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負債と設備投資、生産体制の転換と3Dプリンタ

いわゆる良品廉価を実現するためには莫大な設備投資が必要になる。これは先行投資になるため、借入金が必要となる。そこで負債が発生する。

生産は消費に先行する。負債としての貨幣は交換手段としての貨幣に先行する。貨幣とは負債である。

負債は銀行で準備預金をもとに信用創造される。この信用創造は、かつては1オンスの金を35ドルで交換することによって担保されていた。ところが、ニクソンショックによってこの担保が外されて、貨幣は兌換紙幣から不換紙幣となった。

ここで貨幣は完全に負債となって信用が膨張して、世界経済は成長を遂げるようになったが、金融経済の規模が実体経済の規模を上回るようになり、2008年の世界金融危機(いわゆるリーマン・ショック)によって、そのバブルは崩壊した。ここまでの経緯は先日書評した『世界牛魔人』が詳しい。

しかし、その傷跡を乗り越えたのは2010年代における世界各国のさらなる量的緩和政策(QE)によって経済を動かしていることによる。下記のマネタリーベースの資料を見ると、2010年代に世界で信用創造が大いに進んだことが理解できる。

さらに、コロナ禍からの復旧は、各国政府が大規模な国債を発行したことによって財政出動が行われた。世界で1460兆円に達したとのことである。

金融経済が、実需からかけ離れた生産を駆動するのはこういった背景がある。

卑近な話になるが、百均ショップはゴミで溢れていて環境破壊にしかならないと言う人がいる。確かにそうかもしれないが、先行投資した射出成形機やプレス機を遊ばせておくには行かないのである。設備投資を回収(=負債を返済)しないといけないからである。

しかし、その一方で射出成形機はゴミを成形すると同時に、ワクチン接種の注射器も成形することもできる。ワクチン接種注射器生産のためだけに射出成形機を新規投資するよりも、百均ショップのゴミを成形した既存の射出成形機を流用する方が単価を安くして生産可能で、人々への福利厚生は大きくなる。

上掲記事のように注射器を成形するために金型の開発が進んでいるが、その金型を既存の射出成形機に設置すれば生産ができるわけである。

禍福は糾える縄の如しで、ハイデガーがゲシュテルと批判するような、負債によって駆動された生産体制は人々を幸福にしてきた面もあるのだ。

確かに、負債によって駆動されたされた経済は、実需をはるかに上回る大量生産をしてしまい、それが確かに地球環境に大いに負荷を与えてしまう。しかし、他方で注射器だけでなく、水道の蛇口やパイプなど良品廉価の生産をして人々に福利厚生を提供してきた一面もあるのだ。

そこで我田引水になってしまうが、生産体制の転換という時とても面白いのが3Dプリンタである。3Dプリンタ単体の品質や価格はピンキリだが、下記のような3Dプリンタでは数万円である。負債は不要な範囲で自宅で製造を始めることができる。

生産体制の転換が叫ばれて、マス・カスタマイゼーションが必要だと言われる。サプライチェーンの崩壊など有事に強靭に対応できるだけでなく、地球環境に与える負荷を減らすこともできるからだ。

そのときに、やはり3Dプリンタは興味深い生産設備なのだ。

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