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BTS "We Are Bulletproof Pt.2" 鉄でできた証【前編】〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.006

ラップモンスター
その名の通り 怪物のように
どんなビートであれ俺は丸呑みにする

We Are Bulletproof Pt.2

こっちによこせ
気張れよみんな
アレが親玉
俺たちは防弾だ


名前はジョングク スケールは全国区
学校に行く代わりに練習室で
夜通し踊り、歌声を鍛え上げる

お前らが遊んでる時
俺は夢に向かい眠る間も惜しんで
医者がメスを握るように
毎晩朝までペンを取る
そして陽が昇った後に目を閉じるんだ

不当な評価と数多の批判の中で
打ち砕かれた俺の限界
それでも運良く事務所に繋がることができたステージネーム

「歌が下手で
ラッパーをやらされてるお前らには
ラッパーという肩書きは贅沢だ」


どこへ行っても 俺は全てを見せてやる
地道に研いできた刃に見合うチカラを
俺を無視してた大勢の奴らに これからは

そう、叫べ!

俺程の事ができるもんなら石を投げろ
俺たちは命懸けだ 怖いものなんかない
ただ、こうして歌うのみ

俺程の事ができるもんなら石を投げろ
俺たちは命懸けだ 怖いものなんかない
ただ、こうして歌うのみ

こっちによこせ
気張れよみんな
アレが親玉
俺たちは防弾だ



俺のプロフィールを見てみろ
まだ何も並んでないだろ?
未だ練習生 そしてラッパー
わかってるって それが確かな事くらい
悩みもしたけど、もう必要無くなったよ

お前はまだアマ 俺はメジャー
ずっとそうやって腐ってやがれ

ラップモンスター
その名の通り 怪物のように
どんなビートであれ俺は丸呑みにする

ヒップホップに忠実なお子様たちよ こっちにおいで
そこで良く見てろよ 一介のアイドルの下剋上を
ハハ…プライドだけのセンパイ方は不可能だと言ったな でも
黙って見てろよ
不可能にピリオドを打って俺は成功する

さあ、もういいかい?


どこへ行っても 俺は全てを見せてやる
地道に研いできた刃に見合うチカラを
俺を無視してた大勢の奴らに これからは

そうだ、叫べ!

俺程の事ができるもんなら石を投げろ
俺たちは命懸けだ 怖いものなんかない
ただ、こうして歌うのみ

俺程の事ができるもんなら石を投げろ
俺たちは命懸けだ 怖いものなんかない
ただ、こうして歌うのみ

こっちによこせ
気張れよみんな
アレが親玉
俺たちは防弾だ


本家の歌詞はこちら
https://m.bugs.co.kr/track/3078009

『We Are Bulletproof Pt.2』
作曲・作詞:RM, SUGA, ​j-hope, “hitman” Bang, Supreme Boi & Jung Kook


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"We Are Bulletproof Pt.2"は、デビューシングル『2 COOL 4 SKOOL』収録曲。

’Bulletproof’の名を冠し、曲順としてもタイトル曲”No More Doream”より前に並んでいるという事から、この曲に対するメンバーの思い入れみたいなものが詰まった曲なのではと思いました。

それを裏付ける資料は無いものか、と探していたら、2013年デビュー当時の1stシングルに関するインタビュー記事を見つけました。

この記事にはタイトル曲以外の楽曲にパンPDの関与はないとあり、この曲にもメンバーの意向が活かされているのだという事がうかがわれます。デビュー時からかなり自主的な活動をしたり、させたりできる素晴らしい関係と環境があったことが良くわかる記事でした。

今回は、"We Are Bulletproof" シリーズ楽曲3曲のうち、2、3曲目にあたる2曲を前後編に分けて和訳・考察してみたいと思います。


1.名前

この曲を語る上で外せないキーワードは「名前」です。歌詞の中には、その者が何たるかを表すための「名前」にあたる単語がいくつか登場します。

■ Rap Monster

まず注目したのはRMのかつてのステージネームである「Rap Monster」。デビュー前にSoundCloudにて公開されたソロ曲 "Rap Monster" を紹介するブログ記事に「今の僕の芸名がラップモンスターになった悲しい伝説」とあるように、この曲の歌詞をきっかけにラップモンスターは爆誕したようですが、本人的には当初あまり気が進まなかった名前のようです。
そして、その「悲しい伝説」にまつわると思われる部分が、この曲の中で最も翻訳に行き詰った部分でした。

「재수 좋게 회사에 컨택된 속칭(直訳:縁起良く会社にコンタクトされた俗称)」

ぞ、俗称…?

「会社」はおそらく所属事務所の事だとすぐに予想がついたのですが、この一行は私なりに納得がいくまで何度も推敲しました(「運良く事務所に繋がることができたステージネーム」となりました)。

悩みの種は「俗称」が指すものが何なのか、という事。

グループ名の「防弾少年団」も候補に挙げましたが、最終的には歌詞後半で登場する「ラップモンスター」の方を選びました。先にも書いた通り、ナムさんは当初こう呼ばれることに抵抗があったようです。その気持ちが「俗称」というちょっと距離感のある単語を選んだ理由なのではないかと思ったのです。

ナムさんの事務所所属にまつわる話はこちらにも詳しくありました。

「반해 재수 좋게(縁起良く)회사에 컨택된(会社に繋がった)속칭(芸名)」

「ラップモンスター」というフレーズが繋いだパンPDとのご縁が、ナムさんの人生を変え、防弾少年団が誕生するきっかけとなった。
この一行はバンタンの歴史の上だけではなく、この歌詞の中でも大事なターニングポイントになります。

