですね。

平岩さん:最初に作ったら終わりじゃなくて、ずっと耕す感じ。

豪田さん:そうですよね。日光を当て、肥料をあげ、水もあげる。摘心もして。そういう行為を地道に続けていかなきゃいけない。

こないだ僕ね、知人からある児童養護施設の話を聞いたのです。既に『こどもかいぎ』をやっている施設で「月に1回ぐらい子どもたちが集まって、それぞれが(施設に対する)要望を出してもらうようにしています。大人は一切タッチせず、子どもの自主性に任せています」と施設の方がおっしゃっていたそうです。

子どもたちを信頼しているんだな、面白いなと思って、どういう意見が出てくるのか聞いてみたら、「実は今年はまだ開かれていません。なかなか会議って難しいみたいで。以前やった時も、施設への不平不満の声ばかりになってしまい…」と苦慮されていたようです。子ども主体の難しさを表す象徴的な出来事だなぁと思いました。

子どもたちに会議をしようというのは、先ほどの例で言うと、子どもたちにいきなり農業をしようと言うようなもので、土の耕し方とか、種の撒き方、そういうことを教わったり、一度やっている姿を見たり、自主的に行う前にある程度の知識と経験が必要だと思うんですけど、<自主性に任せる><子ども主体で>っていう美しい言葉の使い方は、もう少し僕たち大人も考えていく必要があるのかなぁと。

もう一つ、『こどもかいぎ』というものに対する誤解があって、 そこの施設では「子どもから要望を出してもらう」手段としてしか『こどもかいぎ』というものが認識されていなかったようです。子どもたちに発言と対話の場をつくるというのは、子どもたちの好きなことを話してもらったり、学校の話や友達関係など日常生活について話すのも『こどもかいぎ』なんですよね。

特に自分の好きな話だとどんどん言葉が出てきます。本の中では【Favorite系】と呼んでいるんですけど、そういうことを話した経験を積み重ねた上で要望を聞いていった方が、子どもたちの気持ちや感情の角度が高まっていきます。最初の話に戻りますが、子どもたちは自分の頭の中にあることを言語化したり、感情を言葉に直す作業に慣れていないので、その状態で要望を聞いたとしても、子どもたちも多分うまく表現できないし、大人たちもそれが子どもたちの求めていることだと誤解してしまう恐れもありえそうです。本の中にも書かれていますが、発達の段階と同じく、話すトピックにも順番があったりするので、その辺は大人側の意識も変えていかないといけないのかもしれませんね。

平岩さん:本当そう思いますね。アフタースクールでも、初めから子どもに全部任せてできるかっていうと難しいし、やっぱり選んでいく経験がないと選ぶ力もついていかない。つまり最初はやはり大人の出番だと思うんですよね。だんだん話す力とか聴く力もついてきますし。

豪田さん:大人の役割は大事です。一方で、大人がその方法論をわかっていない現状もある程度は仕方ないと思うんですよ。僕らは育つ過程で、コミュニケーションとか対話とか質問の仕方や伝え方を理論的に学んでもいなければ、実践もしていないし。

平岩さん:本当ですよね。それを今回豪田さんが本にしてくださって、それ以前に映画もつくられて、本当に意義深いです。

子どものいろんな一面を大人が知る機会を

豪田さん:ありがとうございます。今って子どもに対して非常に厳しい世の中じゃないですか。子どもが生きやすい社会になるためには、おそらく多くの大人が、子どもという存在を理解して、共感して、好感を持って、かわいらしさとか素晴らしさを認識する、みたいな積み重ねが必要なのかなと思うんですが、子どもに触れ合う時間とか機会が多くならないと、やっぱり子どもに対して寛容になりにくい感じがしています。わからないものや知らないものっていうのは、好意的に認識しにくいので、そういう機会をどう作っていくか。映画が疑似体験的に、その一助になってくれたら嬉しいですね。

平岩さん:そうですね、こんな話を聞いたことがあります。「子どもの声がうるさい!」と学校や保育園の近隣にお住まいの方が言うことがありますよね。ある自治体の方が、よく苦情の電話をされてくるおばあちゃんに「おばあちゃんは昔から学校のそばに住んでいますよね、昔はうるさくなかったんですか?昔はもっと子どもが多かったですよね?」と訊ねたら、「昔の子どもは知り合いだったから」とおっしゃったそうです。やっぱり知り合いだと「子どもは元気でいいな」なんて思えるわけですよね、接点があると。アフタースクールは地域の人がボランティアや市民先生として子どもたちに出会える仕組みなので、そこは貢献できているかなと思いました。

豪田さん:分かる気がしますね。言葉のチョイスがあまり良くないんですが、保育園ってある種ブラックボックスなんですよね。僕も娘がお世話になりましたけど、行き帰りのお迎えとかだけだと中で何が行われているのか分かりにくい。先生がどれほどすごいスキル、経験、知識を持っているのかもわかんなくて、カメラを持って中で撮影させてもらって、ようやっと、すげーー!って分かったんですよ。そういうことを、もっと保護者やいろんな大人にも知ってほしいですね。そうすれば、子どももそうですし、子どもと関わる仕事をされる方々も生きやすい世の中になるような気がします。

ちなみに『こどもかいぎ』をやったことで一番驚いていたのは、実は保育士さんたちでした。”この子はこういう子だな、こういう性格だな”って思っていたのが、『こどもかいぎ』をやったことによって大きく覆されて、知っているようで知らなかった目の前の子どもたちへの気づきがすごく新鮮だったって伝えてくれました。

平岩さん:それはアフタースクールでも同様です。子どもたちって家の姿と外の姿が結構違っていて、外の方が大抵しっかりしているので、保護者の方にも見せてあげたいですよね。家では甘えん坊の子が、放課後には低学年の面倒を見ていたりして、保護者の方に伝えると「そんなわけない(笑)」なんて言われますが、本当なんです。

豪田さん:そうそう。映画を観た(出演児の)保護者の皆さんもみんな驚いていました。「あんな発言をするなんて、想像ができない」と。僕はいろんなところでファシリテーションをさせていただく機会も多いんですが、直前までふざけ合っていた子が、始まった途端にきちんとテーマに沿って自分の意見を話い合ったりします。一度『こどもかいぎ』の様子をちょっと離れたところから親御さんに見てもらったことがあったのですが、みんな唖然としていましたね。

平岩さん:そういう姿も知った上で、家庭の子育てに臨んだ方がいいなとは思うんですよね。

豪田さん:めちゃめちゃそう思います。でもなかなか学校の様子も見る機会がないですよねぇ…。

平岩さん:小学生になると授業参観と運動会とかに限られがちで、でもあれはもうよそゆきの顔ですよね。

豪田さん:きっと、そうなんですよね。

平岩さん:せめて放課後はもっと見てもらってもいいかなって思います。子どもの自然な姿がたくさんありますので。

後編につづきます!