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BTS "I'm Fine"と"Save ME" 表裏一体を再考察 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.008

もしかしたら
君にも見えてるかな?
この 裏寂しい月影が
君にも聞こえてるかな?
この 微かに響く木霊が

I'm Fine


眩い青空の下 僕はそっと目を開けるよ
たっぷり降り注ぐ陽射しに眩暈を起こし
限界まで息は上がり、胸躍る

感じて 難しく考えずに
僕が生きているという事を


大丈夫だよ「僕ら」でなくても
悲しみが僕を打ち消しても

黒い雲がまた立ち込めて
終わりのない夢の中でも

どうしようもなくめちゃくちゃになって
翼までもが破れてしまって
いつしか、僕が僕でなくなったとしても

大丈夫だよまだ
僕だけが僕の救いじゃないか
覚束ない足取りで絶対死なずに生きるよ

君はどうしてる?僕は大丈夫さ
僕の空は澄み渡っている
痛み、苦しみ みんなまとめてサヨウナラ
じゃあね。


冷え切った僕の心臓は
君を呼ぶ方法を忘れてしまっても
寂しくないもん 大丈夫、大丈夫
真っ暗な夜の闇は
夢の中で僕を弄ぶけど
怖くないもん 大丈夫、大丈夫

「きっと大丈夫さ」
今は君の手を離すよ
僕の全部は僕だ 僕のものなんだ
だから 僕は大丈夫なんだよ

「きっと大丈夫さ」
もうこれ以上悲しくないでしょ?
陽の光を見ることができたから
だから僕は 大丈夫、なんだよ


僕は全然大丈夫
全ての痛みに打ち勝てるよ
君がいなくたって

僕は全然大丈夫
心配しないで
今はもう笑えてるし、
君の声は僕を全部わかってくれるから

僕は元気 君も元気
悲しみも傷跡も ひとつ残らず
とっくに終わった事にできたから
笑顔で送り出そう
「僕ら」は大丈夫

僕は元気 君も元気
僕らの未来は喜びに満ち溢れている
そう だから気掛かりはしまい込んだまま
今はただ楽しんで お疲れ様
「僕ら」は大丈夫


冷え切った僕の心臓は
君を呼ぶ方法を忘れてしまっても
寂しくないもん 大丈夫、大丈夫
真っ暗な夜の闇は
夢の中で僕を弄ぶけど
怖くないもん 大丈夫、大丈夫

「きっと大丈夫さ」
今は君の手を離すよ
僕の全部は僕だ 僕のものなんだ
だから 僕は大丈夫なんだよ

「きっと大丈夫さ」
もうこれ以上悲しくないでしょ?
陽の光を見ることができたから
だから僕は 大丈夫、なんだよ


もしかしたら
君にも見えてるかな?
この 裏寂しい月影が
君にも聞こえてるかな?
この 微かに響く木霊が


「きっと大丈夫」
ひとりででも叫んでみよう
繰り返されるこの悪夢に呪文をかけるよ

「きっと大丈夫」
何度だってやってみるよ
また再び倒れたって 僕は大丈夫

「きっと大丈夫」
ひとりででも叫んでみよう
繰り返されるこの悪夢に呪文をかけるよ

「きっと大丈夫」
何度だってやってみるよ
また再び倒れたって
僕は大丈夫

僕は大丈夫
僕は大丈夫、なんだよ


韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/31203511

『I'm Fine』
作曲・作詞:Pdogg , Ray Michael Djan , Ashton Foster , Lauren Dyson , RM , 정바비 , 윤기타 , Jordan “DJ Swivel” Young , Candace Nicole Sosa , SUGA , j-hope , Samantha Harper


*******


"I'm Fine" はBTSの4枚目のリパッケージアルバム『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』に収録されている楽曲です。

この約1か月半、8年分の彼らの音源を手あたり次第に聴き漁っていた私。
MVを観て惚れた "Save ME" の歌詞を翻訳しているうちに "Inner Child" との繋がりを妄想し、勢いのまま2件に渡って考察記事を書いた(前編後編)のですが、公式アンサーソングはこの曲だ、という情報を遅ればせながらキャッチできたので早速翻訳してみました。
※考察中の和訳は直訳

