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フューチャー・ネーションの6原則ーー『フューチャー・ネーション』#6

ビル・ゲイツ財団の若きリーダーによるデビュー著書『フューチャー・ネーション:国家をアップデートせよ』。パンデミックから#BlackLivesMatterまで、「団結か、分裂か」で世界が揺れる今、本書が大きな注目を集めています。一部を無料公開いたします。
私たちNewsPicksパブリッシングは新たな読書体験を通じて、「経済と文化の両利き」を増やし、世界の変革を担っていきます。

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Introduction

グローバリズムをアップデートせよ

フューチャー・ネーションの6原則

 こうしたことを踏まえて、ぼくはまっとうなグローバリズムを体現する、「フューチャー・ネーションの六つの原則」を提唱する。将来的にいまよりずっと多くの世界市民の支持を得られるはずだと確信している。公正で一体感のある世界のビジョンを示すことで、狂信者を説得することはできなくても、その支持基盤を徐々に弱体化させることはできるだろう。

 最初のふたつの原則は、世界市民の自己認識にかかわるものだ。
 
 まずグローバリストの言う「私たち」とは誰か、真にインクルーシブな定義が必要だ。白人、先進国、民主主義、世界において重要な人々といったニュアンスをごちゃまぜにした「西洋人」というあいまいな言葉を使うのは、もうやめるべきだ。このおそろしく便利な言葉は「私たちとそれ以外」という非常に危険な世界観を生み出す。台頭しつつある中国にも同じリスクがある。漢民族(世界人口に占める割合はいわゆる「西洋人」とほぼ同じ)だけを優遇するグローバル・コミュニティを創ろうとする過ちは、何としても避けるべきだ。
  
「私たち」を定義したら、次はグローバル国家が何を目指し、何に抗うかを明確にする必要がある。地球上のあらゆる国がすでに「持続可能な開発目標(通称SDGsまたはグローバル・ゴールズ)」を受け入れた。これは人類の幸福を増進し、地球を守りたいという共通の願望の表れだ。重要なのは、いまはまだ無味乾燥な国連の合意文書にすぎないこの目標を、いかにして世界中の誰もが心から支持するようなミッション(使命)へと変えていくかだ。
  
 またグローバル国家の敵は特定の人間ではなく、疾病や気候変動といった人類共通の脅威だという認識を広めるには、それ以上の想像力が求められる。人類はこれまでにもたびたび想像力を発揮し、より大きな集団をうまく機能させるために発想の飛躍を成しとげてきた。今回も同じことができるはずだ。

 次のふたつの原則は、人々が大切にしているアイデンティティや制度が排除されたり破壊されたりしないように、保護するためのものだ。国際協調が進展しても、人類の生み出した組織体として最も成功した「国民国家」という枠組みは維持し、強化する必要がある。現存する二〇〇あまりの国民国家には可能なかぎり自律性を残し、互いに危害を及ぼさないという基本ルール以外に制約を課すべきではない。
 
 ここでとりわけ重要なのは、国民国家への移民の流入を、国民が民主的にコントロールする権利を尊重することだ。グローバリストはこの点において、民意に背いたり無視したりするきらいがある。嫌がる国民に無理強いしなくても、いずれ人の移動を活発にする政策が支持される時期が来るという信念を持つべきだ。

 最後のふたつの原則は、最も大胆に改革を進めるべきふたつの分野にかかわる。国や地域によりことなる課税制度がパッチワークのように併存しているいまのグローバル経済では、誰よりも豊かな個人や企業が税金を払わないという選択ができてしまう。これは各国が個別に解決できる問題ではない。グローバル化した世界には富裕層が豊かになる手段だけでなく、政府が彼らに応分の負担を求める手段も整備しなければならない。
 
 さらに私たちは、よりフェア(公正)な地政学的秩序を築く必要がある。グローバル国家に、国民国家の内政にいちいち首をつっこむ巨大な政府を置く必要はない。武力を正当に行使する権限だけを、国連に集約すればいい。フェアな世界を実現するためには、紛争発生時にどのタイミングで介入するかといった国際社会にとって最も重要な意思決定を、できるだけ多くの国が参加するかたちで下すようにすることが必要だ。

 いずれも各国の政府がすぐに実施できることではない。フェアで協力的な世界を求める社会運動が世界中の人々の心をとらえるまで、改革に向けた政治的意思は生まれないだろう。一度の選挙期間どころか、一世代では終わらない取り組みになる。
 
 国家建設の試みが成功するまでには、通常一〇〇年はかかる。失敗に終わるケースも多い。成功の保証はないが、振り子が国際協調の方向へ戻ってくるのか、それとも怒れるポピュリストの方向へ振り切れてしまうのか。
 決めるのは私たちの選択である。

(翻訳:土方奈美)

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【目次】
日本の読者のみなさんへ
Introduction グローバリズムをアップデートせよ
第1章 グローバリストとナショナリスト
第2章 誰も排除しない──第1の原則
第3章 ミッションを定め、敵を見きわめる──第2の原則
第4章 国民国家を守る──第3の原則
第5章 移民の自由化にはこだわらない──第4の原則
第6章 勝者のタダ乗りを許さない──第5の原則
第7章 システムを支えるルールを公平に──第6の原則
第8章 フューチャー・ネーションへ
謝辞
訳者あとがき