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齋藤美卯さん・金珉華さん「*」@Art Center Ongoing

ピンク、オレンジ、白、緑、黄の粒がひとつずつ、輪郭を内側からなぞるように埋め込まれた “石” が、1階のカフェから、2階にあがる階段の3段目に置かれていて、見上げると、その石から縄 (紙縒りのような紐が幾重にも編まれたもので、染められた緑が濃淡を成している) が伸びている。その縄は、数段先で黄色いネット (小人用の縄ばしごみたいな雰囲気) に接がれ、展示空間へ先導するかのように走っている。
さらに上がると、階段の手すりには、その縄から分裂したかのような ”蛇”  (後で確認すると、まさに《snake - a》という、齋藤美卯さんの作品だった) が這い上っていて、その木製の身体は緑だけでなく、染み入るような黄・紺・橙で彩られている。
すぐ奥の柱からは、同じく齋藤さんの《すべてはあなたがきめていい (例えばその火をいくつ点けるか)》が、床と平行に生えていて、表面に色彩を施した後、その色ごと ”ささがき” するかのように削り取ったと思しき木の棒からは、ところどころ生々しい木目が覗いて、頭を原色に染めたマッチもまばらに生やしている。

リニューアルして広くなったオンゴーイングの2階には、元の小部屋の輪郭に沿って、柱がいくつも名残を留めている。その内の、最も階段に近い1本の根元には、ビニール袋が幾枚も置かれていて、その透明な皮膜の内側からは、チラシ (安売り広告だったり、何かしらのフリーペーパーの記事だったり…) が見え、その上に、マジックで書いたと思しき言葉が載っている。これは金珉華さんの《アンデンダーー》で、姉妹作と思しき《アンデンダ~》に、レジ袋にドローイングを施した《アンニョンハシンミカ》、タオルやシートがパッチワークされた《ミアナンミダ》と、4種の作品が一堂に会しつつも、あたかもひとつの作品のようになっている。
柱には黄色いテープが巻きついていて、どうやら階段の “石” から伸びた縄が、2階に上がるや否やこの黄色いテープに接がれたようで、そのまま、柱を這い上がり梁を迂回し、屋上へ向かう階段の先で消えている (どこかでまた接がれたらしく、ところどころを薄赤く染められた、白く細い紙縒りみたいなものになっている)。

屋上へ向かう前に、2階をぐるりと見てみる。階段から真っ直ぐ伸びた部屋の角には、緑のネット (黄色い部分があったり、白い “地” の部分が出ていたりしている) のような齋藤さんの《practice (yarn)》が壁面から床へと張り渡されて、傍らに置かれた金さんの作品へと続いている。金さんの《ガラガラピ!》は、床に敷かれた包装紙? の上に、テープや紙切れ、お菓子のケースが散りばめられていて、丸い缶の蓋、セロテープの芯を重ねたさらにその上には、黄緑の身体に青の縞が入った虎のような《くぇんちゃんたぁ》が鎮座している。

その角から、壁掛けの作品を眺めつつ移動すると、齋藤さんの《play tree》が床に置かれていて、傾げつつ立った “幹” からは花びらが生え、根元の青から紫、赤、オレンジそして黄色とグラデーションを成している。どの花びらも一部がくりぬかれていて、黄色い花びらには紫のかけらが、紫の花びらには青のかけらが…、といった具合に、時にぴったり、時になお隙間を残しつつ埋められている。
そうやって、互いのこぼれが、互いのかけらで補われていくことは、縄が継ぎを繰り返しつつ続いていくこと (先述の《snake - a》  も、《play tree》の斜め上の角に配された《snake- b》も、木材が接がれてヘビの身を成している) とも通ずるようだし、金さんが、作品の上に作品を乗せたり、作品同士を寄せ集めたりすることで、個々の “作品”という輪郭をあいまいにしていくこととも繋がっているようで、この「接ぐ」や「寄せ集める」といった言葉が、お二人の展示のキーワード (のひとつ) のように思われる。

一方で、これは、私がお二方の展示を拝見するのがはじめてだったことも大きいと思うけれど、はじめはどれがどなたの作品か、ということがあまり意識されず (作品を一通り見た後にキャプションを確認する癖も影響している)、なんとなく個展を拝見するように見ていたものの、だんだんと “手つき” みたいなものが見て取れるようになってきて、"ひとつ" に見えていたものが少しずつ分化し離れていくことは、先の「接ぐ」や「寄せ集める」と矛盾するようだけれど、元々別のもの同士が出会わないと接いだり寄せ集めたりが起こらないという点で同じことを指しているはずで、それは、金さんがチラシの印字の上に会話や思考の断片を書き付けていくことで、全く別の言葉が、平行線のまま何となく関連を持っていくこと (こういう状態をポリフォニーと呼ぶことができるのだろうか) とも通じている気がする。そしてそれは、クロスワードパズルで、全く関連のない言葉たちが、ある文字を共有することの連鎖を通して、一堂に会するのと近しいかも知れない。

屋上まで続いた縄は、金さんの《アンデンダ~~~》を菜園の柵に結び付けていて、4連パックのお菓子みたく一枚ずつ封入されたドローイング片は、黄砂の名残と共に吹かれていた。


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