すると訳しているそばから、私は泣きそうになるを堪えなくてはなりませんでした。
これはもしかして "Save ME" の「僕」が必死でその手をつかもうとしていた「僕の中の僕」=「君」視点の歌詞なのでは?と気付いたからです。

ここでこの曲が 'Save ME' のアンサーソングと言われる所以でもある『LOVE YOURSELF』シリーズの告知ポスターの中の1枚を。

このひと癖ある手書き風の文字。いわゆるAmbigram(アンビグラム)の一種で、この "Save ME" ⇔ "I'm Fine" の場合は意味合いまでもが反対になるという、気付いた瞬間に鳥肌が立つやつ。大好物です。
 "Save ME" の発表から "I'm Fine" の発表まで約2年が経っていることもあり、ARMYに助けを求めていた彼らがその後成長して強くなり「もう大丈夫だよ」と言っている曲、というのが通説のようですね。

ですが私は「僕の中の僕」=「君」説を推したまま "I'm Fine" の歌詞の考察を進めてみたいと思います。



1.「その後」ではなく「その時」

"Save ME" の「僕」は自分の中にある「インナーチャイルド」に救いを求めている、というのが私の解釈ですが、"I'm Fine" の「僕」はその「インナーチャイルド」の部分そのものであると考えます。ネガティブな経験が原因である時代をもって時が止まり、深い部分に置き去りになった自分自身の事です。

アンビグラムが表しているタイトル同士の関係性(Mirror ではなく Rotational 180°、つまり、角度が変わると意味合いも変わる)や、"I'm Fine" を逆再生すると聞こえてくる "Save ME" のイントロ、歌詞全体に散らばる「同じシチュエーションでありながらも別視点であることがうかがえる表現」などから、2曲それぞれの「僕」はふたつでひとつ、表裏一体、相互関係であり、双方に時間と空間の差異はなく、同時間軸の感情が描かれているのではないかと私は思いました。

それでは、具体的にどの辺りが「同じシチュエーションでありながらも別視点であることがうかがえる表現」であるのかを検証してみようと思います。

まず、同意義の単語が出てくる箇所の例を挙げてみます。
(以下S→Save ME、F→I'm Fine)

A : 晴れた空
S…널 생각하면 날 개어서(君を思えば(その日は)晴れて)
F…시리도록 푸른 하늘(眩しい程の青空)

B : 目覚めの時
S…날 깨워줘서(僕を起こしてくれて)
F…눈 떠(目を開ける)

C : 息を吹き返し起き上がる
S…답답하던 날 깨줘서(息苦しかった僕を起こしてくれて)
F…한껏 숨이 차오르고 심장은 뛰어(目一杯息が上がって心臓は跳ね上がる)

D : (精神的に)ボロボロな様子
S…꼬깃하던(しわくちゃだった)
F…한없이 구겨지고(限りなくしわくちゃになって)

E : 翼について
S…내게 날갤 줘서(僕に翼をくれて)
F…날개는 찢겨지고(翼は破れて)

F : 唯一の救い
S…너란 구원이~유일한 손길(君という救いが~唯一の手)
F…나만이 나의 구원이잖아(僕だけが僕の救いじゃないか)

G : 真っ暗
S…왜 이리 깜깜한 건지(なぜこんなに真っ暗なのか)
F…깜깜한 밤 어둠은(真っ暗な夜の闇は)

H : 「僕ら」について
S…'우리'가 돼 줘서(「僕ら」になってくれて)
F…우리가 아니어도(僕らでなくても)

I : 僕が僕であることについて
S…내가 나이게 해줘서(僕が僕であるようにしてくれて)
F…내가 내가 아니게 된달지어도(僕が僕でないようになったとしても)

などなど。
ここで注目したいのは、同じ状況のようであって正反対の結果を示している箇所がいくつかあること。例で言う「H」と「I」あたりです。
他にも、

널 부르는 법을 잊었지만
(君を呼ぶ方法を忘れてしまっても)

https://music.bugs.co.kr/track/31203511

이젠 너의 손을 놓을게
(今は君の手を離すよ)

https://music.bugs.co.kr/track/31203511

내 아픔 다 이겨낼 수 있어 너 없이 나
(僕の痛み全てに打ち勝つことができるよ 君無しで 僕は)

https://music.bugs.co.kr/track/31203511

といったように、突き放すような表現が並びます。
どういうことだろう、と、ちょっと混乱しました。やっぱりこれは "Save ME" の「その後」の話なのかな、と、一瞬ブレかけました。

