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コラム「境を越えた瞬間」2024年6月号-岡本莉奈さん‐

プロフィール

岡本 莉奈(おかもと・りな)

2000年生まれ。大学1年生のときに自立生活センターSTEPえどがわの講義を受け、学生ヘルパーを始める。
約2年間、ALSの方などのヘルパー経験を経て、大学を卒業後に作業療法の資格を持ちながら、STEPえどがわで活動する。
ヘルパーをする傍ら、障害当事者と一緒に大学で講義をしたり、ときどき、全身ピンクタイツを着て(笑)、ダンサナクセイバーのナクセイバーピンクになったりする(絶対に秘密)。

ダンサナクセイバーのピンク、事務所で変身途中の一枚(笑)


くるくると境を越えてゆけ

「あぁ、ベッドから起き上がるのしんどいな…。」

これを読んでみようかと思っている、そこのあなたにも、こんなときはないだろうか。

私は、気持ちの浮き沈みが激しく、ベッドから起き上がり、自分の生活を回せない日が多々ある。

でも、そんな日にも介助はもちろんあって…。

重い体を持ち上げて、とりあえず、歯を磨いて、服を着替えて、ベッドを恋しく思いながら、ようやく家の玄関を出て、電車に揺られ、なんとか、夕方に利用者の家に着く。

本人の指示のもと、食事やトイレ、洗濯物の取り込み、痰の吸引などを行い、本人の生活が着々と回っていく。

やることが一段落したころ、「よかったらお食事どうぞ。」の文字がパソコンに映し出され、

「今日は、この番組の日か…。」なんて思って、コンビニのおにぎりを食べながら、一人だったらあまり見ないテレビを見て、同じタイミングでゲラゲラ笑ったり、びっくりしたりする。

【あ〜…心地いいなぁ。】

家を出る前の自分とは全然違った、なんてことないけれど、なんか、心地良い時間。

自分だけでは回らなかった生活が、介助をする中で勝手に、一緒に、回っている。

そして、「今日もありがとうございました。また、明後日〜。」と言っている頃には、一日の中で一番元気になっている(笑)。

家では灰と化していたのに、どうして、今の自分は、こんなに生き生きしているのだろう…。そこに「いた」だけなんだけどなぁと、最初はとても不思議だった。

しかし、ふと、聴覚障害の当事者、そしてヘルパーとしても活動をしている同僚がよく言っている言葉を思い出した。

それは、

「おたがいさま」

である。

【そうかぁ…おたがいさまかもなぁ。】

行動だけを観察していれば、確かに私だけがケアをしているように映る。一般的にヘルパーの仕事として認知されているのは、この目で見ることのできる行動ではないだろうか。

しかし、本当は目には見えない、「いる」ことを含めた、ケアをしつつケアをされている、双方向のケアの関係性があるように思う。

介助をすること、そしてただそこに「いる」ことによって知らぬ間に私が、ケアをされていたのだ。

私は、これを「ケアをする。」と「ケアをされる。」という境を越えた瞬間のように思う。

そして、今では「ケア」という関係の境も越えて、「ひとりのひと」としてつながることができていることを願い、これからも、介助を通して色々な人の生活に回されながら、くるくると境を越えていきたいと強く思う。


近くの公園で少し遅咲きな桜を眺めてる風景


境は至るところにあります。目に見える境もあれば目に見えない境もあります。境がないと壊れてしまうものもあれば、境があるから困ってしまうことがあるのかもしれません。
毎月、障がい・福祉・医療に関わる方に「境を越えた瞬間」というテーマでコラムを書いていただいています。
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