■ ラッパー

次に取り上げるのは「ラッパー」です。

노래 못 해 랩퍼를 당한 너희에게
(歌が出来なくてラッパーをやらされてるお前らに)
랩퍼라는 타이틀은 사치
(ラッパーというタイトルは贅沢)

https://m.bugs.co.kr/track/3078009

かなり衝撃的な内容の言葉が唐突に登場します。ここはおそらく、どこぞの誰かから投げつけられた言葉がまんま書かれているのでしょう。
インタビューを数本読んだだけでも、防弾少年団が体現する新しいスタイルに対して数々のバッシングがあった事がうかがえました。

より良い言葉を生み出す為、オペをする医者の様な気持ちで夜な夜なペンを握り続けてきたナムさんにとって、ラッパーというポジションは消去法で辿り着いた場所ではないし、ましてや「당한(やらされている)」訳でもないので、これには相当カチンときたに違いないと思います。

そしてそんな心無い言葉たちに対して彼が選び取った答えがこの後紡がれていきます。

■「忠実な名前」

終盤にかけて、歌詞の内容は徐々に挑発的な内容になっていきます。

충실한 이름값 얘들아 이리와
(忠実な名前に値する子供たち、こっちへおいで)

https://m.bugs.co.kr/track/3078009

この「忠実な名前」がまた訳すのが難しかったのですが、そのヒントはその後に出てくる「힙부심」という言葉にありました。
この힙부심ですが、しぶとく調べてみるとこんなページに行き着きました。

힙부심=힙합 + 부심
(ヒップホップ+負心)

https://namu.wiki/w/%ED%9E%99%EB%B6%80%EC%8B%AC

「自分がやっている音楽(Hip Hop)が最高」と悦に入る心理的傾向の事を指すようで、特にヒップホップ界隈に於いては新しい事を始める他者を攻撃しがち、という感じの事が書いてありました。
この概念から推測するに、「忠実な名前」は「既存のヒップホップに忠実である」という先人達の名前、ということになるのではないでしょうか。

そして、その先人達の事を「얘들(子供たち)」としれっと冷やかしています(笑)
おまけに「이리와(こっちにおいで)」とまで言ってのけています。
頼もしいですねw なんだか姿が目に浮かびます。

랩몬스터, 말처럼 괴물같이 무슨 비트든 간에 난 싹 집어삼켜
(ラップモンスター、言葉通り怪物みたいにどんなビートであれ俺はすっかり飲み下す)

https://m.bugs.co.kr/track/3078009

これはナムさんの決意表明ですね。
反撃ではなくどんな攻撃も「飲み込む」事を選び、どんな音楽も吸収して自分の糧にする、そんな壮大な気位を感じます。
「ラップの怪物」という二つ名が、彼の防弾装備を更に堅固なものにしたに違いありません。

2.研いだ刀の使い道

この歌詞の中では、今まで積み上げてきた努力の量を「칼을 갈아왔던 만큼(刀を研いできた分)」という表現に置換しています。

刀を研ぐ。

この表現は、日本刀の国である日本人にもしっくり来るものだと思います。無心で刃を研ぎ続ける刀鍛冶の姿を思い浮かべると、その真剣さ、覚悟の大きさが伝わってきます。

そして、ナムさんにとって言葉は武器なのだという事も。
でもここで見落としてはならないのは、その武器をどう使っているか、という事です。

we juss sing it like
(俺たちはただそれを歌うだけ)

https://m.bugs.co.kr/track/3078009

言葉で攻撃されても、反撃はしない。
磨いた言葉は、ただ歌うためだけに使う。

「人にやられて嫌だった事があったら、同じ事を誰かにしない」とは私が子供たちに常日頃呪いのように言って聞かせている事なのですが、まさにこれだな、と。
「防弾」に徹する彼らは、決して攻撃に転じない。ただ、研いだ刀の輝きでもって人を圧倒するのみ。

3.石を投げろ

나만치 해봤다면 돌을 던져
(俺くらいやったなら石を投げろ)
우린 겁이 없어
(俺たちは恐れが無い)

https://m.bugs.co.kr/track/3078009

俺くらい努力ができるもんならやってみろ(いや、できる訳がないだろう)。と、この場面でも幾分挑発的な言葉が並びます。

強気な発言を後押しするのは、先述の攻撃的な負心の象徴として登場した「힙부심」とは真逆の、自分のスキルで自らを守る鎧のような自負心。
「俺くらい」のレベルが桁違いだと自分でわかっていて、故に恐いものがない。気持ちいいです。スカッとします。

石を投げるという行為は、歴史上、あるいは今も尚争いが続く地域では実際物理的に行われてきた(いる)攻撃手段ですが、日々を平凡に生きる者にはちょっとピンと来ないですよね。でも、その石を言葉に置き換えるとどうでしょう。毎日どこかで、誰かが誰かに石を投げているように思います。

そんな石礫からどうやって身を守り抜くのかを、この歌詞は教えてくれているのかもしれません。

4.そして戦いは続く

Pt2の歌詞は、全編通して「戦いの真っただ中」というイメージです。
冒頭や随所に挟まれる号令のようなフレーズも、弾丸が飛び交う中で小隊が自負をもって団結し、生き抜こうとしている姿を思い浮かべることができます。

デビュー当時、彼らが置かれていた困難な状況はたくさんの資料からも伝わってきますが、この歌詞を読み解くと当時の切実な状況がより伝わってくるような気がします。

そしてその後も地道な努力を怠らず防弾術を極めた彼らが、あらためて「Bulletproof」である事の意味や影響、過去と今を考えた曲を後に作り上げるのでした。


後編に続きます。

最後までお読み下さりありがとうございました。

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