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BTS "00:00(Zero O'clock)" 全部うまくいくよ 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.072

秒針と分針が重なる時
世界はほんの一瞬 息を呑む

00:00(Zero O'clock)


そんな日があるじゃない
何とはなしに 悲しい日
身体は重たくて
自分以外誰もが皆忙しなく、
殺気立って見える日
足が思うように動かないよ
もう手遅れみたいだけどさ
世界の全てが 憎らしいね
あちこちでガタガタするスピードバンプ
気持ちが滅入って、どんどん無口になる
一体なぜ? 僕は一生懸命に走ったのに
ああ 僕になぜ?
家に着いて
ベッドに転がり
考えてみるよ
僕が間違っていたんだろうか?
落ち着かない夜
ふと時計を見ると
間もなく十二時

何かが変わるのかな?
そんなことないだろう
でもこの一日は終わるじゃん
秒針と分針が重なる時
世界はほんの一瞬 息を呑む
00:00

そして 君は幸せになるだろう
そして 君は幸せになるだろう
たった今舞い降りたあの雪のように
息をしようよ
初めて呼吸した時みたいに
そして 君は幸せになるだろう
そして 君は幸せになるだろう
全部 上手くいくよ
全てが新しい 00:00

少しずつリズムがずれていく
何て事ない表情ができなくて
慣れた歌詞をしきりに忘れる
僕の気持ちを表現するものが
何ひとつない
そうさみんな過ぎた事だよ
独り言も本当に容易くない
僕のせい? 僕の間違い?
答えがない自分の木霊だけ
家に着いて
ベッドに転がり
考えてみるよ
僕が間違っていたんだろうか?
落ち着かない夜
ふと時計を見ると
間もなく十二時

何かが変わるのかな?
そんなことないだろう
でもこの一日は終わるじゃん
秒針と分針が重なる時
世界はほんの一瞬 息を呑む
00:00

そして 君は幸せになるだろう
そして 君は幸せになるだろう
たった今舞い降りたあの雪のように
息をしようよ
初めて呼吸した時みたいに
そして 君は幸せになるだろう
そして 君は幸せになるだろう
全部 上手くいくよ
全てが新しい 00:00

手を合わせて
祈るね
明日はもっと
僕のために笑えますように
もっと 僕にとって
良くなりますように
この歌が終われば、
新たな歌が始まるだろう
もっと幸せでありますように

そして 君は幸せになるだろう
そして 君は幸せになるだろう
たった今舞い降りたあの雪のように
息をしようよ
初めて呼吸した時みたいに
そして 君は幸せになるだろう
そして 君は幸せになるだろう
全部 上手くいくよ
全てが新しい 00:00



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/5863191

『00:00(Zero O'clock)』
作曲・作詞:Pdogg , RM , Jessie Lauryn Foutz , Antonina Armato


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今回は、2020年2月にリリースされたフルアルバム第4集「MAP OF THE SOUL : 7」に収録されているタイトル曲 "00:00(Zero O'clock)" を意訳してみました。この楽曲は、ボーカルライン(Jin、Jimin、V、Jung Kook)の4人によるユニット曲です。

リリース以降MOSツアーが中止になったこともあり、オンラインで歌唱されただけだったこちらの楽曲は、2022年10月15日に開催された釜山コンにてARMYの目前で初めて披露されました。スタンドマイクで歌いあげるボーカルラインの姿が印象的な作品です。



1.「Life Goes On」へとつながる道

リリースから二十日余り後、RMによるアルバム「7」レビューがV LIVE(Weverse)で配信されました。↓

※59:41~が "00:00" の話

いつも自分が思っていたことを水が流れるようにそのまま書くことができたので、作詞作業がとてもはかどったという趣旨のことを言っている通り、この楽曲歌詞はナムさんの手によるものです。
楽曲をかけながら「그래도 삶은 계속 된다(それでも人生は続く)…どうせ何があっても人生は続いていく」としみじみ語っています。

時に2020年2月。
世界中が見えない脅威を前にして完全に未来を見失っていたあの時期に図らずも世に出たこの楽曲は、「どんな理不尽なことがあっても、とにかく一日は過ぎて人生は続いていく」というテーマの元に書かれたものだったのでした。

その後予定されていたスケジュールが軒並みキャンセルになっていく中、彼らは "Dynamite" およびアルバム「BE」の制作期間へと入っていくことになります。

今思えば、この「人生は続く」というメッセージを元々持ち合わせていた彼らであったからこそ生まれた "Life Goes On" であり、本来ならば計画されていなかったはずの「BE」という、彼らが、世界が、この状況とどう向き合ったのかを〈記録〉する作品が生まれ出たのではないかと思います。

