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1週間の重心は"土曜始まり"にあり──『フルライフ』#5

人生100年時代が到来し、75歳頃まで一生懸命に働くだろう私たちに、いま必要な「戦略」はなんなのか? 予防医学・行動科学・計算創造学からビジネス・事業開発まで、縦横無尽に駆け巡る、 石川善樹さんの集大成『フルライフ』を、一部特別公開します。
私たちNewsPicksパブリッシングは新たな読書体験を通じて、「経済と文化の両利き」を増やし、世界の変革を担っていきます。

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1週間の「終わり」はどこであるべきか

 さて、1日の時間戦略を見てきましたが、同様の方針が1週間にも当てはまります。すなわち、1週間の始め方と終え方が重要になるということです。

 ここで、素朴な問いを投げさせてください。

Q.1週間の「終わり」はいつですか?

 週末=ウィークエンドという言葉があるように、普通に考えれば土日ですよね。例えば私は月~金まで働き、土日は「バッファー」という名のもとに、平日にやり残したことをこなす羽目に陥っています。

 そして、金曜日の夜は「花金(ハナキン)」として夜遅くまで飲んだり、あるいは家でダラダラしたりしているのではないでしょうか。

 こういった生活を送っていると、何が起こるか。まず、土曜日の朝はぐっすりと「寝だめ」することになります。平日の睡眠不足もたまっているので、人によってはお昼頃まで寝ているのではないでしょうか。また、起きてからもダラダラと本調子にならず、結果として夜更かしをします。すると日曜日も同じような悪循環に陥りますね。

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 その結果、おかしな現実に直面します。土日ゆっくり過ごしたはずなのに、月曜の朝から疲れを感じるし、たっぷり寝たはずなのに、眠気が取れない。

 平日と休日で起きる時間が違うと、海外旅行をしていなくても、体はそれを「時差ボケ」として認識します。なぜなら、人間の生体リズムは、寝た時間ではなく、起きた時間によって規定されるからです。この現象を、ドイツの時間生物学者ティル・ローネベルグ博士は「社会的時差ボケ」と名付けました。

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 時差ボケは3日間くらい続いてしまうので、月~水くらいまでダルさが続きます。ようやく木・金と復活してきたと思ったら、また土日でリズムを崩してしまう。

 これはマジでやばい、とある時思ったんです。自分でも笑ってしまうくらい同じ悪循環を繰り返していることに気が付き、いよいよ対策に乗り出すことにしました。

 クリアすべきハードルは明瞭すぎるほど明瞭です。社会的時差ボケを防ぐには、平日と休日で起きる時間を一定にすればいい。ただ、それが難しい。

 ただ難しい問題を解くのが私の仕事です。かなり頭を悩ませましたが、ようやく最近、しっくりくるアイデアが浮かびました。そのお話をしたいと思います。

現代人が「社会的時差ボケ」に陥る理由

 まず私が疑問に思ったのは、そもそもなぜカレンダーは「月曜」からはじまっているのかということです。日曜始まりのカレンダーもありますが、多くの人は月曜始まりを使っていると思います。

 これは知人から教えてもらった話なのですが、どうやら「月曜始まり」は、ソニー創業者の盛田昭夫さんに端を発するようです。

 元々、明治になって日本に「1週間」という概念が入ってきたときは、おそらくキリスト教の影響で「日曜始まり」でした。創世記によれば、世界は日曜に始まりましたからね。しかし、「みんな月曜から仕事をしているんだから、月曜始まりでいい」と言い出したのが盛田さん。それが一般に普及したから、月曜始まりのカレンダーのことを「盛田式カレンダー」とも呼ぶそうです。

 そして今では多くの人が月曜始まりのカレンダーに従い、「ハナキン」を楽しみ、土日でリズムを崩しているというわけです。

 そこで私は、社会的時差ボケの調査のために、色んな方のカレンダーを見せてもらいました。すると、例えば女性の場合、「土曜の朝はヨガ」など、繰り返しの予定を入れている人が多かった。

「毎週行ってるんですか?」と聞くと、「行きたいけど、行けていない」という答えがほとんどでした。それもそのはずで、前夜の金曜日に夜更かししていれば、土曜の朝は起きられたものではありません。でも、当人たちはヨガに行きたいのです。

 では、どうすればヨガに行けるようになるか。さらにいえば、どうすれば社会的時差ボケをなくせるのか。

 (土日休みの人が)よい1週間を過ごすために、私が考えたアイデアは、「土曜始まりのカレンダーを作る」ということです。

Q.どうすれば社会的時差ボケをなくせるか

〉〉〉A.1週間の始まりを土曜の朝にする

 ポイントは3つあるので、一つずつお話しします。

睡眠にも仕事にも効く「土曜スタート」

 まず最初の、そして最大のポイントは、社会的時差ボケをなくすために、土曜の朝も平日と同じくらいの時間に起きることです。もっというと、「土曜の朝から1週間がはじまるんだ!」という強い決意の下、スケジュールを土曜始まりに変えてしまうんです。

