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中立であるということ 赤十字の哲学

 バングラデシュから帰国して約3週間となりました。(バングラデシュでの経験はこちら)すっかり花粉症と暴飲暴食による激太り悩まされています。

 さて、先日教授と話をしていた際にふと話題に上がった「赤十字」の仕事が気になり、早速大学の図書館で一冊借りました。小池政行氏の『「赤十字」とは何か 人道と政治』(2010年)という本でした。赤十字と検索するといくつか本がヒットしましたが、その中でも組織や思想に対する賛否両論を冷静に書かれていることからまず最初の一冊として選ぶことにしました。
 この本を読み、興味が沸いたワードがありましたので深掘りしてみたいと思います。

赤十字とは

 存在は知っていた赤十字ですが、組織の全体像や性質について初めて学んだことばかりでしたので、一度まとめさせてください。
 まず赤十字には大きく3つの組織が存在します。一つ目が「赤十字国際委員会 (ICRC)」。こちらは「戦場において敵味方の差別なく負傷兵を救護するという原型から、国家システムが崩壊している(しつつある)地域の武力紛争、またその崩壊の結果、極端な貧困や飢餓、部族間の対立から逃げ惑う女性、子どもを多く含む戦争避難民の保護、宗教と歴史そして憎悪が複雑に絡み合う紛争地域での人道救護活動」(小池、2010)が任務であり、主に戦争(紛争)地における人命救助及び最低限の生活の保障を目的に活動している組織です。もう一つが「国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)」です。こちらは自然災害発生時における人命救助及び最低限の生活の保障を目的とする組織です。最後が世界186カ国に設置されている各国赤十字(日本であれば日本赤十字社)です。とりわけICRCは最古の人道支援機関であり、ICRCの人道支援活動資金は約1832億円、IFRCは406億円(2017年)と国連機関には及ばないものの、人道支援機関の中でも大規模な部類に入ります。その中で、今回はICRCの活動と思想について言及します。

中立、公平の原則

 赤十字には中立、公平の原則が存在します。つまり「どちらかの軍または勢力に加担することなく(中立)、敵味方の差別無く負傷兵及び一般市民の救護活動にあたる(公平)」(小池、2010)というものです。常にこの原則に忠実であるからこそ、激戦地においても赤十字の標章が掲げられている施設には攻撃が加えられず、スタッフは現場に留まり活動を展開することが可能です。実際、施設を警護する警備員も非武装とのことで、彼らの赤十字という標章に対する信頼とそれを背負っている覚悟が伝わってきます。
 しかし、この中立と公平にはもどかしい部分も存在します。それは、いかなる戦争犯罪や非人道的行為を目撃したとしてもそれを咎めたり目撃者として証言することができない、というものです。中立公平の信頼が現場の活動を保障している以上、上記のような行動は中立の原則を崩し、自らを危険にさらす行為と言えます。もちろん批判も存在します。その中で分派した団体(MSF)も存在します。
 その問いに対して、私はこのように考えました。①中立公平の原則を遵守してICRCにしかできない活動を続ける。②棲み分けをしているのであれば、適切な他団体と協力方法が重要ではないか。

①中立公平の原則を遵守してICRCにしかできない活動を続ける

 例えば 「開発」と一言で表しても、実際の活動は団体ごとに千差万別です。フィールドも、アプローチも、そして支援対象もまたしかりです。どうしても一番困っている人々のところへ、と考えてしまいがちですが、実際全ての組織が最下層に支援を実施している訳ではありません。例えば流行となってきているソーシャルビジネスやBOPビジネスなども同じであると言えます。つまり、マイナスをゼロに戻そうとする場所で働く団体もあれば、1を10に持ち上げようと汗を流す人もいるということです。もちろん資本主義の世界ですので、中には100を1万、10万にして富を搾り取ろうとしている人もいるかとは思います。しかし各個人、各団体でそれぞれのアプローチと支援対象があることは当たり前です。その中でICRCは、他の誰もが真似できない着実な仕事を1世紀以上にわたって積み上げてきました。もしICRCが現場に入れなくなってしまったらどれだけの命が危機に立たされるのか、想像もつきません。だからその強固な足場をもとに、今後も同じスタンスで堅実なアプローチを続けていくことがプロフェッショナルなのではと私は考えています。ただ、これは全く変化の必要はないと言いたいのではありません。資金繰り、非国家主体の台頭による赤十字施設を対象とした攻撃の増加、国際社会の協力を集めるために変化しなければいけない部分も生じてくるかとは思いますが、哲学としてICRCの意義がここにあると感じています。

 
②適切な他団体との協力

 他団体(国家含め)との距離間は繊細なバランス感覚が求められるのではと推測します。例えば活動資金拠出国との関係、軍、現地政府、現地武装勢力、他人道支援団体などとの役割分担などどこまでを中立公平として定義するのかにもよりますが、どこともつかず離れずの関係を維持する必要があります。ここでの失敗は自らの安全保障に大きなリスクを伴います。その中で支援地域の復興、開発という目的から他支援団体と連携すると考えた場合は、以下のような間接的な協力となるのではないでしょうか。戦場(紛争地)において活動を展開できる数少ない団体の一つとして、現場における確かで複眼的な情報収集と発信、ICRCの活動を通し外国の人道支援団体に対する地域住民の信頼獲得、またはソフト、ハード両面のインフラ整備、緊急支援フェーズ終了後の復興・開発を視野に入れた長期的な支援内容を盛り込むことです。

 現在国連機関を始め、多くの国内NGOは資金集めに頭を悩ませていると言います。その中で赤十字は堅実な活動による信頼を得て発展してきました。 今後変化が求められる日が来るかもしれませんが、本当に支援が必要な人に支援を届けるために選び抜いてきたこの姿勢を私はプロフェッショナルであると感じますし、そこで働く方に尊敬と憧れの念を持ちます。まだまだ勉強不足の私ですが、今後もより赤十字社の活動について、人道支援そのものについて考えを深めていきたいと思います。





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