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旧奥山邸の魅力を最大限引き出し「田園散居ホテル」を目指す/井上貴詞さん編

みなさんこんにちは!NIPPONIA白鷹 旧奥山邸プロジェクトです。

今回は「#NIPPONIA 白鷹のホントノトコロ」と題し、プロジェクトメンバーそれぞれの視点で、NIPPONIA 白鷹の魅力と意気込みを語っていただきました!

今回のメンバーは、改修設計を担当している「井上さん」です♪

ー早速ですが、自己紹介をお願いします!

はい、今回建物のリノベーションにあたって、設計を担当している井上貴詞と申します。
ふだんは、山形市で建築設計事務所を主宰しています。独立する前の事務所では、蔵や堰などの歴史的建造物の再生やまちづくりにかかわることが多かったのですが、独立してからも不思議なご縁で古民家の改修をはじめ、様々なタイプのリノベーションの仕事をいただいております。

NIPPONIA白鷹プロジェクトでは、旧奥山邸だった2000坪の敷地に点在する計7棟の建物をホテル(一部レストラン)にリノベーションするための、改修設計から工事監理までを担当しています。

ー井上さんが旧奥山邸を初めてみたときの印象を教えてください

とにかく、「敷地が大きいな!」というのが率直な印象でした(笑)
2000坪もの広大な土地は、さすが江戸時代から続く地元の有力な豪農の家だけありますが、一つ一つの建物がお互いにけっこうな距離を離して建っているので、隣棟間の移動だけでも大変です。7棟あるすべての建物を見回るだけでもそれなりの時間がかかりますね。

それぞれの建物同士が離れているのは管理上大変かもしれませんが、見方を変えれば建物の独立性を高めることにもつながっているので、騒音やプライバシーを気にするホテル(宿泊施設)には実はとても向いているのではと思います。なおさらソーシャルディスタンスが叫ばれるウィズコロナ時代のいま、まさに求められている空間モデルともいえそうです。

またこの旧奥山邸は、周囲を田園地帯に囲まれた「浅立」という集落の中に位置していますが、敷地西側には大きな屋敷林をもち庭木に覆われて広大な水田の中に佇む敷地の全景は、まるで海に浮かぶ島々のようです。

こうした集落の形は「散居集落」と呼ばれるもので、山形県内では特に飯豊・長井・白鷹近辺で見られる全国的にも貴重な文化的景観です。この辺りを車で走ると、西山と呼ばれる朝日連峰からの冬の北西風から家々を守るように、敷地の西側に屋敷林を設けているのがとてもよくわかります。

ー今回のリノベーションのポイントを教えてください!

そうですね、やはり旧家を丸ごと「ホテル」に変えるわけなので、先ほど話に出た散居集落としての環境性や古い木造家屋の居住性を最大限に活かして、ここだけの「田園散居ホテル」を目指したいです。
過去に失われてしまっていたままの板塀を再生し、傷んだ門を修繕することで、敷地内のプライバシー性を取り戻し、門をくぐった後の落ち着きと非日常感を増幅させます。

また宿泊客が、本来あった正門からの主動線を使えるようになると、門からフロント棟までゆったりとしたアプローチの中で、水神様が祀られた池泉(田植えの時期に農業用水を引き込んでつくられている)や母屋の遠く背景に見える朝日連峰の景観などを同時に楽しむことができます。
広大な敷地には、そこかしこに希少な庭木も散見できます。珍しいモミジのほか、奥山家が大事にしてきた樹木を愛でながら敷地内を散策するのも、このホテルの楽しみの一つになるかもしれません。

四季折々の景色を味わえるのは何も敷地内に限りません。敷地の南側隣地は一面の水田になっています。
かつて奥山家が眺めていたように、春には水が張られ、夏には青々とした草原のようになり、秋には黄金色の稲穂が実り、冬は真っ白に覆われる田園風景を、間近でゆっくりと体感することもできます。

ーこのプロジェクトに参画できてよかった!と思うことありますか?

何より、比較的若い年代でそれぞれの専門領域を活かして、これだけの山形にゆかりのあるメンバーが揃って一つのプロジェクトで協働できることは、地域のこれからを考えても意義が大きいと思います。
また人との出会いという意味では、こうした古い建物を扱う場合、建物の由緒や建設された当時の時代背景、これまでの使用経緯を丁寧に調べていくことで、以前のオーナーである先人の記憶にも自然と触れることになります。

今回初めてわかったのは、江戸後期から200年ほどつづいた奥山源内家は、米沢藩や上杉鷹山とのかかわり以外にも、代々の当主が農家の他にも町医者・村長・学校管理者・県議会議員・銀行頭取などを務めていたことです。その時代ごとに地域のため貧民救済や産業助成、教育振興に尽力していたことが窺い知れ、集落の至るところにその功績をたたえる石碑が残されていることから、いかにこの地域にとって大事な存在だったか理解できます。

今回改修する旧奥山邸の建物群は、だいたいが大正6~10年ごろに当時のご当主によって建て替えられたものとみられます。今からちょうど100年前ですが、自分の祖父母が生まれる少し前くらいでもあり、そこまでとんと昔の話でもないかと思います。最近何かと話題の「鬼滅の刃」も、時代設定は大正初期ということで、まさに劇中に登場したのと同じような建物が今回の敷地の中で見られるのも一興です。

ー最後にメッセージをお願いします

今回の敷地の近くには山形を代表する最上川が流れていますが、かつて最上川舟運で上方からもたらされた文化の一つに「蔵」があります。県内には今も多くの蔵が残されていますが、家の敷地内に用途の異なるいくつもの蔵を持っていることが山形の由緒ある旧家の特色でもあります。

今回のNIPPONIA白鷹では、その蔵に泊まることができるようになります。自然あふれる環境と歴史を重ねた空間をぜひ体感していただければ幸いです。


ありがとうございました!

井上貴詞(いのうえ たかし)
株式会社井上貴詞建築設計事務所 代表取締役

山形県山形市出身。大学で建築を学んだ後、地域にかかわるリサーチ部門も併設した設計事務所で修業し、地域資源を活かした数多くの建築設計を担当。2014年に東北・山形を拠点に独立。古民家や蔵などのリノベーションをはじめとして、その土地がもつ価値を掘り起こしより高い質へと引き上げていくような設計手法を各地で展開している。
http://takashiinoue.com/

(editor. 広報/企画担当 和田有紗)

NIPPONIA 白鷹 旧奥山邸
https://stay.nipponia.or.jp/areas/shirataka

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