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RM "Lonely" 孤独なエトランゼ 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.119

俺は今猛烈に孤独でいる
独りで無人島にいるから
どうしようもなく孤独だ
誰か 俺を探してくれよ


Lonely



俺は今猛烈に孤独でいる
独りで無人島にいるから
どうしようもなく孤独だ
誰か 俺を探してくれよ

刹那は永遠の中に
スッと擦り込まれている
嫌いだ このホテルの部屋
あゝ 独りで浮いている
うるさい警笛クラクションの音
部屋の幅 がせばまった分
俺は俺に閉じ込められた

嫌になる程 繰り返し
君を手放そうと試みた
目の前に思い出があり過ぎる
そして今、
馴染めぬこの街が憎い
家に帰りたい ただそれだけ

俺は今猛烈に孤独でいる
独りで無人島にいるから
どうしようもなく孤独だ
誰か 俺を探してくれよ

あゝ 愛し君
君に 打ち明けなくては
俺は 全てが嫌になった
そうだな
俺は酔っているんだろう
時は狂ったように刻まれ、
俺は急かされるまま進む
一日中YouTubeとNetflix
またひたすらに
電話の中のデータとデート
毎日朝とのランデブー待ち合わせ
あかく廻っている
俺のムーラン・ルージュ

君に俺を理解させる為
飽く程挑んだ無理難題
幾多の取るに足らない案件が山積みだ
そして今見知らぬこの建物が憎らしい
俺はこの状況を理解さえしない
家に帰りたい ただそれだけ

俺は今猛烈に孤独でいる
独りで無人島にいるから
どうしようもなく孤独だ
誰か 俺を探してくれよ

俺は今猛烈に孤独でいる
独りで無人島にいるから
どうしようもなく孤独だ
誰か 俺を愛してくれよ



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6183189

「Lonely」
作曲・作詞:RM , Pdogg


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今回は2022年12月にリリースされたRMのソロ・アルバム「Indigo」収録曲 "Lonely" を意訳・考察していきます。

この楽曲は長年の信頼関係にあるPdogg PDとのco-writeとなっています。
打開できない状況で強制的に孤独に過ごさなくてはならないことに対する憤りをぶつけた楽曲を、一度は作っておかなくてはならないと感じていたナムさん。
まだまだコロナ禍がエンタメに色濃く影響を与えていた2022年、「BTS PERMISSION TO DANCE ON STAGE - LAS VEGAS」公演のためにラスベガスを訪れていた際にも感じていたそれらの想いを曲にしたいとPdogg PDに打ち明けたことで、具体的な楽曲制作の運びとなったと両者がビハインドで振り返っています。↓

互いの経験を元に打ち出されたこの楽曲は、感情を率直に表現することでシンプルな造りになっているという旨の分析をナムさんがしています。ジーンズで言うデニム生地そのもののようである、とナムさんが表現している通り、加工を施す前の素の表情が込められていると言って良いのではと思います。




1.今ここにある孤独

冒頭で確認した通り、この楽曲は「ありのままの孤独感」が明け透けにぶつけられているものになっています。

I'm f***in' lonely
(俺は無茶苦茶孤独だ)

나 혼자 섬에
(俺はひとりで島に)

So f***in' lonely
(だからクソ程孤独だ)

Somebody call me
(誰か俺を呼んでくれ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183189

孤独を感じている人は自分だけではないことはもちろんわかっている上、自らの孤独を二の次にして誰かの孤独を癒さなければならないという使命を感じているだけに、容易にその本心を語ることができないという状況がさらなる孤独を生んでいく。

ぶっちゃけられたこれらの叫びは、"Whalien 52" で打ち明けられた深い孤独とも重なります。

寂しく孤独なクジラ
こうして独り歌うさ
孤島みたいな俺でも
明るく光る事ができるだろうか
ー"Whalien 52" 和訳考察note記事より抜粋

https://note.com/nozomiari/n/n8f624d4f69e2


찰나는 영원 속에
(刹那は永遠の中に)
슥 담겨져 있어
(スッと刷り込まれている)
싫어 이 hotel room
(嫌いだ このホテルの部屋)
에 혼자 떠있어
(ああ 独り浮いている)
시끄러운 경적소리
(うるさい警笛の音)
좁아진 방의 너비만큼
(狭くなった部屋の幅の分だけ)
나 내게 갇혔어
(俺は俺に閉じ込められた)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183189