では、"Save ME" で救われたはずの「僕たち」に、一体何が起こっていたのか。


2.アンビグラムが示すもの

ここからは、"I'm Fine" は "Save ME" の後日譚では無いのでは?と感じた理由を挙げていきたいと思います。

■繰り返される「괜찮아」は自分自身に言い聞かせる「呪文」

この曲では「괜찮아」「I'm fine」が幾度も繰り返されています。
「大丈夫だよ」という意味なのですが、この言葉は「되풀이될 이 악몽(繰り返される悪夢)」にかける「주문(呪文)」という位置づけになっています。
そしてこの悪夢は「깜깜한(真っ暗)で끝없는 꿈(終わりのない夢)」の事だと思われます。

この悪夢は "Save ME" で「僕」が見ている夢とほぼ同じものと考えて良いと思いますが、"Save ME" の「僕」が悪夢から救いを求めて叫び手を伸ばし積極的に「君」に対して「救って」とアプローチしているのに対し、"I'm Fine" の「僕」は、

차가운 내 심장은 널 부르는 법을 잊었지만
(冷たい僕の心臓が君を呼ぶ方法を忘れてしまっても)
외롭지 않은 걸(寂しくないもん)
깜깜한 밤 어둠은 잠든 꿈을 흔들어 놓지만
(真っ暗な夜の闇が寝入った夢を揺さぶり弄ぶけど)
두렵지 않은 걸(怖くないもん)

https://music.bugs.co.kr/track/31203511

というように、敢えて「君」と距離を置くような感情を抱いています。
冷え切った心とは、苦しみの最中で打つ手立てがなく、諦め切ったような心を指しているのではないでしょうか。
そんな冷めた気持ちで呪文のように繰り返す「괜찮아」というフレーズが、辛いのに辛いと周りに訴えられない状況にある者が思わず口に出してしまう「大丈夫」にしか聞こえなくなってきました。

私にもあるんです、この「大丈夫」を言わざるを得なかった経験が。
中学の時、所属していた部活内で完全に居ない者扱いをされていた事があり、さすがに何かおかしいと思ったのか、顧問が私一人を呼び出して事情を聞き出そうとしました。
私はただ「大丈夫」と言った事を良く覚えています。なぜそう言ったのかはうまく説明できません。
結局、引退までの残りの年月を独りで耐えました。

率直に「助けて」と声を上げられない "I'm Fine" の「僕」。
「괜찮아」は決して本心の声とは限らないと私は思います。

それでも "Save ME" の「僕」の「助けて」という声は届いているようで、自分が唯一の救いであるという事も理解しています。

ただ、"Save ME" の「僕」が「君」を理解し共に「僕たち」になる事で未来が拓けると考えているのに対して、"I'm Fine" の「僕」は苦痛そのものである自分の存在がいずれは消えて空ろになることによって「君」が救われると信じているように思えます。

「내 하늘은 맑아(僕の空は澄んでいる)」という表現も、おぼつかなくても絶対死なないなんて言っちゃうところも、全部強がりに聞こえてきますし、「이젠 즐겨 수고했어(今は楽しんで お疲れ様)」という言葉にも、なんだか半分諦めというか、「僕の事はもうほっといていいから楽しんでいいよ?今まで気に掛けてくれてありがと」みたいなニュアンスを感じます。

唯一の救いは「네 목소린 모두 알아 주니까(君の声は全部わかってくれるから)」と唯一「君」だけに全幅の信頼を置いているというところです。
だからこそ、自分の存在を消していいと思ってまで「君」の幸せを願えるのかもしれません。


■同じ月を見ていた

もしかしたら、と前置きして "I'm Fine" の「僕」は「君」に問い掛けます。

너에게도 보일까 이 스산한 달빛이
(君にも見えるかな?この裏寂しい月の光が)
너에게도 들릴까 이 희미한 메아리가
(君にも聞こえるかな?この微かな木霊が)

https://music.bugs.co.kr/track/31203511

この月は "Save ME" で狂気の象徴として登場した「月」の事で間違いないでしょう。
そして微かに行き交う木霊は、"I'm Fine" の「僕」が唱えている「呪文」なのではないかと。

