『豪腕』を途中まで読みました

 トミー・ジョン手術を扱ったルポルタージュ『豪腕』を途中まで読みました。途中まで、というのは後半を読み進めるかどうかちょっと怪しくなってきたからで、ともかくここまででいったん感想めいたことを書き留めておこうと思います。
 細かいことをいうと第6章までは結構淡々と肘の故障と手術の話をしていて、私もちょこちょこメモを取りながら読んでいたのですが、第7章に入った途端、書き手が代わったかのように個々人の個別のドラマを描くのに比重が移り、あくまで個人的な好みとして、読むのが少々面倒くさくなりました。読み飛ばすにせよ読むのをやめるにせよ、うろうろ迷っている内にいま思っていることまで忘れそうなので、とりあえず記録。雑な読み方で申し訳ないです。

 ここまで読んだところで知ったのは、トミー・ジョン手術をした後に、支障なく長く投げ続けている・投げ続けていた投手はそれほど少なくはないのかも、ということでした。何某さんが数年、何某さんは10年以上、などと読んでいると、確かにうまくいけば〈安全な治療法〉に思えます。ただまあ、そういうことを扱う論文ではないので、このレベルの成功例が全体の何割か、みたいなことまではわかりません。いったいぜんたい、肘の内側側副靭帯を断裂した人はどれくらいいるのか、手術を選択したのはその何割か、手術が成功したのは何割で、その後の選手寿命は短い人・長い人でどれくらいで、平均して何年くらいか、みたいな部分を知らないことにはやっぱりよく分からないなあ……となりました。もちろんこの本は、そこを書くのが狙いではないでしょうから、本として不足があるというのではないです。


 そもそも論で言うと、損傷しているのは靭帯なのだなあ、というところに改めて意識が向きました。筋・腱・骨は〈肉体労働〉系の組織で、関節を支え・動きを作るために力仕事をしています。その部分が断裂・骨折するのは要は筋肉の足並みが揃わなかったせいで、伸びるべき筋肉がうまく伸び損ねたせいでどこかが切れた・壊れた、と、理解しやすい。
 でも靭帯は、私の理解では力仕事をしていません。靱帯は、骨と骨を適度な距離でつなぎ〈伸び〉を感知するセンサーであって、肉体労働よりは〈神経〉系、筋肉に対する現場監督のようなもので、「ヤバい、伸びてるよ! 筋肉もっと縮んで!」と指示を飛ばす係です。本来であれば、靭帯が切れるよりずっと前に、指示を出して筋肉を縮ませて、靭帯ごと関節を保護させる、というのが靭帯の働きです。

 スキーやバレーボールの最中に膝の靭帯を断裂するのは体重を載せて膝をねじるからです。足の裏は地面で固定され・上半身はがっつり体重を預けている状態でひねりの力が掛かると、筋肉が全力で収縮してもひねりの勢いは戻せません。筋力的にできない。たぶん、とっさに取りうる最善策は足の裏の固定を外す=うまくひっくり返って、膝にかかる力を足先から逃がす、しかないだろうと思います。
 ところが投球動作の肘の場合、体重を載せているわけではなく、指先のほうはフリーです。それで靭帯を断裂するのなら、そのときの筋肉はどんな状態になっているのか。変化球と速球とで起こる確率は変わるのか。大リーグのボールは滑りやすいから余計に危ない、とは聞いたことがあって、確かにそれはありそうに思えます。肩からの力をボールに向けて連鎖させる際に、指先に力が入っていると妙な形で力の連絡が混ざりますから。でも、日本のプロ野球でも、もっと若年者にも起こっているから、それだけが理由ではないでしょう。

 靭帯に絡めてもう一つ気になるのは、トミー・ジョン手術では、切れた靭帯の代わりを腱にさせていることです。靭帯と腱は、素材的には確かに似たようなものかしれませんけど、〈伸び〉に対するセンサーの役割が靭帯の仕事とするなら、骨に穴をあけて腱を通し、それで骨同士を縛って固定する、なんて靭帯の仕事とはまるで無関係な単なる〈固定役〉扱いで、そんな手術に意味はあるのかなあ?と、私には疑問です。手術して、肘周りをあちこち傷つけたせいで癒着ができて、その周囲の筋肉レベルの〈動きの自由度〉が小さくなったおかげ(?)で逆説的に肘関節が何とか使えている、だけなのではないか?と思えます。
 もしそうなら、トミー・ジョン手術をした後の人に私はどんな整体をすれば良いのだ……? 施術に併行して、適切なフォームの変更というか身体の使い方の配慮みたいなのを加えてもらわないと、変に悪化させてしまうような気がする……。うーむ……。

 投手によっては内側側副靭帯を傷めることなくキャリアを終える人もいるようなので、ボールを手放した後の腕の使い方というか力の逃がし方を工夫して、そもそも肘に優しい〈投げ終わり方〉を追求するほうが王道なように思います。

 と、そんなような感想を持ちました。
 ひょっとすると、ピッチャーばっかり30人くらいに集まってもらって継続的に施術をすれば、整体屋として何かしらパターンは見えてくるのかも、とは思いますが、へなちょこなキャッチボール以上の経験しかない私には、そもそもあの距離をあの精度で100球とか投げるなんて想像すらできませんから、どんな本を探しても、「結局読んだだけではようわからん……」となるのがオチでしょうね。でもピッチャーばっかり30人って……もう論文やん、のレベルですね……。


 『豪腕 使い捨てされる15億ドルの商品』
 ジェフ・パッサン著 棚橋志行訳
 ハーパーコリンズ・ジャパン 2017年


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