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感触

 午前10時を回ったので、暇つぶしに外に散歩することにした。日焼け止めクリームを塗ってから帽子を被る。5月も終わりに近づくと太陽の光が重さを増してきて、皮膚に重くのしかかってくる。
 私は日光が苦手だ。女性であるので、肌は白く透き通るようにいたい。もし彼に会った時に、少しでも儚げで美しい姿でありたいと願うからだ。
 駐車場の車止めブロックをなんとなく踏みつけながら歩いてしまうくせがある。バランス感覚を養うためと言い聞かせながらチャレンジしてしまう。その時、こんなことを考えている。もし、バランスを崩して踏み外すことになれば、私は顔面からコンクリートに打ち付けて、顔に傷ができてしまうかもしれない。そんな姿を彼に見せる訳にもいかず、さらに傷が痕になってしまっては、今までの努力が全て水の泡になる。考えるだけで肝が冷っとするが、私はチャレンジしてしまう性格なのだ。
 ブロックを踏み終えたので、ふと顔を上げて空に目を移す。その時、彼がふと手を取ってくれた感触がした。チャレンジが終わった後に手を差し出すところが彼らしいと思える。彼と手を繋いでいる感触のまま、雲を観察する。
 雲は一つ一つが厚みがあり、少し黒っぽい色が見える雲もあった。空気は重たく、蒸しかえる草花の匂いは重たい感触である。春の軽い日差しから、重たい太陽の光へと変化し、空気全体の感触は濃く、重たくなってきている。
 「夏がほんの少し混ざってきたね」と彼に話しかけると、彼は、私の手をきゅっと握り返してきた感触を確かに感じた。

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