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【後編】「『こどもかいぎ』のトリセツ」出版記念対談!子どもたちの未来に”対話”の文化を

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娘が生きていく未来に、対話の文化を

平岩さん:改めて、豪田さんはなぜ「こどもかいぎ」という映画を作ろうと思われたのですか。

豪田さん:いろんな要素が積み重なって、沸点に達した感じでしょうか。ひとつは自分の娘との対話に苦労していたことです。
「保育園どうだった?」「楽しかった」……以上おわり!みたいな(笑)
娘ともっと対話をして、娘の心の声を聴きたいなってずっと思っていたんです。娘が何を考えているのかを知りたいし、保育園や学校であったことを報告してくれるとすごく幸せな気分になるんだけど、それをうまく引き出せてないなと以前から思っていました。

あとは北欧へ視察に行ったのもきっかけの一つですね。フィンランドは世界一の教育大国であり、幸福大国です。人口は600万人くらいで、福岡県くらいしかいないのに、一体何が起きているんだろうという好奇心があって、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーなど各地を回りました。そこで僕の中で出した、彼らの成功要因の一つが、”対話”だったのです。

「ダイアローグ」っていうワードがめちゃめちゃ出てくるし、それこそサウナの中でもダイアローグするそうですし。ただ、フィンランド人って、実はめちゃめちゃシャイなんですよね。

フィンランドにはアキ・カウリスマキという有名な映画監督がいるんですけど、その人が作る映画に出てくる人たちってみんな鬱屈としてるんですよ。めちゃめちゃ暗くて、人の文句ばっかり言っている(笑)

映画って国民性がよく現れるし、実際にシャイな人たちなんです。ところが2〜30年前に、それだと人口の少ない自分たちの国は世界で生き残れないということに気づいたようで、一挙に対話の方向にシフトしていって、数十年かかって幸福とか教育にも効果が出てきた。これはエビデンスうんぬんではなく、あくまで僕が感じたことですが、そう考えると日本人はもうね、世界でも名だたるシャイな人たちなので(笑)、フィンランド人ができるんだったら日本人もできるんじゃなかろうかと。

これからの少子化で一番困るのって、今の子どもたちなんですよね。例えば経済規模が小さくなっていくと、現在以上に外国に出ていかないといけなくなるわけです。もう既に始まっていますけど、他の国で働かないと十分に稼げないとか、売上を上げるためにどんどん出ていかなきゃいけない。そのときに、対話ができない、コミュニケーションができない、自分の意見が言えないというのは、相当不利になります。一人娘を育てている親としては、我が子が不利な状況になるのは目に見えているので、なんとかしたいなって。そういういろんなものが積み重なって対話をテーマにした映画をつくろうと思いました。

平岩さん:そうだったんですね。僕の身の回りにも色々と思い当たる節があります。

子どもを信じて待つ−日本の教育現場や家庭に対話を

平岩さん:対話って小さい頃からの文化として鍛えていかないといけなくて、特に今、小学校では対話の文化って今ひとつだなと。先生が一方的に喋るし、学級会とかは比較的、多数決で決めてしまいがちになっちゃうんですよね。なんか本当、対話が日本人は圧倒的に足りていないかなと思いますね。

豪田さん:そうなんですよね。先生方は場づくりとか、ファシリテーションとか、みなさんが学ばれているわけではないですし、良い悪いではなく、今の学校での教え方と言うのは、構造的に対話とは真逆のところにあるとも言えるかもしれませんね。対話って、ベースにあるのは平等な関係性ですし、場を作る人は正解を言ってはいけないと言うルールもあったりして、そういう意味では、先生方も「そんなの習ってないんだけど」と困っちゃうかもしれませんね。

このトリセツにも書いてあるんですけど、『こどもかいぎ』のファシリテーターをする大人には、7つの NG事項があります。その一番最初に記載しているのが"話しすぎちゃいけないよ"ってことなんです。だけど、先生って話す仕事じゃないですか、これはなかなか相いれないですよね。笑わせてはいけない芸人みたいな(笑)。

