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Agust D "Snooze" 僕みたいに苦しまないで ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.102

僕を見て、夢を見ているあなたの後ろには
いつも僕がいるから あまり心配しないで
墜落が怖くても 喜んで受け入れてあげる
だから僕みたいに苦しまないで

Snooze (feat. Ryuichi Sakamoto, 김우성 of The Rose)


僕を見て、夢を見ているあなたの後ろには
いつも僕がいるから あまり心配しないで
墜落が怖くても 喜んで受け入れてあげる
だから僕みたいに苦しまないで

夢のためにうたた寝する君
休んでもいい
今日くらいは夢さえも見ず
あなたが僕に 言葉無く
微かな笑みを浮かべてくれる時
その時になってやっと初めて
心が少し和らぐよ

たくさん苦労することもある
僕が歩いて来たこの道が
花道のように見えたと思うけど
四方を敵に囲まれた
茨の道であったことを理解して
歩み始めることを願う

花を撒いてくれる人のことを
絶対に 君は忘れないように
彼らは君の笑顔で
一日を 生きて行くのだから
繰り返されるスケジュールの中
自分が 消される時
手に負えないのなら 大丈夫
あなたは少し 休んでもいい

存分に泣いてくれよ
世界が 憎くなる時
君を喜んで迎えた手が
後ろ指に 変わった時
大きくため息を吐いて
クソったれと叫んでもいい
君もまた、
誰かと違わない人間なのだから

この苦しくて孤独な道を
君はなぜ 選択したのか
その理由を
時が過ぎても絶対忘れるな
あなたたちの夢が
夢だけに留まらないことを願う
いつ どこであろうと
僕はあなた達を応援するよ

花びらが散って落ちゆく時
かばってあげるよ おやすみ
霧が晴れて 散りゆく時に
立ち去るよ じゃあね
花咲く夢

僕を見て、夢を見ているあなたの後ろには
いつも僕がいるから あまり心配しないで
墜落が怖くても 喜んで受け入れてあげる
だから僕みたいに苦しまないで

夢のためにうたた寝する君
休んでもいい
今日くらいは夢さえも見ず
あなたが僕に 言葉無く
微かな笑みを浮かべてくれる時
その時になってやっと初めて
心が少し和らぐよ

ここは銃声の無い戦場だよ
同じ仲間たちが敵なんだよ
数字が見せてくれる
残忍でありつつ綺麗な善悪
他人を殺せないなら
自分が死ななくてはならない
この床はリングじゃないのに
なぜ 誰かを殺さなくちゃならないの?

単純に好きだったことが
少し 嫌いになる時
願いが風に染みて
押し流されてゆく時
大丈夫
過ぎてみれば全てのことが
思い出で、学びになる
忘れるな
世界は忍耐力が然程長くは続かない
他人の論難を 絶対笑わないように
君にもまた
その瞬間が訪れるかもしれないから
君の成功は首輪であり
足かせになるだろうし
尚一層 綱を渡る気分が
君を締め付けるだろう
ただ 大きく笑い飛ばしてくれ
煩い世間が去って行くように
ただ 堪えてくれ
あなたがどこに居ようと
あなたたちの夢が
夢だけに留まらないことを願う
いつ どこであろうと
僕はあなた達を応援するよ

花びらが散って落ちゆく時
かばってあげるよ おやすみ
霧が晴れて 散りゆく時に
立ち去るよ じゃあね
花咲く夢よ

全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう

全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう
全て 良くなるだろう

夢よ
あなたの創造と人生の終わりで
共に在りますように
夢よ
あなたの居場所がどこだろうと
寛大でありますように
夢よ
ついに試練の果てで
満開となりますように
夢よ
始まりは微弱であろうとも
終いには壮大になるだろう
夢よ

最後の花びらが落ちる時
受け取ってあげるよ しっかりと
虹の終わりに着いた時
立ち去るよ じゃあね
花咲く夢よ

僕を見て、夢を見ているあなたの後ろには
いつも僕がいるから あまり心配しないで
墜落が怖くても 喜んで受け入れてあげる
だから僕みたいに苦しまないで

夢のためにうたた寝する君
休んでもいい
今日くらいは夢さえも見ず
あなたが僕に 言葉無く
微かな笑みを浮かべてくれる時
その時になってやっと初めて
心が少し和らぐよ

夢よ


韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6197081

『Snooze (feat. Ryuichi Sakamoto, 김우성 of The Rose)』
作曲・作詞: Agust D , 장이정, 坂本龍一 , WOOSUNG


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今回は、BTSのSUGAがAgust D名義で発表する三枚目の、また、商業的に発表される初のソロアルバムとなる2023年4月リリースの「D-DAY」収録曲 "Snooze" を意訳・考察していきます。