アルバム「BE」についての考察は "Dynamite" の記事にて↓

ちなみに、ジミンちゃんが "00:00(Zero O'clock)" について「歌詞が好き、自分のことみたいだ」とナムさん自身に直接伝えてくれたのがとても嬉しかったと配信で話しています。また、自分だけの話だったものがこうしてボーカルラインの声によって作品として完成したことにより、ナムさん自身も楽曲を聴いて慰められる、とも。

個人の体験として綴られたものが誰かの共感を得て本人の元に戻ってくる、という幸せな循環がこの楽曲の舞台裏に存在していたことがそのまま、作品自体を優しい雰囲気で包み込んでくれているように思います。


2.たとえ報われなくても

この歌詞の主人公は、ひとつの目的に向かって努力ができる人物です。
ところが、「一生懸命(目的に向かって)走った」のに、行く先々で理不尽な〈妨害〉に遭い、落ち込んで、まんじりともしない夜を迎えます。

곳곳에 덜컥거리는 과속방지턱 ※1
(あちこちでガタガタする加速防止の段差)
맘은 구겨지고 말은 자꾸 없어져
(気持ちは鬱々として、言葉はどんどん無くなって)
도대체 왜 나 열심히 뛰었는데
(一体何故、僕は頑張って走ったのに)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/5863191

※1 과속방지턱=과속(加速)방지(防止)턱(顎)
車を原則させるために作られた道路上の盛り上がった部分。スピードバンプ(ハンプ)。

(この「スピードバンプ」の使い方が本当に適格だなと思っていて…彼らはとにかく「走り続ける」ことでグループとしてのアイデンティティを保ってきたわけですが、それを邪魔してくる要素のことをこのように例えることで、それらに対する気持ちがどれ程鬱々としているかを絶妙な状態で表していると思います。)

――自分の中では「頑張って」いることが、上手く評価されない、報われていないと感じてしまう。
周りみんなが自分に冷たくて、受け入れられていないと感じてしまう。
正しいと思って選んだ道だったけれど、間違っていたのは自分だったのかもしれないと思ってしまう。――

これ、自分に厳しいタイプの人が陥り易い典型的な負の無限ループだと思うのですが、ものすごく気持ちがわかります。特に、十代の頃はこういうことを常に心に秘めているような子だったと自覚しています。周りに「そんな時もあるよ」と言ってくれる人もいなかったので、気持ちの切り替えがうまくできず、自分を責め続けて辛くなると周りにあたってしまう。今でもまだそんな時があります。

常に自分にとって、周りにとって正しいことを選択しているつもりなのに、なぜか認めてもらえない。
報われないなぁ、なんで自分ばかり、と夜を迎える度に自問自答を繰り返す。

この楽曲は、そんな負のループを断ち切る術を教えてくれる曲なのです。


3.リセットのきっかけ

前出の配信にてナムさんは、「まだ誰も足跡をつけていない雪原を前にして一瞬息が出来なくなる感覚、そして少しずつ息ができるようになっていくその過程」について自論を展開しています。
歌詞に登場する「たった今舞い降りた雪」に関するエピソードです。

このまっさらな雪を前にした時の感覚にとても良く似た経験が私にもあって、その記憶があることによって生まれた手前味噌の散文がこちら…↓

雪の白は罪だ。
光も音も、温度すら奪う無敵の白。
そのひとひらは塵のようでも、時間をかけていつしか全てを覆い尽くす。
世界を蝕む、無敵の白。
そこに、肺の底で大事に大事に温めた息を渾身の力で放つ。
低く、長く丁寧に。
それはたちまちの内に片っ端から白く染まり、やがて漂う雲になって、そして全体の一部になる。抗う事無く。

6年程前にある作品の二次創作で書いた冒頭文なのですが、この文を書いた時に見えていた景色と、ナムさんの話を聴いて思い浮かべた景色がほぼ同じだったので、ちょっと嬉しくなりました。

この、「一瞬息が出来なくなる」感覚。そして「少しずつ呼吸を取り戻す」感覚。
これがこの楽曲のもうひとつのテーマである「リセット」に繋がる表現となっているのだと思います。

――やりきれなさ、ふがいなさにどんなに深く打ちのめされた一日であっても、零時が来れば必ずその日は終わり、間髪入れずに新しい一日が始まる。
まるで新雪を見たその一瞬のように、まっさらな一日を前にして息を吹き返すのだ。――

報われない、やるせないと感じる時、健やかな心を保つために、気持ちを切り替える「きっかけ」を積極的に作ることが必要な場合があるのではと思います。
それでもなかなかうまくいかないのが現実というもの。
この楽曲では、そんな難しい心のリセットが少しでも簡単に上手くいくように、「00:00」という誰にでも平等に訪れる一瞬の「きっかけ」を教えてくれているのではないかと思います。

何が起ころうと続いていく一見理不尽にも見える人生も、上手くリセットを重ねていけばきっと幸せになれるだろう。
彼らの歌声が、そのほんの僅かな瞬間チャンスを引き寄せてくれます。


最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
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