平岩さん:そうですよね。子どももそれを待っちゃうところがありますよね。

豪田さん:大人が話しちゃうと、子どもはそれが正解だと思ってしまうし、そうすると「考える力」を奪っちゃう面が出てくる。そういう意味では、大人はもっと対話力やファシリテーション力を磨かないと、子どもの発言力や表現力を伸ばせない時代になってきているのかもしれません。

平岩さん:今、そういうシフトは起こり始めてはいるので、そこは期待しますし、その速度を上げたいなと思っています。

豪田さん:学習指導要領が大きく変わって、探究とかアクティブラーニング的になったことはすごく大きいですよね。この辺りについて、平岩さんのご意見もうかがいたいです。

平岩さん:僕は相当取り組んでいますね。今は学校運営にも関わっていますけど、放課後から学んだことを学校に転用している感じがあります。子ども主体で、選べることを大事にしているので、自分たちの場は自分たちでつくっていくという意識が子どもたちにどんどん芽生えて、学校づくりやクラスづくりにも活かされています。

探究学習はとても良くて、多くの子どもたちが変わっていく様子が見られます。いろんな探究をやってみたんですけど、丸々子どもたちに任せる場もあるし、先生がガイドしながら行うものもあります。最初は丸々全部任せるのが本当の探究じゃないかって思っていたんですけど、ある程度ガイドされた探究にもすごく意味があると思うので、いま組み合わせをどうしていくかという研究をみんなでしています。自分の本当に好きなこと、興味のあることはいくらでも探究したくなるし、その好きなことを誰かに肯定してもらえるので信頼感も生まれます。

先生たちからも「探究的な学びを始めて楽しくなった」という声が多くて。正解がないので、自分もわからないことは子どもと一緒に調べています。今まで指導者だった大人が学習者や伴走者にもなり、先生もハッピーそうです。

豪田さん:いいですね!

平岩さん:でもまだ探究も、学校が取り扱いきれていないんじゃないかなって思います。
「ゆとり教育」と呼ばれた時代に総合的な学習の時間がうまく取り扱えなかったために、また詰め込みの方に戻ったことが、失敗経験的に残ってしまいました。あの経験を怖がってはいるんですけど、ただあの経験からも学んで、社会も大きく変化して、今度の探究はきっと流れとしては止まらないかなって感じは受けています。

豪田さん:『こどもかいぎ』もそうで、1回2回やってみて、「やっぱ子どもは話さないわ」とか、「意見を聞いてもあまり出てこない」とかって、早々に終えちゃうところがあるんですよね。
あと「待つ」っていうのもすごく大事です。映画の中でも子どもたちがしっかり意見を言えるようになるまで半年近くかかりました。

特に一人、先生が質問しても全く答えない子がいて、その子の成長物語もサブストーリー的に入っているんですが、最終的には自分の夢まで語れるようになりました。ただ、最初の一言を話すまでに5回ぐらいの『こどもかいぎ』を開き、そこまでに8ヶ月ぐらいはかかりました。この「待つ」っていうことも大事なキーワードかもしれませんね。

平岩さん:あの映画は本当に「待つ」、「子ども自身が解決する大切さ」を粘り強くやられているんだなって感じました。本当、子育ての重要テーマは「待つ」だと思いますが、大人はなかなか待てないんですよね。その話をすると皆さん「分かっているんですが(笑)」となります。保護者や先生が「待つ」ための究極のノウハウや心がけを世に提供したらノーベル賞級だな、と思ったりします。

豪田さん:本当ですよね。

平岩さん:今日は改めて子どもたちの話ができて嬉しかったです。子ども主体の場づくりや対話はずっと続いていくテーマですので、私たちもこれからも対話を続けていきましょう。豪田さん、今日はありがとうございました!

映画「こどもかいぎ」オフィシャルサイト
https://www.umareru.jp/kodomokaigi/

書籍「『こどもかいぎ』のトリセツ」
https://www.umareru.jp/kodomokaigi/manual/