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日本的ウェルビーイングとは?(石川善樹ゼミ第1回より)

石川先生がゼミを受け持つことを決めた理由は、驚くべきものだった。

「一生の友達を作りたい。」

先生は正気なのか。はたまたパフォーマンスか。予想外にゼミ生の人生に関わろうとされる言葉に、耳を疑った。

「友達」とは何か。
改めて辞書で引いてみると、「互いに心を許し合って、対等に交わっている人。一緒に遊んだりしゃべったりする親しい人。友人。」とある。

一生の友達。
そんな相手ができたらどんなにか心強いだろう。チャレンジしては失敗し、笑って泣いて、それをすべて受け止めてくれる友達がいるなら。

しかし、人生経験も職業もライフスタイルもバラバラの大人が集まって、「意図的に」一生の友達になれるものだろうか。

先生にはアイデアがあるという。

友達になるには、

1)生死を共にする

2)本気でケンカする

3)一緒に悪いことをする

このいずれかの経験をすることだと。

さすがに2)、3)は現実的ではない。だから、1)生死を共にする経験をできるような「合宿」が、このゼミには組み込まれることになる。

ここまでがゼミの裏テーマで、表のテーマは「日本的ウェルビーイング論」であった。

ウェルビーイング(Well-being)とは何か。

Beingとは、「本質」とか「あるがまま」を意味する。

それが何かを見出すには、このあとで説明される自己紹介の方法「ゴールデン・トライアングル」が関わってくるのだけれど、まずはBeingの対義語、「Havingとは何か」について考えていく。

(ちなみに、Wellは、”なんかいい感じ”な状態で、「経験」と「評価」により得られるというが、ここでは割愛。)

Havingとは

持つことで安心するのが「Having」の価値観。

曰く、弱さを克服して強くなる人の「成功」モデルだ。

若き日の石川先生は、あるとき飲み屋で出会った初対面のおじさんからこの価値観を教えられ、その後かなりの長い間とらわれることになったという。

その「成功」モデルとはこうだ。

20代は「仕事」の時期。粉骨砕身取り組むハードワーク期

その後、「私事」の期間に入る。それまでに上げた「圧倒的成果」と「他分野での知名度」をもってブランドを形成するブランディング期だ。

そして人生の仕上げ、50~60代に入ると「志事」に取り掛かる。志を元にコミュニティを形成し、大儀を成すアチーブメント期にようやく入る。

この指数関数曲線を上手に登るには何が必要なのか。若き日の石川先生の問いに、飲み屋のおじさんはこう語った。

「かわいげ感」と「オオモノ感」だと。

それはどうしたら身につけられるのか。

飲み屋のおじさん曰く、第一には、おじさんを殺すキラーワード「さ・し・す・せ・そ」を会話のそこかしこに織り込むことだという。

「合コンさしすせそ※」と同じテクニックだということが興味深い。
(※さすがですね・しらなかった・すごいですね・センスある・そうなんですか)

第二の秘訣は、「あなたが初めての人です」ということ。(こんなに〇〇がすごい人には初めて会いました!という感じで)

そして第三の殺し文句は、「どうしたらあなたみたいになれますか」。

この3つを言うことができれば、あなたのかわいげと大物感に、おじさんはイチコロで成功をサポートしてくれる。成功は確実なものに近づくのだ。

でも、その考えにはどこか違和感があった。

弱さが人の魅力なのに、という感覚と食い違うのだ。

西洋的成功が、かわいそうな人が一生懸命努力して階段を上っていく右肩上がりのモデルだとしたら、日本人の特徴は、不調な時もあれば好調な時もあってそれがどちらかに振れると引き戻されるような、振り子の構造である。

ここに、西洋的Havingとは異なる、日本的Well-beingのヒントがある。

日本的なWell-beingとは

更に、日本的な価値観を掘り下げていく。

内村鑑三の明治27年の講演録『後世への最大遺物』には、後世に残すべきものとして、次の4つのものが語られている。

1.カネ

2.事業

3.思想

4.生き様

言うまでもなく、お金は交換可能で、生きる糧を得る上で便利なものだ。事業はそのお金を生むから超重要。そして思想は文学である。

正直1~3は平凡な人には作れないかもしれない。だけど4は、平凡な人が歯を食いしばってどう生きたかという「生き様」だ。それは、一人一人の人生に必ずあるものだ。

それを掘り下げ、語れるようになることが「後世に私が残すもの」を見つけることであると同時に、日本的Well-beingを探り当てるヒントになる。

ゴールデン・トライアングル

自己紹介は最もイノベーションが起きてこなかった分野だから、1年ほど研究を重ねたと石川先生は話す。

そして、見つけたのだそうだ。破壊的な自己紹介のやり方を。平凡な人が非凡なストーリーを作る方法を。

それが以下で解説するゴールデン・トライアングルだ。

それぞれの要素はこうだ。

Philosophyでは以下の3つを語る

 ・Concept:時代をどうとらえているのか

 ・Theme:どう考え、生きていくのか

 ・Idea:困難を一気に解決する方法

Personaでは以下の3つを語る

 ・世界観:シチュエーション

 ・キャラクター:大事にしていること(裏返すとそれが弱さとなる)

 ・エピソード:どの道を選んでも困難であった体験(そのストーリーが勇気を授ける)

Principleとは、マイルール。業界の通説に反して自分はこうするという行動指針だ。

この「ゴールデン・トライアングル」を自己紹介で言えるようになること。これができたら自分を知り、Well-beingな状態に近づいていくはずなのであるが、このトライアングルには、日本的Well-beingに向けての落とし穴が隠されていることは、第2回の講義で明かされることになる。

というわけで、第1回石川ゼミではついぞ自己紹介をしないまま、お酒とおつまみと先生のお話を楽しんだ。

第2回ではいよいよ「ゴールデン・トライアングル」でそれぞれが自己紹介することになる。

日本的Well-being への道はまだはっきりとは見えないが、次回自己紹介ができたら、「一生の友達」に向けて皆が少し近づけるかもしれない。

(おわり)


編集:柴山 由香

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