永遠に続くと思っていた順調な時間の隙をついて刷り込まれた、全てが止まった孤独の瞬間。
馴染みのない街の見知らぬ部屋に独りでいると、窓の外から聞こえてくるクラクションが気になって仕方がない。
閉じ込められた空間では話し相手も自分だけ。
己の考えは己のみで片付けるしかない。

公演の為に海外に滞在しているというのに、そのモチベーションをあげるために必要なやりとりすら対面で思うようにできない状況があったことがうかがわれます。
公演を成功させるため、万が一の感染拡大を防ぐため、あらゆる接触の可能性を断つことを余儀なくされていたと思われますが、精神的にかなり厳しい環境であったのではないかと思います。


I tried a million times to let you go ※1
(俺は数えきれない程君を手離そうと試みた)
So many memories are on the floor
(とてもたくさんの思い出がこの床の上にある)
And now I hate the cities I don't belong ※2
(そして今俺は馴染めないこの街が嫌だ)
Just wanna go back home
(ただ家に帰りたい)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183189

※1 a million times…数えきれない程(参考
※2 not belong…孤立している、浮いている、よそ者である(参考

ここで '君' と称されているものは何なのか。
次の行に「思い出がありすぎる」とあることを踏まえて考えると、'君' はメンバーでありスタッフでありARMYであるかもしれません。
共に舞台を作り上げてきた仲間たちとの美しい記憶を思い出す程に孤独な現状と比較してしまうから、何度も手放そうとしたけどうまくいかない。
そして更に、あれだけ焦がれていた公演をするためにやって来た街にすら嫌悪を抱き、一刻も早く自宅に帰りたいとまで思ってしまう。

ラスベガスと言えば当時公演期間中、市街を紫に染める大掛かりな企画があったと記憶しています。

周りの景色が華やかであればある程、自らの内なる孤独との間に距離を感じてしまう可能性もあったのではないかとも思います。


2.空回りするショー・ビジネス

立場上本心に蓋をし続けてきた彼が、信頼できる「bae(=baby 愛しい人)」にあらためて打ち明ける気持ち。
それは「全てが嫌になった」でした。

Oh bae, I gotta tell you some
(ああ 愛しい人、俺は君に言わなければならない)
나 모든 게 싫어졌어
(俺は全てが嫌になった)
Uh yeah, guess I'm wasted ※3
(うん、そうだな 俺はひどく酔っている)
Time f***in' ticks and I hasten ※4
(時が狂ったように刻まれるにつれ俺は急ぐ)
온종일 YouTube & Netflix
(一日中YouTubeとNetflix)
그저 또 폰 속 데이터와 datin'
(ひたすらまた電話の中のデータとデート)
매일 아침과의 랑데부
(毎日朝とのランデブー(=待ち合わせ))
빨갛게 돌아가는 나의 물랑루즈
(赤く回っている俺のムーラン・ルージュ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183189

※3 be wasted…へべれけに酔う(参加

孤独を打ち消すために泥酔することもあれば、何があっても刻み続ける時に急かされるがまま一日中ネットで動画を試聴したり、携帯電話をいじったり…結局まんじりともせず夜明けを迎える毎日。
はっきり言って、誰かの希望になるような生活習慣ではありません。光を見失い堕落してしまった現実を、ここで明らかにしているのです。

そして、突如登場する「ムーラン・ルージュ」。
ムーラン・ルージュは映画やミュージカルの舞台にもなった、フレンチ・カンカンで有名なパリに実在する老舗キャバレーです。
名前(Moulin=風車、Rouge=赤)そのままの赤い風車が目印で、ショービジネス発祥の地としても名高い華やかな世界の象徴です。

歌詞の中で「빨갛게 돌아가는(赤く回っている)」とあるのは、この赤い風車を指しているものと思われます。

このムーラン・ルージュの存在に私が出会ったのは中学生の頃、ひとりの画家を知った時でした。
その名はアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック
彼はオープン間もないムーラン・ルージュの特大広告を手掛けたことで当時一躍有名になりました。

Moulin Rouge: La Goulue

"Moulin Rouge: La Goulue" (1891)
Lithograph
Henri de Toulouse-Lautrec

ロートレックはフランスの名門貴族出身ですが、幼少期より身体的なハンディキャップに起因するコンプレックスと共に生き、晩年はアルコールで身体を壊し37年の短い生涯を終えます。
キャバレーという華やかな世界に惹かれながらもモチーフとして選んだのは主にその舞台裏、ステージの外の世界であり、本来客であれば見ることのないであろうダンサーの表情やしぐさを捉えた作品を残しました。