トラックリストが公開されたあの日、この "Snooze" の参加アーティストに心震えた方は多かったのではないでしょうか。

このコレボレーションが奇跡であるとか、必然であったとか、とにかく色々と特別な表現をしたくて仕方がない自分がいるのですが、どんな言葉を以てしても楽曲を聴いてただ「感じる」ことから得られる感動を追い越すことができません。

楽曲のテーマと音楽家の人生、そして音色。
まるでバラバラになっていたひとつの彫刻が逆再生で元の完璧な形に戻ったかのようにあらゆる何かを飛び越えて世に出たこの一曲を、心して読んでみたいと思います。



1.夢が満開になるように

楽曲 "Snooze" の制作時のエピソードについては、アルバムリリースに合わせて配信されたライブの中で語られています。↓

(57:25~Snoozeの話題)

本来2022年11月の完成を目指していたアルバム「D-DAY」でしたが、それが叶わずにストレスで痩せすぎてしまった為、大事を取って1週間ほど入院をした際に "Snooze" を制作。退院してすぐにレコーディングに取り掛かった、とのこと。

ここで自ら、楽曲 "So Far Away" との関係性について言及しています。

"Snooze" と "So Far away"、そして "Dear My Friend" は、共通した雰囲気をもつシリーズ楽曲であるとの認識が彼の中にはあるそうです。
そして今回、"So Far Away" からの引用箇所を設けた上で、「みなさんの夢が満開になるように願っていると必ず伝えたかった」という理由の元に一部歌詞に変更を加えています。

결국 시련의 끝에 만개하리 ※1
(ついに試練の終わりに満開になるだろう)
――"So Far Away"

https://btsblog.ibighit.com/365

결국 시련의 끝에 만개하길 ※2
(ついに試練の終わりに満開になりますように)
――"Snooze"

https://music.bugs.co.kr/track/6197081

※1 ~리(라)…~しよう、~するぞ/~だろう、~するつもりだ【強い意志・推量】(参考
※2 動詞+기를(~길)…~であることを祈る、~でありますように(参考

"So Far Away" は、確かな夢を持っていながらも学歴や職歴獲得の競争からは離脱することになり、感じなくてもいい劣等感に苦しんでしまっている若い世代に寄り添う楽曲です。↓

地上から空を見上げ「遠いな」と感じている
…のではなく、
自らが空からどんどん遠くへ離れている
=落ちている

という感覚が、進学や就職をそつなくこなしていく者たちに対して感じてしまう切実な劣等感を巧妙に表現しています。

彼自身が実際に10代の頃進路選択を迫られた際に感じていた気持ちが綴られている "INTRO: 화양연화" の歌詞も、この一連の作品をより深く理解するためには必ず読んでおいた方がよいでしょう。

「現役合格」「○○大卒」「新卒採用」という、目には見えない社会的なブランドイメージを個人の性格や能力よりも重視する風潮が日本にもあると思います。
子どもを塾に通わせて少しでも偏差値の良い学校に入れ、少しでも大きな企業に入るための地ならしをすることが努めだと盲信する親世代。
実質そこにあるのは個人の能力の差というよりは生活水準の差であり、残念ながら能力があっても這い上がれない環境にある人も確実にいます。

また、圧倒的多数の人が大学進学・企業への就職を選択することにより、普通とは異なる道を選んだ少数の非凡な人がまるで脱落者のように扱われがちであるのも現状としてあるのではと思います。

特に、エンタメやアートの世界で身を立てようとしたら、先の見えない下積み時代に金銭的な苦労をしなければならないという不文律は、きっとこの先ずっと無くなりはしないでしょう。圧倒的多数の人たちが消費することしかできない非凡な人の能力が、一体どれ程の努力の上に成り立っているのか、なかなか理解されないからです。
(故にフリーランスで働く人々が廃業を考える程不利な状況に追い込まれる制度が疑いなく成立してしまう)

"불타오르네(FIRE)"、"쩔어(DOPE)"、"뱁새(Silver Spoon)" でえがかれた階級社会の実情。
"INTRO: 화양연화"、"So Far Away" でえがかれた、目を開けたまま「夢」を見ることと引き換えに強いられる劣等意識。

そのような過酷な状況でも、自分の目標を見失わない決意と努力できる才能を持つことで「試練の終わりに満開になる」ことを身をもって実現した彼が、自分の姿を見てあらたに「夢」を持った次の世代に向けて贈る楽曲。

「後輩たちにしてあげたい話を書いた」「この曲を聴いて頑張って欲しい」と本人が語る楽曲 "Snooze" は、ただ単に高みから下を見下ろして書いたものではない、ということをここに示しておきたいと思います。


