イデア

"良い音楽のイデア"らしきものは確実に存在している。気の利いたDJがかけるレコードに、音楽好きな人たちが身体を揺らす。身体を揺らすためにはある程度の音楽リテラシーが要求される。フロアを満たす音を"良い音楽"と認識するための基本インプットが必要、という考えだ。

基本インプットは、例えばはっぴいえんどを知ってるとか、ビートルズの音楽性は時期によって変わるとか、その程度で十分だ。それだけでも"良い音楽のイデア"は形成される。

さて、音楽家という生き方において、インプットの量は多いほうがいいに決まってる。これはおそらく間違いない。しかしアウトプットがそこに直結しているかというと甚だ疑問である。インプットをアウトプットするには、アナリーゼの過程を必要とするからだ。この過程を経ることでインプットの際にかかっていたマジカルは消え、代わりに自分の手に力が宿る。アナリーゼの質が高ければその再現性は高くなる。

先にマジカルと書いた事象は、例えば「Wouldn't It Be Nice」のBメロ部分2つ目のコードチェンジで「うわ、最高〜、、、」ってなるあの感覚のことだが、これは極端に単純化した音楽理論で表せばⅥm-Ⅰsusという流れに快感を覚えるということになる。これがアナリーゼだ。魔法が解けてしまった。全然素敵じゃない。

しかし、インプットの量が多くなれば、アナリーゼを経ることなくカテゴライズという方法でアウトプット出来る裏技がある。これがDJの最たるスキルであると考える。つまり、この音楽の流れあれじゃん、みたいな参照によってマジカルを説明することだ。この能力があると、魔法の効果を維持したまま、フロアでマジカルを起こすことが出来る。最高だ。

いや、DJにも悩みがあるだろう。極端に多くなったインプットによって、全ての音楽がカテゴライズされ、現在形の新譜に対して、瞬時に、あああれか、となってしまう。そういう意味で、新しい音楽というものが存在しなくなり、魔法にもかからない。可哀想だ。仲良くしてる音楽家、Noahlewis' Mahlon Taitsの武末さんは、数万枚のレコードを聴いてきた結果、最近は鳥の鳴き声や密教の声明のレコードを聴いてるらしい。いや、それはそれで面白いけれど。

さて、イデアの話です。以前「やりたい音楽なんてないと思ってた」と書きました。

やっと、ついに、辿り着いたかもしれないのです。やりたい音楽に。いやはや1ヶ月かかってしまった。今まで結果に固執してたせいで見失っていたのです。売れなければ意味がないとか、アーティストイメージが大切だとか、洒落臭い言い訳が山積して、手癖が自分のアイデンティティと勘違いしている状況、クライアントワークによって支配された創作衝動、その全てを、何もかもを取り払い、純粋に自分と対峙して作曲すればいいのです。この時に最も大切にしたい指標が"良い音楽のイデア"です。自分の作る音楽がそのイデアに近づいているのか、嘘偽りなく判断していかなければならない。届いていなければ、インプット〜アナリーゼを繰り返すだけである。

"良い音楽のイデア"について、たくさんの形があるかと思います、が、僕が好きなラヴェル、ビーチボーイズ、ジョビン、YMO、ステレオラブ、挙げればキリがないんですけど、通底するものが、確実にある。イデアを言い表すことが出来ないのがもどかしいけど、好きな音楽の羅列に自分を加えて恥ずかしくないように。

<今日の音楽 坂本龍一 - ゴリラがバナナをくれる日>


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