The Seated Clowness (Mademoiselle Cha-u-ka-o), from "Elles"
(1896) Crayon, brush and spatter lithograph
with scraper printed in five colors on wove paper with watermark
Henri de Toulouse-Lautrec

今回、孤独をテーマにしたこの歌詞でムーラン・ルージュを登場させるに至った経緯にはこのロートレックの存在がどこかで寄与したのではないか?と直感的に思わずにはいられませんでした。伝えられているロートレックのそこはかとなく鬱々とした人生と一致するその筆致・色彩には、目の前の現実を純粋に楽しめないという疎外感がにじみ出ています。その感情に「孤独」と名前を付けるのは容易です。

At the Moulin Rouge
"At the Moulin Rouge" (1892-95)
Oil on canvas シカゴ美術館蔵
Henri de Toulouse-Lautrec
※ムーラン・ルージュの店内を描いたこの一枚には、
ロートレック本人の姿も描かれている。(中央奥の背が低い男性)

(余談ですが上記で紹介した絵を所蔵するシカゴ美術館は、ナムさんがアートに興味を持つきっかけとなった美術館です(出典))

また、ステージの外の世界を描いたロートレックの視点に、ナムさん自身が等身大の自分を歌詞に書く観点との親和性も感じます。
舞台に上がるために作り上げるもう一人の自分。その舞台に立ち続けるための努力と、そこに立てなくなる日がいずれ必ずやって来ることへの不安。
ロートレックが描き出したダンサーたちの機微が、同じくショーの世界に生きるナムさんの感情に呼応しているように私は感じました。

くるくると回り続ける風車はおそらく「空回り」の比喩でもあり、「ムーラン・ルージュが空回りする」→「ショービジネスが空回りする」というコロナ禍のエンタメ界を襲った絶望を表現すると共に、自らの孤独をも投影している。そんな1行なのではないかと思いました。


3.星を射る

歌詞は終盤突如として「to let you know(君にわからせるために)」「I shot a million stars(俺は数えきれない程たくさんの星を撃った)」という少し謎めいた展開を見せます。

I shot a million stars to let you know
(俺は君にわからせるために数え切れない程の星を撃った)
So many trivial thoughts are on the floor
(とても多くの些細な考えがこの床の上にある)
And now I hate the buildings
(そして今俺はこの建物が嫌いだ)
I don't even know
(俺はわかりもしない)
Just wanna go back home
(ただ家に帰りたいだけ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183189

shot【過去形】の原形shootには「撮影する」の意もあり、直訳に文脈を与えるためにそのように和訳している記事もお見かけしますが、私はこれを「撃つ」と訳します。

この一文の解釈には、
shoot for the stars(=高望みをする)」
というイディオムが深く関わっていると思われます。

「shoot for ~…目標に向かって努力する(参考)」という表現が、現実には撃ち落とせない獲物=星を相手にしているという比喩を伴って「高望みをする」と訳されることを踏まえると、

I shot a million stars to let you know=誰も到達できると信じていなかった身の丈以上の目標を達成し、己の力を周りに認めさせる●●●ため、数えきれない程幾度も無理な挑戦を試みた。

…と考えることができるのではと思います。

多くの人の心に自分の音楽を届ける為にこれまで自分が歩んできた来し方を思えば、はっきり言うと音楽以外の問題は全て些末事。
それでも今は健康維持、ソーシャルディスタンス、その他諸々…考えなければならない「音楽以外のこと」が目の前に山積みだ。
狭い部屋、見知らぬ建物で、それらについて考えなくてはならない状況が一向に解せない。
こんなことなら早く家に帰りたい。ただ、それだけなんだ。




そして楽曲は、孤独という大海に浮かぶ無人島から愛を乞うひと言で締めくくられます。

Somebody love me
(誰か俺を愛してくれ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183189

精神的負担が最も重かった頃の「今ここにある孤独」が、状況が改善され時を経て「あの時そこにあった孤独」になる。
真新しいデニム生地であってもいずれ肌になじむように、圧倒的に孤独だった日々も生き続ければいずれ人生の一部となる。
それらの予感、確信が、「一度は作っておかなくてはならない」と感じた生々しい孤独の歌を世に出すモチベーションの一部となっていたのではないかと思います。




今回も、最後までお付き合いくださりありがとうございました。
🏝