2.坂本龍一氏との邂逅

前述の配信でユンギはこうも語っています。
「僕が幼い頃に聴いて癒しを受けた音楽の香りが出たらいいなと思って("Snooze" の制作を)始めた」

坂本氏がユンギにとって、己の音楽ルーツに迫るにあたって欠くことのできないアーティストのひとりだったということは、2023年1月24日に公開された連載企画『10 Favorites – Ryuichi Sakamoto 私が好きな坂本龍一10選』第25回(最終回)の中でのコメントにてあらためて裏付けられています。↓

これまでも公の場で坂本氏の楽曲を好んで聴いていることを公言してきたユンギがご本人との対面を果たすことができたのは、ドキュメンタリー「SUGA: Road to D-DAY」での様子から2022年9月のこのインスタ投稿の時であったと思われます(坂本氏による『新潮』の連載記事にも記述あり)。

ドキュメンタリーで公開されている二人の対談の様子はぜひ(課金して)ご覧いただきたいです。本当に素敵なので。
この記事の冒頭で「バラバラになっていたひとつの彫刻が逆再生で元の完璧な形に戻った」と表現しましたが、当て所なく進むことだけしかできないはずの各々バラバラの時間が、実はたったひとつの絶対的な交点に向かって進んでいた、という、まるで秀逸な映画のシナリオでも読んでいるかのような身震いを私は感じました。

完成した楽曲のリリース、そしてライブでのお披露目を待たずに教授が旅を終えられたことも含めて、「人生は小説より奇なり」と唱えずにはいられません。

後のインタビューで対談のことを振り返っている記事がこちら↓


3.うたた寝する全ての人たちへ

2023年8月に韓国ソウルで開催された「SUGA | Agust D TOUR 'D-DAY' FINAL」公演では、"Life Goes On" を終えた後、"Snooze" へと繋がる際のVCRが通常公演の際に流されていた坂本氏への追悼文からグループメンバーとの思い出の写真たちに差し替えられました。

その演出が観る者にまた違う感動を呼び起こしたのは言うまでもありませんが、公演最終日、更なる感動はそのVCRの後に訪れました。

赤いストラップ、黒いエレキギター、スタンドマイク、そこに落ちるスポットライト、そして、涙。

そんなに泣いちゃうの???と見ていてハラハラする程しゃくりあげながら懸命にマイクに向かおうとする姿は私の目には何故か無性に幼く感じて…終わってしまうその日のステージと、完了してしまうD-DAYのスケジュール、そしてその後に待ち受けているであろう兵役履行のお知らせのことなどに思いを巡らせたら、このままずっと音楽を続けていきたいよ、と嗚咽しているように見えたのです。

LIVE直後のWeverse LIVEでは、"Snooze" あたりで込み上げてきたと堪えきれなかった涙の訳について自ら振り返っています。「(会場に)メンバーもいて、先輩方も来てくださって…幼い頃数々の先輩たちの姿を見て夢を育んで、自分がまた誰かの先輩になった。この10年が走馬灯のように過ぎて行ったんだよ」と。↓

アルバムリリース時の配信では、

・自分が後輩の立場だった時に言ってもらえたら苦しまずに済んだかもしれないと思う話をした。たくさんの後輩たちが聴いてくれたらいいと思う。
・歌謡界の人だけではなく、何かを成し遂げるために努力して、Snoozeうたた寝をしながら過ごしている全ての世代の方たちに捧げる曲である。

…などと楽曲の成り立ちを語ってくれています。

この10年、いや、彼が音楽との出会いを果たした幼いその時から切実に誠実に歩んできたその道から見えていたものが投影された歌詞は、決して手放しに心地が良いと形容できるものばかりではなく、時には生々しく、時には牙をむいたように鋭利で、「ただ、音楽が好きなんだ」という穏やかなひと言を唄えるようになるまでに長い時間を要しました。

この楽曲がリリースされたその日はまだある訃報が流れて間もなかったこともあり、"Snooze" の歌詞は初見で涙が溢れ、この曲が一日でも早く世界に届いていたならどうだっただろうかと勝手ながら思ったりもしました。
本当にひとりでも多くの人の耳に目に、この楽曲が届いて欲しいなと思います。




Agust Dの三部作最終章として位置づけられたアルバム「D-DAY」に名を連ねる楽曲の全てはこれまで発表されてきた彼の作品群の上に成り立っており、どの感情にも過去の葛藤と取捨選択の過程が活かされていて、今、この時に決着をつけることの重要性を聴けば聴くほど理解します。

D-DAYその日が遂にやってきました。
壮大なひとつのカウントダウンを終えた今、彼が次に見据える「その日」のことを、「Future's gonna be okay.」の心で待ちたいと思います。



今回も最後までお付き合い下さりありがとうございました。
🎹