 土曜始まりにすることの効用は、他にもあります。月曜始まりのカレンダーの場合、「仕事」や「学校」をメインに据えたものなので、週の最初に入れるのは「やらなければいけないこと」です。一方、土曜始まりならば「自分のやりたいこと」から埋められます。

 心理学では「ポジティブスケジューリング」と言われますが、「やるべきこと」と「やりたいこと」があったときに、まずはやりたいことから埋めていく。それを可能にし、人生の満足度まで上げてくれるのが土曜スタートの考え方なのです。

 土曜始まりの紙のカレンダーはありませんから、私は自作しています。Googleカレンダーのようなデジタルのものであれば、すぐに設定から変更できます

 土曜始まりで1週間を考えるメリットは、「今まで土日の自分はダラけすぎていたな」と気づけること。私もGoogleカレンダーを土曜始まりに変えてみたら、「なんてスカスカのダラダラした土日を過ごしているんだ!!!」と猛省しました。

 これが月曜始まりだと、平日は真面目な予定で埋まっているから、「私はちゃんと生きている」と勘違いします。土日が少々ダラダラしたものであっても、平日のがんばりに目をそらされて、ダラダラに気が付きにくいのです。

 ただ、そうはいっても、ついつい土曜の朝は寝だめをしてしまいます。では、どうすれば土曜の朝に起きられるのか?

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 ポイントの2つ目が、「金曜日の夜8時以降はスケジュールを黒く塗りつぶす」です。金曜夜を「部分最適」にしようと思うならば、遅くまで飲んで食べてしまうことになる。でも、それは1週間という「全体最適」で考えると、最悪ということです。

 理想を言えば、夜8時までに食事などは終えておき、それ以降はあまり飲み食いをしない。これこそ、土曜日の朝に起きるための秘策です。そもそも「起きる」とは何か。目が覚めたら「起きた」と勘違いしている人がいますが、人間の生体リズムには「光で入るスイッチ」「飲食で入るスイッチ」という2つのスイッチがあります。

 つまり、目が覚めるだけでなく、光を浴びて、飲食もしなければ、体は「起きた」と言えないのです。

 もし金曜日の夜遅くまで飲み食いしていたら、土曜日の朝は何も口に入れたくないですよね。土曜日の朝起きるためには、「おなかが空いて目が覚める」必要があるわけです。そのためには、金曜日の夜は、8時までに飲み食いを終わらせておく。

 これは別に、金曜日の夜に飲み会をするのを禁止しているわけではありません。もしするのであれば、夕方の5時とか6時とか、早めの時間からスタートしてほしいのです。これが本当の「プレミアムフライデー」だと思います。

 ただ、月から金まで頑張っていれば、精神的には興奮した状態なので、金曜はなかなか眠れないかもしれません。そこで私がおすすめするポイントの3つ目は、「花木(ハナモク)」という発想です。

 木曜の夜に遅くまで飲めば、金曜日は自動的に朝から眠い。だから夜は勝手に眠れる。とはいえこれは、最終手段ですが。

 これが、社会的時差ボケに陥らず、よい1週間を過ごすための「土曜始まりのカレンダー」というアイデアです。さらにいえば、金曜の夜に1週間の「To Feelの振り返り」を行うのもいいでしょう。この1週間で自分はどんなことを感じたかを振り返ることで、自分が過ごした1週間の「評価」を高める。反省点を見つけて改善するだとか、来週の予定を立てようとする必要はありません。振り返るだけでいい。

 そして土曜の朝、いつもどおりの時間に起きて、「ウィークスタート」となるそのタイミングで、1週間をどのように過ごそうかじっくり計画してみる。

 いずれにせよ、1週間を過ごす上で重心となるのが、この土曜始まりカレンダーにおける1週間の終わり、つまり「金曜日の夜8時以降」です。ここが崩れてしまうと、その後の1週間がボロボロになってしまうというお話でした。

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はじめに どうしたら一度きりの人生がフルになるのか
1章 仕事人生の重心は、すべて「信頼」にある
2章 生産性の重心をとらえる3つの「時間軸」
3章 創造性の重心は「大局観」にある
4章 人生100年時代の重心は「実りの秋」にある
5章 真のWell-Beingとは「自分らしさ」の先にある
おわりに 新しい時代の重心は「私たち」である