"Save ME" の「僕」が辛うじて聞き取り「もっと高めてくれ、君の声を」と懇願していたのが、"I'm Fine" の「僕」が必死に唱えていた「괜찮아」だったとしたら、辻褄が合うのではないでしょうか。

助けて」という言葉は、発した側にとっては「共に在りたい」と願う気持ちの現れであったが、受ける側には離れていくことを決意させた。

大丈夫」という言葉は、発した側の強がりであったが、受ける側には励ましの言葉に聞こえていた。

正に、ふたつでひとつ、表裏一体、相互関係であり、角度が変わると意味合いも変わるというあのアンビグラムの通りの関係性が浮かび上がってきたのです。

私は確信しました。
この曲は、この曲たちは、
「僕」と「僕の中の僕」=「君」の歌なのだと。


3.絶望からの脱出法

ナムさんは国連スピーチで『INTRO : O!RUL8,2?』の「9歳か10歳のとき 僕の心臓は止まった」という歌詞を引用しています。そのぐらいの頃から自分がどう見られているかを気にし始めた、と。

私はこれにも大共感していて、この年頃を過ぎると、思い通りにならない人間関係に対しての憤りや後悔も自覚できるようになってくるんですよね。

そういう時に「そんな事もあるよ、相手も人間だから。自分だけが正しい訳じゃないんだよ」と自分を大事にする方法を示してくれる大人が傍にいてくれたら良かったのですが、私にはいませんでした。

子育てに無関心な親の元に生まれ落ち、飢えない程度に食べさせてもらい、凍えない程度に衣服と家を与えられ、落ちぶれない程度に教育も受けさせてもらいました。

でも、愛され方を知らないままでいると、愛し方までわからなくなります。
愛し方がわからないと、愛されなくなります。
愛されなくなってしまうと、自分自身が見えなくなります。
自分自身が見えなくなると、自分がそこに居ることすらできなくなります。

私はそうやって、自分が多面体であり、多重構造であり、その他大勢の中のたったひとつに過ぎない事を理解できないまま大人になったのだと思います。
後悔してばかりで自分で自分が嫌いだった思春期を思い返すと、周りから好かれなくなった理由が良くわかります。

親はいるだけで幸せ、とは思います。
でもいるだけでは幸せにはなれないとも思います。


"I'm Fine" の「僕」は、仲間外れにされていても誰かに相談するという発想を持てず、心配される事を知らないので相談する術も持たず、ただただ「大丈夫」と言うしかなかった頃の私でした。

そして "Save ME" の「僕」は、この年になってやっとぼんやりと愛され方がわかってきた今の自分と重なります。


多面体であるという事は、凸もあり凹もあるという事。失敗と成功を繰り返してどの方向から眺めても美しいと思える形になる事。

多重構造であるという事は、過去から現在までの蓄積。積み重ねることを怠らず、その厚みと重みに負けない芯を持つ事。

その他大勢の中のひとつに過ぎないと自覚する事は、自己を過剰に否定も肯定もしないという事。ひとりでいる事を好んでもいいが、ひとりでは生きていけないと知っている事。


見る角度が変われば、自分自身すらも変わる。
変わるものなのだと理解して受け入れてこそ、自分を愛し、誰かを愛する事もできるようになるのだと、今の私でならわかります。

"Save ME" と "I'm Fine"。
この2曲を翻訳する機会に今、恵まれて、本当に良かったと思います。
私の人生にまた一つ花が咲きました。


余談ですが。

私の個人的考察では、"Save ME" と "I'm Fine" で相互に描かれた Love Myself の物語は後日譚であると考える "Inner Child" へと引き継がれていきます。

そこにはちょっとした奇跡が!

先の2曲を "Save ME" → "I'm Fine" の順で聴くと "I'm Fine" のイントロ部分で明らかに "Save ME" の要素が入るので繋がりが強い事が一聴してわかるのですが、"I'm Fine" の後そのまま "Inner Child" に突入してみて下さい。

そうなんです、"I'm Fine" はテテパートで終わるんです。
しかも、憂いを帯びた独り言みたいな「I'm fine」で。
かーらーの、"Inner Child" ですよ。
キラッキラのワクワクするイントロから始まるテテのソロ曲です。
めちゃくちゃエモいです。

これを軌跡と呼んでもいいですよね。


最後まで読んで下さりありがとうございました。

💜