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人生は旅だから

私と友人は、話ができて、軽食とデザートにパフェが食べられる店という理由から、ファミレスを探し歩いていた。

金曜日の夜というのもあり、どの店舗もなかなか混み合っていたので、3店舗目に訪れた店で諦めて並ぶことにした。

私たちの前には6組の待ち人たちがいたが、待ちきれずに撤退して行った組がいたらしく、次の次の呼び出しで着席することができた。

向かい合わせに座り、それぞれの前に置かれたメニューを見ながら、「これも美味しそう」、「あれも美味しそう」と指さして、「わかる、それも捨てがたいよね」と同調し合った。

ちょっと恥ずかしいのだけれども、ファミレスって好きだ。

中学生のときに、初めて友人たちとガストへ行ったときの感動をいまだに忘れられない。

私は基本的には何でも食べられるが、食の好みが偏っているので、数多の魅惑的な写真のついたメニューの中から、どれにしようかと悩めることが贅沢に感じられた。

結局そのときは、友人たちからの横槍と惑わしを受けつつも、小一時間かけて、ハンバーグステーキとライスのセットを注文した。

選択した達成感もあり、とても美味しかった。

私がファミレスを好きなのは、もちろん美味しいからではあるものの、やはり選ぶ楽しみを味わえるからだろうと思う。


メニューの端から端まで友人と目を通したうえで、私はグリルチキンのサラダと、チョコレートアイスの乗ったバナナパフェを注文した。

注文を終え、友人が水を取って来てくれると言うのでお願いして、彼女に相談したいことを頭で整理しながら、遠くの壁の辺りをぼんやり見つめていた。

それまで気が付かなかったが、左隣の席にいた大学生くらいの男女が、青春18きっぷを使ってどこへ旅行に行くかを話していた。

もうそろそろそんな時期か、と思っていると、女の子が「いっそのこと、北海道まで行ってみるのはどう?」と提案した。

青森から北海道って在来線は通って無かったよな、どうだったかなと、私はスマホを取り出して調べた。

彼女の提案に、男の子は煮え切らない返事。どうやら旅行に行きたいのは女の子だけで、男の子は旅行には興味がなさそう。

というより、今日この店を出た後の事で頭がいっぱいのようだった。彼は、手を伸ばしてテーブル越しに彼女の身体を触り出したのだ。

ギョッとして思わず彼女の方を見てしまったとき、ようやく友人が戻ってきた。

思わず、手を組んで心からのありがとうを言った。

その後も気になってしまって、ときどき左隣のふたりの会話を盗み聞きしていたのだが、彼女の提案する旅先の候補地を聞いていると、具体的にどこへ行きたいというわけではなく、ただふたりでどこか遠くに行きたいというだけのようだった。

「そのときは道に迷ったり、色々あるかもしれないけど、数年後にはいい思い出だったねって笑って話せるようになるよ。それって素敵なことじゃない?」という彼女の言葉に押され、目的地は決めず、とりあえず来た電車に乗ってみるという、なりゆき旅に決定したようだ。

ふたりの旅路はどうなるのだろう。青春18きっぷを使った5日間のことだけじゃなく、これからの全てにおいて。

分岐点に差し掛かったときに、どの方角へ行くのかをふたりで話し合って吟味することに楽しみを見出せるようになったら、きっと。