大好きなのは幻影のあなた

「その人はやめた方がいい。私の元彼にそっくり」

「あんたずるずると付き合って困ったことになるよ」

警告って耳に届かない。ほんとかな?そうかな?見てみよう、そんな気楽に始めた恋。その通りだったのかも。

元々、私はあまり人が好きでない。恋愛なんてなおさら。そんな単語口に出すのも不愉快。映画でラブシーンがあると気分を害す。でも、気になっていた。私も普通だったらどんなだろう。人に、家族とかでない自分で築いた人間関係の中で誰かに愛されるってどんなだろう。一度しかない人生、思い出作り程度に誰かに愛してもらえないか。

アプリで出会ったあなた。古代文明と民俗学の話で盛り上がった。教授に深すぎると言われた私の作品に臆さず感想を言ってくれたあなた。

初めて会った時、私は遅れて行った。駆け引きなんかじゃなく緊張で無理やり買ったコンビニのパンも喉を通らなかった。私は人間が嫌い。特に男の人が苦手。あなたは一生懸命喋ってくれた。声を詰まらせて私より緊張していてなんだか可愛かった。

でも、私はその日やっぱりアプリや恋愛は苦手だから、ごめんなさいを言う為にあなたに会った。直接言うのが誠意だなんて思って。結局、私は振りきれなくてあなたが一目惚れ、告白してくれた。私は承諾してしまった。

問題ばかりのあなた。発達障害の傾向で苦しんで、家族に捨てられて、友達を亡くして、一人で生きようとして借金、事故、自殺未遂、引きこもり。都会で汚されたあなた。かわいそうだと思わないけれど、遠いあなた。

あなたの考え方は極端。言葉のあや。頑固。あなたに何度泣かされたか。話し合いはいつも一方通行。私の言葉は届かない。私はいつしかあなたを救おうとしていたんだ。これは愛ではなかったのか。私は疲れてしまった。

一緒に買い物に行って、一緒に料理、一緒に散歩に出かけて、一緒に季節を祝って、毎日を大切に生きていくのがあなただったら。大好きな人。

(あなたはニート、帰りに私が一人で買い物、買ったお肉の文句、あなたはずっと暗い部屋でゲーム、誕生日もハロウィンも来ない、)

それでも大好きな人。気を抜けばあなたに会いに行ってしまいそう。だから、あなたの悪いところ全部思い出して、あなたを嫌いになる。私が悪役になるから、どうか私を嫌いになって。

どんなに傷つけても愛していると言ってくれるあなた。あなたを支え続ける私、あなたを理解する私、あなたもきっと幻影の私を愛してる。

私はもう愛してもらうってことを知れたから、それだけでもういい。

もう直ぐクリスマスですね。次会う時は現実の私。どうか私を振ってね。